孤狼の血 LEVEL2
―2021年公開 日 139分―
解説:暴力団対策法成立直前の広島を舞台に警察とやくざが壮絶な争いを繰り広げる「孤狼の血」の3年後を描いたバイオレンス映画。マル暴の刑事・大上の遺志を継いだ若き刑事・日岡は、権力を用い暴力組織を取り仕切っていたが、ある男の出所により事態が急転する。柚月裕子の『孤狼の血』シリーズ三部作をベースに、原作では描かれていない映画オリジナルストーリーを紡ぐ。前作から引き続き「凶悪」の白石和彌が監督、「新聞記者」の松坂桃李が刑事の日岡を演じる。また、日岡と火花を散らす悪のカリスマ・上林を「ひとよ」の鈴木亮平が演じる。(KINENOTE)
あらすじ:3年前に暴力組織の抗争に巻き込まれ殺害されたマル暴の刑事・大上の遺志を継いだ若き刑事・日岡秀一は、広島の街の平和のため警察と裏社会のタイトロープを続けてきた。目的のためには手段を選ばず、権力を用いて暴力組織を取り仕切っていたが、刑務所から出所したある男の出現により事態は急転。暴力団組織の抗争、警察組織の闇、マスコミの策謀、身内に迫る魔の手、そして最凶最悪のモンスターによって、日岡は絶体絶命の窮地に追い込まれる。(KINENOTE)
監督:白石和彌
原作:柚月裕子(「孤狼の血」シリーズ(角川文庫/KADOKAWA))
出演:松坂桃李/鈴木亮平/村上虹郎/西野七瀬/中村梅雀/早乙女太一/斎藤工/吉田鋼太郎/毎熊克哉/筧美和子/滝藤賢一/宮崎美子/寺島進/宇梶剛士/かたせ梨乃/中村獅童
ネタバレ感想
個性的な脇役たちがよろしい
前作に引き続き公開直後に鑑賞。俺は暴力映画が好きなので、今作にはかなり期待していた。なぜなら、最近の邦画の中にあっては、群を抜いて楽しめる暴力映画シリーズだからである。
これはいろんな投稿記事で言ってるけども、最近の邦画の役者たちは、『仁義なき戦い』などに出てくる役者たちに比べると顔面力が物足りない。特に若手は優男っぽい整った顔の人たちばっかで、個性にかけると思っている。
ところが、この作品に出ると、そうした面々も昭和の役者とは比較しづらいにしても、顔面力が増して、ギラついた男の表情になるのである。主役の日岡を演じる松坂桃李は、前作では役柄もあって優男感がぬぐえなかったが、ラストの展開を経て、ギラついた輝きを見せて、本作ではギラギラ度とヤサグレ度を前面に押し出して活躍してくれる。
その他のわき役たちも斉藤工は少し弱いかなと思ったが、早乙女太一らのチンピラぶりはなかなかのもんだし、村上虹郎は最初はバカなチンピラ野郎であったが、物語を追うにつれて勇気をもって行動するようになる成長加減とかがよく、そういう脇役たちの個性が際立っているところもこのシリーズの特徴である。
そういえば、元サッカー選手の播戸竜二が賭場のシーンでちょい役で出てたな(笑)。ほかにも宇梶剛士とか吉田鋼太郎とか寺島進とか、毎熊克哉なんかも自身の持ち味を発揮している。そして何より、鈴木亮平がすごい。やばすぎる存在感。
悪役(上林=鈴木亮平)が輝いてる作品は楽しめる
ということで、結論から言うと、十分に楽しめる作品であった。やっぱり、こうした犯罪的暴力的血みどろ作品は、敵役がメチャクチャなアナーキー野郎であることが非常に重要。例えば、韓国の最近の暴力映画の傑作、『犯罪都市』なども、マブリーことマドンソク演じる刑事の存在感だけでなく、彼と敵対するヤクザ者を演じたユンゲサンの存在があってこその面白さであった。
今回の鈴木亮平が演じた上林の悪党ぶりは、そのユンゲサンに勝るとも劣らない卑劣かつ暴力野郎。こいつが組織の上役の命令そっちのけで暴走する様は、自身の将来などそっちのけで、今、今、今をひたすら生き抜くだけ、やりたいことはすべてやる。誰にも邪魔させんのである。
