映画『レジェンド 狂気の美学』(2016)イギリス フランス 131分
トム・ハーディが双子の兄弟を一人二役で演じた映画。数ある犯罪組織ものの中で何か突出した部分があるわけではないけど面白く見られる。今回は作品を通じて犯罪映画がなんで面白いのかってことと、犯罪は一人でやったほうがいいのではないかという話。
解説:実在した双子のギャングをトム・ハーディが一人二役で演じるクライムサスペンス。60年代のロンドン。手段を選ばない方法で街の権力を手中に収めていくレジーとロニー。だが組織内の不調和やロニーの自滅的な行動により二人の絆に綻びが生じ始め……。共演は「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」のエミリー・ブラウニング、「キングスマン」のタロン・エガートン、「博士と彼女のセオリー」のデヴィッド・シューリス、「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」のポール・ベタニー、「マイティ・ソー ダークワールド」のクリストファー・エクルストン。監督・脚本は「42 世界を変えた男」のブライアン・ヘルゲランド。(KINENOTE)
あらすじ:1960年代初頭のロンドン。双子のギャング、レジー・クレイ(トム・ハーディ)とロニー・クレイ(トム・ハーディ二役)は手段を選ばない方法で街の権力を手中に収めつつあった。さらなる勢力拡大のために二人はアメリカのマフィアと手を組み、有力者やセレブリティとも懇意の関係を築き上げていく。彼らの影響力はイギリス社会の上流階級にまで及び、その勢いはとどまるところを知らなかった。そんな中、レジーは部下の妹フランシス(エミリー・ブラウニング)と恋に落ち結婚。悪事と手を切ると約束した…(以下略)(KINENOTE)
監督:ブライアン・ヘルゲランド
出演:トム・ハーディ/エミリー・ブラウニング
ネタバレあり
組織犯罪ものは楽しい
この双子のギャングの物語は史実がもとになっているそうだ。ラストの描写でそれがわかった。俺はある犯罪組織が成長して暴走し始めて、最後は崩壊の末路をたどる過程を描いた映画、大好き。何がいいってギャングが成り上がって調子にのって、最後は没落していく単純な話なんだけど、そのわかりやすさの中に暴力の虚しさとか血縁者への捨てがたい愛情の話とか、組織の周囲に集まる人間たちの糞さ加減とか、いろいろなことが描かれている。
さらに、この映画のように史実に基づいた話だと、組織が没落に至るまでの過程の中に犯罪を犯し続けることが割にあわないと感じさせるくらい、組織犯罪の実像が垣間見られるところがいい。
レジーとロニーはさすが双子。似た者同士
彼らも単なる普通の人で、でも普通じゃない自分勝手なことしてて、その自分勝手さで身を滅ぼす。やっていることが子どもみたいに単純だよね。こういう作品について総じていえるのは、身内に対する愛情が心の底からの愛情というだけでもなくて、自分勝手さの現れであることがわかるところ。
この作品でトム・ハーディの演じるレジー。彼は一見まともで、フランシスという女性に惚れていて彼女のために生きたいんだけど、双子の兄弟であるロニーのことも大事。それでロニーに翻弄されつつも捨てきれずに身を滅ぼすことになる。
精神に疾患のある双子の片割れのロニーのほうが己に忠実なんだね。やってることはめちゃくちゃだけど正直者。フランシスに対する接し方でそれがわかる。嫌いだけど認める部分は認めている。実はそうした人を見る洞察力や自分の同類を見抜く力があるという意味では、ロニーのほうがまともな部分もあるのである。レジーにはそうした洞察力はない。そういう他人に対する想像力はない。
だって、ある程度まともな考えしてたレジーは最後のほうで、クズ人間をめった刺しにするでしょ? あれってロ二―がやりそうなことなのにそうはならない。レジーもけっきょく同じ穴の狢なのである。どっちもどっち。
犯罪者も市民も人との関わりにおいては大して変わらん
ということで、双子の言動はいちいち思慮が浅くアホっぽくみえて、でも、カッコよく見える瞬間もある。後先考えずにその場の感情で動いたり、それをやってしまったりしたら何もかも終わりになってしまうことが想像できるだろうに自分の感情を抑えられない。そういうどうしようもない人間だからこそのカッコよさとでもいおうか。
何言っているのかわからないと思うけど、こうした映画に出てくる人物たちの支離滅裂さ。この支離滅裂さがいいんだ。感情的に生きがちな彼らの言動を通して、筋が通らない矛盾だらけのことばかりしてしまう人間のわがままさや自分勝手さが、よくわかるところがいいということだろう。
だから面白いんだ。彼らのやっていることは悪で酷いことなんだけど、彼らの人間関係の作り方や他人との接し方ってのは同じ人間である以上、我々のような普通の市民と同じなのだ。でも、彼らは常識にとらわれないから己の感情に対して忠実に生きる。だからこそ他人との関わり方が普通の人たちより良くも悪くも極端な形で示されることになる。鑑賞している側はそうした彼らの行動をバカだなぁ、とかイカすなぁとか思って見ているけど、俺らも他人に対してやっていることは同じなんだよね。違いは暴力的かどうかってとこくらいか。
犯罪は一人でやろうね
こういう犯罪映画を見るといつも思うのが、犯罪は群がって組織をつくるよりも一人でやるべきだということ。この映画見てたら再認識。犯罪は一人でやるべきと思わされた。もちろん組織的にならざるを得ない社会背景や生活環境があるからこそ主人公らは組織を作らざるを得ないこともわかるけど。でもやっぱり、犯罪は一人でやるべきと思う。
犯罪は家族と共にしてはいけない。犯罪をするなら好きな人もつくってはいけない。好きになっても添い遂げようとしてはいけない。罪に問われず人から貶められたり罠にはめられたり殺されたりせず、ある程度安全な人生を送る代償には孤独がなければならんのだ。人と交わらずに孤独でいなければならんのだ。他人とつかず離れずに生きる、孤独な生活を送らねばならんのだ。そうでなければ犯罪者は高確率で身を滅ぼすのである。
ギャングを描いた幾多の映画を見るとそれがよくわかる。『ゴッドファーザー』も『男たちの挽歌』も、『モンガに散る』も『ステートオブグレース』も、『スカーフェイス』も『カリートの道』も、『グッドフェローズ』も『ヒート』も、その他思い出せないくらいいっぱい。これらの作品で身を滅
ぼした人たちは、どういう人たちだったかを思い出すといい。
ちなみに、ポール・ベタニー主演の『ギャングスター・ナンバー1』て映画があります。これは組織犯罪をしてるんだけど、ある部分において孤独な男を描いてます。という意味では少しイレギュラーな身を滅ぼす系の内容。
ではその逆に、孤独な犯罪者が出てくる作品はあるのか。すぐに思い浮かぶのは『バッド・デイズ』である。俺はこの映画のハーヴェイ・カイテルが演じる主人公こそが真の犯罪者だと思う。もちろん、群れずにやる以上は大きなヤマは中々できないんだろうけど、真の犯罪者は誰かと組む時もヤマが終われば一人、姿を消すのである。興味ある人はぜひ見てみてください。
てなことで、犯罪映画ってホントに面白いです。
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