仁義の墓場
昭和に実在した破滅的なヤクザ者、石川力夫の半生を描いたバイオレンス作品。「大笑い 三十年の 馬鹿騒ぎ」。本人が死ぬ前に残した言葉をそのまま体現したような内容になっている。ネタバレあり。
―1975年公開 日 94分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:戦後の混乱期、暴力と抗争に明け暮れる新宿周辺を舞台に、強烈に生き、散った一人のやくざの生き様、死に様を描く。原作は藤田五郎の「関東やくざ者」と「仁義の墓場」より。脚本は「女番長 タイマン勝負」の鴨井達比古、監督は「新仁義なき戦い」の深作欣二、撮影は「安藤組外伝 人斬り舎弟」の仲沢半次郎がそれぞれ担当。(KINENOTE)
あらすじ:昭和二十一年。新宿には、テキ屋系の四つの組織が縄張りを分けあっていた。石川力夫の所属する河田組は、経営の才にたけた河田修造を組長に、組員三百名を数え、野津組に次ぐ勢力を誇っていた。兄弟分の今井幸三郎、杉浦、田村らを伴った石川は、中野の愚連隊“山東会”の賭場を襲い金を奪った。山東会の追手から逃がれ、忍び込んだ家で、石川は留守番をしていた娘、地恵子を衝動的に犯した。この事件をきっかけに、山東会と石川たちの抗争が起こり、石川らが山東会を壊滅させ、同時期に今井組が誕生した。粗野で兇暴な石川に手を焼く河田は、最近、縄張りを荒らす、池袋親和会の血桜の政こと、青木政次を消すように示唆した。石川は、政の情婦夏子を強姦し、駈けつけた政の顔をビール瓶でめった突きにした。政の報復のために、続々と親和会の兵隊が新宿に進出して来た。だがこの抗争は、野津組々長の仲介で大事には致らなかった。それから間もなく、杉浦が野津組の幹部・岡部の妹と結婚した事で野津の盃を受けた。一方、相変らず無鉄砲な石川は、野津に借金を断わられたために、その腹いせに野津の自家用車に火をつけた。岡部は杉浦に石川殺しを命じるが、杉浦は失敗。その夜以来、杉浦とその女房は東京から消えた。この一件で河田は石川に猛烈な制裁を加えたが、逆上した石川は河田を刺してしまった。一時は今井の許に身を隠した石川だが、今では石川の女房になっている地恵子が彼の身を案じ警察に報せたために、石川は逮捕され、一年八カ月の刑を受けた……。出所した石川は、河田組から十年間の関東所払いになっているため大阪へ流れた。そして一年後。ペイ患者となり一段と凄みの増した石川が、今井組の賭場に現われた。だが、石川は、一番信頼していた兄弟分の今井からも説教され、狂ったように今井を撃ち殺した。一匹狼となった石川は、自殺を企るが死に切れず、警察病院で治療を受けた後、殺人及び殺人未遂で十年の刑に服した。昭和二十六年一月二十九日、地恵子が自殺した。それは胸部疾患の悪化した石川が病気治療のため仮出獄する三日前の事だった。地恵子の骨壷をぶら下げ、骨をかじりながら歩く石川の姿は、まるで死神のようだった。そして神野、松岡、河田の邸にまで出向き金をせびり取った石川は、その金で自分の墓を建てた。昭和二十九年一月二十九日、石川力夫は府中刑務所において、二十九歳の短い一生を自らの手で終えた。その日は奇しくも、亡き妻・地恵子の三回忌でもあった。(KINENOTE)
監督:深作欣二
出演:渡哲也/梅宮辰夫/山城新伍/ハナ肇/室田日出男/田中邦衛/多岐川裕美/成田三樹夫/安藤昇
ネタバレ感想
なんとなく、昭和の強烈なヤクザ者の映画が見たくなり、レンタルで鑑賞。主人公たる石川力夫という人物は実在した人で、彼のメチャクチャとしか言いようのない半生を基に描いたのがこの作品ということらしい。
渡哲也演じる石川は、ともかく感情移入が難しい人間で、単なる狂犬でしかない。ハナ肇が演じる親分や、若頭(室田日出男)の命令も聞かないし、友人の梅宮辰夫演じる今井の忠告も無視。ともかく自分の思いつきやその場の感情で動くバカなので、組織の中に居られては迷惑でしかない。
それでも親分や今井はそれなりに彼のことを助けてやっているのに、そうした恩を仇で返すようなことしかしない。なんでなのかよくわからんが、ともかく石川というのはそういう男なのだ。
多岐川裕美が演じる地恵子も、石川にレイプされてるにもかかわらず、妻になっちゃうし、それなりに愛情をもって接していたのは、なぜなのか。どういう形であれ、関係を持った男とは添い遂げなくてはならぬという昭和の女性の生きざまなのか。
ともかく、石川の突出した無茶苦茶ぶりがこれでもかと展開し、そのままラストの破滅へ向かってグイグイ突き進んでいくところがこの作品のすごみであり面白味ではあるのだが、その周囲の人間たちの心情ってものが理解できるようには描かれていないのだ。
じゃあそれを描いてもらいたかったのかというと、そうでもなくて、親分いや今井には彼らなりの道理があってのことなんだろうし、それは地恵子についても同様なんだろう。
ラストは高所から身を投げて自殺する石川は、なぜか今井の墓に「仁義」と彫る。彼のどこに仁義があったのか皆目見当もつかないが、彼なりの仁義がなければ、そんな文字を彫ったりはしないのであり、地恵子の骨を食い続けるのは彼なりの愛情表現なんだろうなとは思うものの、その狂的な生き方には共感できる部分が皆無で、しかしそうした暴力と欲望と絶望の塊みたいな生き物が昭和の時代には実在したってところを強烈に見せつけてくれたという意味では、実に面白い作品であった。
石川の遺書には辞世の句みたいのが書いてあって、「大笑い 三十年の 馬鹿騒ぎ」と記されていたそうだ。なるほど、自分の人生がどういうものであったのか、本人はよく理解していたようだ。
ちなみに、同じ人物をモデルにして岸谷五朗が主演した『新・仁義の墓場』って作品があるけども、あれもあれで、面白い作品です。
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