浮き雲
―1997年公開 芬 96分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:失職した夫婦が苦節の末、希望を見いだすまでを、簡潔ながら豊かなタッチで描いた一編。監督・製作・脚本・編集は、「マッチ工場の少女」「愛しのタチアナ」などのフィンランドの異才、アキ・カウリスマキ。撮影のティモ・サルミネン、美術のマルック・ペティレとユッカ・サルミ、録音のヨウコ・ルッメ、衣裳のトゥーラ・ヒルカモらはカウリスマキ組の常連。出演も、カティ・オウティネン(「マッチ工場の少女」)、カリ・ヴァーナネン(「ラヴィ・ド・ボエーム」)ほかカウリスマキ組の常連。なお、本作は、前作までカウリスマキ作品の顔だったマッティ・ペロンパー(95年死去、本作ではポートレートの写真で特別出演)に捧げられている。97年キネマ旬報外国映画ベスト・テン第3位。(KINENOTE)
あらすじ:ヘルシンキ。かつての名門レストラン”ドゥブロヴニク”で給仕長をつとめるイロナ(カティ・オウティネン)と、市電の運転手ラウリ(カリ・ヴァーナネン)の夫婦は、慎ましくも幸せな生活を送っていた。ある日。ラウリは不況のため、リストラの憂き目に。妻にもいえないまま退職を迎え、酒の力でようやく告白できたはいいが、今度は再就職もままならず、酒を飲んでいるだけの日々に。一方、”ドゥブヴロニク”も大手チェーン店に乗っ取られた。オーナーのスヨホルム夫人(エリナ・ロサ)はイロナを呼び、自体を告げたうえで、新しい店ではそのチェーンで教育された人員を雇うのだと語る。こうしてイロナも職探しの毎日に。一方、ラウリは新しい仕事、長距離観光バスの運転手に雇われることが決まった。ところが、健康診断で片耳に異常が見つかり、職どころか運転免許まで取り消され、彼はショックのあまり卒倒。イロナも、やっと見つけた安食堂の仕事が、不正なオーナー、フォルストロム(マッティ・オンニスマー)のおかげで、資金もまともに払われずじまい。怒ったラウリは殴り込むが、逆に袋叩きにされ、ようやくアパートに帰ってみれば、家財道具は運び込まれている始末。二人は”ドゥブロヴニク”のイロナの同僚メラルティン(サカリ・クオスマネン)の提案で、もう一度レストランに挑戦してみることにした。だが、資金作りのために一攫千金と挑んだギャンブルで二人は全財産をスッて、アパートも手放す羽目に。そんな折、偶然、スヨホルム夫人に再会。再出発を掛ける彼女は資金援助を申し出た。かつてのイロナの同僚が集められ、ラウリはマネージャーに。かくしてようやく、二人の”レストラン・ワーク”が誕生。いよいよ開店の日。はじめは来なかったお客も、ひとり、また一人とやって来た。休憩時間。ようやく希望を見出したイロナとラウリは浮き雲を幸せそうに見上げた。(KINENOTE)
監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ
出演:カティ・オウティネン/カリ・ヴァーナネン
ネタバレ感想
アキ・カウリスマキの敗者三部作の一つ。三部作の中では本作以外に、『街のあかり』を鑑賞したことがある。関連しない他作品としては『愛しのタチアナ』、『希望のかなた』。俺が初めてカウリスマキ監督を知ったのは『街のあかり』で、踏んだり蹴ったりで人生がうまく行かずにいる主人公が、何とか希望を見出していく様に、静かな感動を得た。
その当時、他の作品も鑑賞しようと思ったんだけど、レンタルではなかなか見つけられず存在を忘れてた。で今回、新作の『希望のかなた』を観たのをきっかけに、本作を観てみようという気持ちになったのだ。
で、たった4作鑑賞した中での印象で言うと、カウリスマキ監督作は、どれもほのぼのとした雰囲気やちょっとしたユーモアがあり、仮に悲惨な境遇にあったとしても希望を見出して生きようとする、一般庶民の姿が描かれているように感じる。
今作の主人公夫婦は、二人の間にできた子供を亡くしており(写真立ての描写からの推測)、その代わりに犬を飼って寂しさを紛らわせているようだ。共働きで、楽しみもさほどなさそうだが、仲は悪そうではない。
ところが、不況のあおりを受けて、夫婦ともに職を失う。夫はプライドが高く見栄っ張りなので、奥さんに対して亭主関白っぽい対応も見せるものの、基本的には奥さんを愛しているようだ。酒に溺れるようになってからは愛想をつかされはするものの、最終的には妻がレストランを出す夢を支るため、献身的に協力をするようになる。
この旦那のキャラが危うい。何しでかすかようわからん奴なのだ。奥さんが雇われ先に騙されて給与を得られないことにブチ切れ、雇い主を襲撃するところなんて、なかなかカッコいいけども、返り討ちになってズタボロにされちゃう。
でも、そういうカッコ悪さを奥さんには言えないプライドがある。この辺なんかは好感度が落ちることはないんだけど、自分の就職活動はままならず、酒におぼれちゃうところなんかは、もう少し頑張れるだろとか思わなくもない。
さらに、せっかく見つかった就職先で、耳が悪いことが判明して自動車免許を失効しちゃうくだり。だいぶショックを受けたみたいで、奥さんに報告したと思ったら、玄関で卒倒しちゃうところなんかは、お笑いシーンであるものの、大丈夫かこいつは!? と死んだかと思った。てなことで、彼は職につけないので奥さんのお店経営を支える存在として生きていく決意をしたようだ。
大望や夢がなくても、支え合って生きてきた二人が、迎えるラストは最高にハッピーとは言えないものの、温かみがある。
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