そんな輩であるから、日岡が前作の大上から引き継いだ、ヤクザ同士の均衡を保つ手法なんて、糞の役にも立たんのである。なぜなら上林は、組織の掟なんて糞くらえの人間なので、上役同士が敵対組織と勝手に結んだ手打ちのことなんて、関係なし。気に入らない敵はぶっつぶすのみだし、それを邪魔する上役がいるなら、そいつもぶっ潰すのみなのだ。さわやかすぎるこの暴力性。
絶対にお近づきになりたくない存在ではあるが、この外道がいるからこそ、この作品は楽しめるのである。対する日岡は前作よりも経験を積んだとはいえ、上林の体格と比べると線が細すぎるので、彼との喧嘩のシーンとかはちょっと無理がありすぎる感はある。そして、突っ込みどころとしては、耐久力が高すぎ(笑)。
上林はなぜ人の目をくりぬくか
にしても、上林はそもそもの生い立ちがハードすぎて人の道を外れていくことになり、母親の視線から逃れるために、母親の目をえぐって殺し、であるから、長じても人から見られることに抵抗を覚えるのか、殺す相手の目をえぐり取るのである。
目を見れない人間という意味では臆病であり、その臆病を隠すからこその暴力で、そういう意味ではなかなか人間的でありますな。例えば、この男が普通の家庭環境に生まれ育った人間で、それなりの常識を身につけられたはずなのに、そうした善悪の基準から逸脱した存在として登場していたとしたら、もしかしたらこの作品はさらにものすごいものになっていかもしれぬなぁと思わなくもない。
まぁしかし、破滅的とも思えるくらいに組の内外を引っ掻き回したこの男、やってることがすべて自殺行為ともいえる。要は、死にたかったんじゃないかと。
日岡との邂逅場面からその穏便ではない敵対関係がビシバシ伝わってくるわけだが、ヤサグレ刑事という好敵手を得た彼は、日岡に殺されることを望んでいたのかもしらんなぁ、なんてことを思わなくもない。
ちょっとわからんかった部分
ともかく、全編通して上林の横暴ぶりにハラハラせずにはいられない。個人的には日岡がコンビを組む公安出身のおっさんは、日岡と関係が近づきすぎたために、上林の的にされるんだろうなと思っていたら、そうはならずに、実は滝藤賢一演じる管理官の犬だったことには驚いた。
よくわからんのは、管理官たちが上林を泳がせておくことで、どのようなメリットを得ようとしたのかという部分に説明がないところ。そこはちょっと不満かな。
あと、中村獅童が演じてた新聞記者がけっきょく、どういう立ち位置だったのかよくわからんところ。
ラストのオオカミのシーンは何を意味するか、続編は?
ラストシーンで地方に飛ばされた日岡が、駐在員として山で発見されたニホンオオカミの捜索に駆り出されるシーン。あそこだけこれまでの作品のトーンとは異なり、いきなり抽象的な表現になる。
あれは、孤狼として奮闘した前作の大上のような人物がまだ世の中にはいるということの比喩なのか、それとも、日岡や上林も含む、孤狼のような生き方をする人間はオオカミのように駆逐されていく(された)ことを暗示したシーンなのか、その辺の解釈はよくわからんが、この作品、続編は出ないのかね。
個人的には出てほしいと思っている。ただ、作中で暴対法が施行されているのを見るところ、ヤクザ者が表立って抗争する様を描くのは難しいだろうから、描くとしたら過去の話とかになっちゃうのかなぁ。まぁでも、東映にはこうした路線の映画をもっとたくさん出してほしいもんである。
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