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映画 ひとつの太陽 ネタバレ感想 ネットフリックス配信 台湾の家族ドラマ

ひとつの太陽
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ひとつの太陽

ある家庭に訪れる悲劇と、その再生にまつわる物語。冒頭からいきなりラストに関わるネタバレをしながら、本作に出てくる父の存在について。そして、ある人物の自殺の動機や彼のセリフの意味を考えた。

―2019年製作 台 156分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:次男の逮捕をきっかけにバランスを失った家族の崩壊と再生を描き、第56回金馬奨で作品賞など5冠に輝いた台湾発のヒューマンドラマ。チェン家の次男アーフーが事件を起こし、少年院に送られた。自動車教習所の教官である父アーウェンは問題児のアーフーを完全に見放し、医大を目指す優秀な長男アーハオに期待を寄せる。母はどちらの息子にも同様に愛情を注いでおり、夫婦の間には諍いが絶えない。ある日、アーフーの子を妊娠したという15歳の少女シャオユーがチェン家を訪れる。さらに追い打ちをかけるように、突然の悲劇が家族に降りかかる。監督は「ゴッドスピード」「失魂」のチョン・モンホン。2019年・第32回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門上映作品。(映画.com)

あらすじ:問題を起こしてばかりの弟が少年院に送られたことをきっかけに、家族としてのバランスを失った一家。絶望のどん底で、さらに予想もしない悲劇に見舞われ…。(FILMARKS)

監督:チョン・モンホン
出演:ウー・ジェンホー/チェン・イーウェン/コー・シューチン

ネタバレ感想

ラストに希望はなくもない

ネットフリックスで配信が始まって以降、気にはなっていたものの、暗そうだし尺も長いのでなかなか手を出す気になれなかった作品。こうして鑑賞してみると、やっぱり暗い内容だった。んで、それぞれのシーンの描写がちょっと冗長な感じもある。静止画ってわけではないんだけども、登場人物たちの動きを単に映し続けているだけで、それが長く感じてしまうようなシーンが散見された。

それは作り手が意図的にやっていることなので、いいと思うんだけど、もう少し短くまとまっててもよいのではないかとは思った。

ただ、内容自体はラストに少しだけ希望を感じさせるところがあって、暗いだけの話に終始していないところは好印象。いい作品だったなと思えた。

ラストの、アーフーと母親の描写。あの場面だけを切り取って観れば、幸福と言えば幸福な終わり方ともいえる。

父親の存在は家父長的

アーフーと父親の関係について言うと、父親のほうに問題が多かったように思うが、ラスト近くの描写で、父は父なりに次男=アーフーを愛していたことがわかる。物語冒頭でアーフーが少年院送りになるまで、父はアーフーを放任し続けていた。この父親は、優等生の長男、アーハオともさほど向き合っていないように見える。

『今を生きろ。我が道を行け』が彼のモットーというか、彼自身はその言葉どおりには生きていないものの、息子たちにはそういう言葉を投げかけ、それ以上のコミュニケーションは取らない。その親子間の分断が長男アーハオの自殺につながっている部分もあったかもしれない。次男アーフーの非行とその結果、少年院送りになることには、明確なつながりがあるように思える。

台湾家庭の父子というのは今でもこのような、日本でいうなら昭和的とも言えそうな親子関係があるんだろうか。もちろん、こういうコミュニケーション不全の親子関係というのは、時代背景云々を抜きにして考えても、少なからずいつの時代にも存在するものなのかもしれないが。

要するにそれは、家父長的な家族ということだ。家父長制のすべてが悪いわけではないが、さして実力があるわけでもなく、家族に対して責任も果たせていない今作の父親のような存在に家父長的な地位を持たれていることが、この家族の崩壊に影響しているのは間違いないと思われる。

太陽は公平だ。自殺の動機は何か

そしてこの物語、まったく筋を知らずに鑑賞すると、アーハオの自殺が唐突すぎて、どうして彼が自殺をしてしまったのか、ラストまでその動機がはっきりとはわからない。しかし、自分自身の経験も踏まえて言うなら、自殺する人の動機ってわからないことのほうが多いもんではなかろうか。残された人間が、区切りをつけたいがために、何らかの解釈をする。そうやって死者との決別を果たそうとするーーそういうもんではないかと。

であるからアーハオの自殺については、その確たる動機のない部分にリアリティを感じた。ただ、遺書もなく、なぜそういう行為を選んだかについて、本人が何の痕跡も残さずに逝ってしまった場合、残された人間にとっては、かなりツライものであることは変わらない。どう解釈をしたって、それは解釈でしかなく、本人の心が届いてくることはないからだ。

「太陽はすべての人間に公平だ」というアーハオの太陽評は、この映画のタイトルにも関係があるものだろう。この作品ではときおり、空を見上げたようなアングルで太陽の光を映した描写が出てくる。アーハオの言うように、太陽は確かに、いつでも同じように人々の頭上にあり、光を照らし続けている。その意味において公平だ。どんな人生を生きている人間にとっても、光の量は同じである(天候がどうのとか野暮なことを言わないでおくのであれば)。

アーハオのこの言葉はどう理解すればいいのだろうか。彼は「日を浴びるよりも日陰にいたい」という。つまり、光に照らされたくないのだ。陰にいたいのだ。これはおそらく、人生を生きることに対する絶望感を言っているのだと思われる。

彼の自殺の動機は、そういうところにあるのだろう。生きることに希望がない。性格も容姿もいい女の子と付き合うようになっても、彼にとってはそれが生きる希望につながっていかなかったようだ。頭がよかろうが、優しい性格で周囲の人に好かれてようが、彼にとってはその評価が、生きることに対しての前向きになる要素になることはなく、生きる理由が何も残っていなかったのだと思われる。それが、弟が少年院に入ったことに関係があったのかどうかは、よくわからない。

父親の人生は日陰

長男は逝ったが、次男が家庭を持ったことで母親は輝きを取り戻す。次男は自分のまさに目の上のタンコブだった人間の死により、普通の生活ができるようになるであろう未来に希望を見出した。ただ父だけは、日陰を生き続けるだろう。自分が手を汚して次男の生活に光をもたらしたことを明かすこともなく。

この作品はネットフリックスで鑑賞できます。ちなみに、俺は台湾映画の中では『モンガに散る』っていう青春ヤクザ者映画が好き。いずれ機会があれば紹介したい。

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