ビジランテ
骨太なノワール作品でした。入江監督の作品はSRシリーズ(ドラマ含む)の全てと『22年目の告白』を観ているけども、この作品がもっとも言葉を費やすのが難しい多層性のある物語だと思った。ネタバレあり。
―2017年公開 日 125分―
解説:「22年目の告白 私が殺人犯です」の入江悠監督によるオリジナル脚本作品。幼い頃に失踪した長男、市議会議員の次男、デリヘルの雇われ店長の三男。父親の死をきっかけに再会した3人だったが、それぞれの欲望や野心、プライドがぶつかり、運命を狂わせていく。出演は「アウトレイジ 最終章」の大森南朋、「ライアーゲーム」シリーズの鈴木浩介、「彼らが本気で編むときは、」の桐谷健太、「RE:BORN リボーン」の篠田麻里子。撮影を「幼な子われらに生まれ」の大塚亮、音楽を「笑う招き猫」の海田庄吾が担当する。(KINENOTE)
あらすじ:閉鎖的な地方都市。幼い頃に失踪した長男・一郎(大森南朋)。地元の市議会議員として身を尽くす次男・二郎(鈴木浩介)。デリヘルの雇われ店長の三男・三郎(桐谷健太)。別々の道、世界を生きていた3人であったが、父親の死をきっかけに一郎が30年ぶりに戻って来る。やがて、深く刻まれた逃れられない三兄弟の運命は再び交錯し、欲望や野心、プライドがぶつかり合い、事態は凄惨な方向へと向かっていく……。(KINENOTE)
監督・脚本:入江悠
出演:大森南朋/鈴木浩介/桐谷健太/篠田麻里子/嶋田久作/間宮夕貴/吉村界人/岡村いずみ/菅田俊
感想
地方の閉そく感
このブログでは何度か地方都市や村社会の閉そく感のある作品について触れたような覚えがあるけども、それは海外の作品についてであった。それに対して本作は、俺の生きる現在の日本の地方都市が舞台となっており、しかもそれが、自分も幾度も足を踏み入れ知人も暮らしている埼玉の街なわけだから、その今性みたいなのを色濃く感じる内容であった。
俺は生まれてこのかた東京都民ではあるが、神奈川や山梨、埼玉に近い都市(つまり八王子)で育ち、自分の両親は新潟から移り住んできた人間なので、この作品で描かれるようなコミュニティで育ってはいない。
育ってはいないのだが、その土地で生きる人間たちが形成する社会のしがらみや、その中で生き続けることの面倒くささや、退廃ぶりみたいなものは、鑑賞している最中、なぜかリアルに感じて息詰まるような嫌さを感じたのである。
全員糞だが、光もある
なぜそう感じたのかはよく分からない。よく分からないんだけども、これが、俺の生きる社会の、嫌な意味での現実なんだって思わされる力をもった作品だと感じたのだ。そして、嘘か誠かなんて知らんけども、きっと世の中って、こうしたしがらみの中で権力を行使できる一部の人間によって動いているものなんだと思わされる力を、この作品は有していると思った。
それはこの作品が、糞みたいな権力者をディスった内容なのだとかいう、一面的なことを言いたいのではない。権力者に関わらざるを得ない人間や、積極的に関わりたがる人間や、利用してうまくのし上がりたい人間や、つかず離れずいたい人間や、眼中にない人間や、様々いるんだけども、そうした人間らの多くを作中に登場させ、群像劇的ほどには各人の細部を描かなくても、登場人物らの動きや思惑を明確にわからせてくれるような描き方をしているところに、この作品の重みというか、説得力を感じるのである。
その説得力についてもう少し自分の感じた印象を述べると、本作は権力者のみならず、人間はほぼ全員糞だと言っていて、鑑賞者もその中の一人であることを突きつけてきながらも、主人公側の長男と三男やその周辺人物らの行動によって、ある種の光の部分も見せているように思えた。
この感想は作品全体に対してのもので、細部についてはまだまだいろいろ言及したいことはあるけども、それは個人的な善悪の基準の話なので、やめておく。面白い作品でした。
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