希望のかなた
―2019年公開 芬 98分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説;2017年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞したアキ・カウリスマキ監督作。フィンランドの首都ヘルシンキ。生き別れの妹を探すシリア難民の青年カーリドは、差別や暴力に晒されるなか、レストランオーナーのヴィクストロムと出会い、彼の店で働き始めるが……。出演は、本作が長編初主演となるシェルワン・ハジ、「過去のない男」のサカリ・クオスマネン、「街のあかり」のイルッカ・コイヴラ、ヤンネ・ヒューティアイネン。(KINENOTE)
あらすじ:フィンランドの首都ヘルシンキ。港の船に積まれた石炭の山から、煤まみれのシリア人青年カーリド(シェルワン・ハジ)が現れる。内戦が激化する故郷アレッポからヨーロッパへ逃れた彼は、差別や暴力に晒されながらいくつもの国境を越え、偶然にもヘルシンキに流れ着いたのだ。駅のシャワー室で身なりを整え警察へと出向いたカーリドは、堂々と難民申請を申し入れ、中東やアフリカからの難民や移民で溢れる収容施設に入れられる。入国管理局での面接で、カーリドは故郷での悲劇を明かす。誰の仕業かもわからない空爆によって彼の家は破壊され、家族や親類も命を落とした。さらに家族でただ生き残った妹ミリアム(ニロス・ハジ)とは、ハンガリー国境での混乱で生き別れとなってしまった。カーリドは面接官に、今の唯一の望みは妹を探し出しフィンランドに呼びよせることだと語る。一方、ヘルシンキで衣類のセールスをして暮らすヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は、冴えない仕事と酒浸りの妻(カイヤ・パカリネン)に嫌気がさしていた。ヴィクストロムは無言のまま結婚指輪を妻に残し、愛車のクラシックカーに乗りこみ家を出る。彼はレストランオーナーとして新しい人生を始める夢を抱いていた。シャツの在庫を処分した金すべてをポーカーにつぎ込んだ彼は、ゲームに大勝し大金を手にする。こうして彼は“ゴールデン・パイント”という名のレストランのオーナーとなった。店にはベテラン従業員もいるというふれこみだったが、実際にはやる気のない調理人が作る料理はミートボールと缶詰めのサーディンのみ、常連客はもっぱらビールを飲むばかりで儲けもわずか。だがそこはひと昔前から時が止まったかのような店で、風変わりだが気のいい従業員たちに囲まれ、ヴィクストロムは自分の居場所を築いていく。ある日、当局はカーリドをトルコに送還する決定を下す。カーリドは妹を探すために不法滞在者としてフィンランドに留まることを決意。収容施設から逃走するが、街中で“フィンランド解放軍”を名乗るスキンヘッドのネオナチに襲われかける。そんな彼に救いの手をさしのべたのはヴィクストロムだった。店のゴミ捨て場で寝泊まりしていたカーリドと、一度は殴り合いになりながらも、ヴィクストロムはカーリドをレストランに雇い入れる。さらに食事に寝床、偽の身分証まで用意してやるヴィクストロムの姿に、やがて従業員たちもカーリドを受け入れていくのだった。そんななか、ミリアムがリトアニアの難民センターで見つかったとの一報が届く。ヘルシンキにたどり着いたミリアムと念願の再会を果たしたカーリドの未来に光が差し始めたかに見えたその時、スキンヘッドのネオナチが再び彼の前に現れる……。(KINENOTE)
監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ/サカリ・クオスマネン
ネタバレ感想
シリアからフィンランドのヘルシンキに流れ着いた青年カリードの物語。図らずもこの国にやってきた彼を、受け入れる人もいれば、そうでない人もいる。受け入れる側の代表格は、妻に愛想をつかせてワイシャツを売る仕事を辞めて、ギャンブルで増やした金を元手にレストラン経営を始めるヴィクストロムだ。
ヴィクストロムは冷たいようでいて結構な良い人で、カリードに対してあれこれ世話を焼いている中で、心変わりしたのか妻と生活をやり直す決意をする。その辺の心変わりのきっかけがどこにあったのかよくわからんが、カウリスマキ監督の作品の登場人物たちは感情を表に出すことが少ないので、この作風に親近感みたいのが湧かないと感情移入もしづらいかもしれない。ところどころ挿入される音楽の演奏シーンが、カリードのその都度の気持ちを表してるような感じもするんだけど。
いずれにしても、この淡々とした物語展開がいいのだ。どの作品でも自分の境遇をありのままに受け入れて生きる庶民の生活を描くカウリスマキ監督の視点には、人に対する優しさを感じる。
この作品はユーモアもけっこうあって、ジャンル的にはコメディに分類されている。一番ニヤニヤしてしまうシーンはもちろん、ヴィクストロムがレストランを寿司屋に転換するところだ。あんな滅茶苦茶な寿司があるかよと思う。ご飯の上に魚の切り身というか塊を乗せて、さらにワサビてんこ盛り(笑)。日本人観光客の団体を招き入れた営業力はすごかったが、あれでうまく行くと思うほうがどうかしている。
ラスト、カリードは彼を受け入れないが代表格だったフィンランド解放戦線を名乗るネオナチの男の襲撃を受けて腹を刺される。そのあと脅威の耐久力で妹を移民申請に行かせた彼は、木に寄りかかって犬と戯れつつ笑みを浮かべながら煙草を吸う。
彼はその後、死んでしまったのか生き続けたのか、生死は不明。だが、彼は妹との再会を果たすという自分の人生の目的を果たしたので、死のうが生きようがどちらでもよかったのかもしれない。
このご時世の割には室内でも外でも煙草を吸うシーンが多く、フィンランドはその辺はおおらかなんだろうかと、関係ないことも気になった(笑)。
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