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映画『アズミ・ハルコは行方不明』ネタバレ感想 結末は爽やかです

アズミハルコは行方不明
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アズミ・ハルコは行方不明

公開中に観にいけなかったのでレンタルで鑑賞。もちろん原作も未読なので新鮮な気持ちで観た。とても面白い映画でした。蒼井優が非常にキレイに撮れていて、そこがまずイイ。高畑充希は初めて見たけども、バカっぽいキャラに非常にはまっていた。ということで、この作品は、当ブログの趣旨に重なる、人生を半分降りることにまつわる話だと思った。そんな個人的感想を。ネタバレあり

―2016年公開 日 100分―

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解説とあらすじ

解説:山内マリコの同名小説を原作に「私たちのハァハァ」の松居大悟監督が蒼井優主演で映画化。ある日突然姿を消した独身OL安曇春子。その行方不明ポスターのグラフィティアートが若者たちによって街に拡散していくなか、無差別に男を襲う謎の女子高生集団が現れる。共演は「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」の高畑充希、「淵に立つ」の太賀、「青空エール」の葉山奨之、「グッド・ストライプス」の菊池亜希子、「アレノ」の山田真歩、「花芯」の落合モトキ、「海街diary」の加瀬亮。2016年8月19日、一般公開に先駆け、新宿シネマカリテの特集企画『カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016』クロージング作品として上映。第29回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。(KINENOTE)

あらすじ:独身で恋人もいない27歳の安曇春子(蒼井優)は、地方都市の実家で両親と祖母と一緒に暮らしている。老齢の祖母を介護する母のストレスが充満する実家は決して居心地のいいものではなく、会社に行けば社長(国広富之)と専務に「女は若いうちに結婚するべきだ」とセクハラ三昧の言葉を浴びせられる日々。そんななか、春子はふと自分の年齢を実感する。まだ27歳ではなく、もう27歳。若くはないということに……。20歳の愛菜(高畑充希)はとある地方都市の成人式の会場で、大学進学のため名古屋に行った中学時代の同級生・ユキオ(太賀)と再会。大学を中退し地元に帰ってきたユキオとなんとなく会って遊んだり、なんとなくセックスする間柄になっていく。ある日、ユキオの誕生日プレゼントを買いにレンタルビデオ店に行った二人は、そこでアルバイトをしていた同級生の学(葉山奨之)と再会する……。仕事の帰り道、運転する春子の車の目の前を制服姿の女子高生たちが駆け抜けていく。興味を覚えた春子は後を追って公園へ行くと、そこには暴行されて倒れている男の姿があった。その男は少し前に再会したばかりの同級生の曽我(石崎ひゅーい)であった。曽我を送り届けたその夜、二人は互いの虚しさを埋め合うように身体を重ね、付き合うという言葉はないまま、食事をしたり、買い物に行ったりする仲になっていく。久しぶりに心浮き立つ春子とは裏腹に、しばらくして曽我からの連絡が途絶えてしまう。そんな折、コンビニでアルバイトをする噂好きの同級生から、春子は衝撃の事実を聞かされるのだった……。ユキオと学はグラフィティアーティストのドキュメンタリー映画を観て、映画に登場する覆面アーティストのバンクシーに憧れ、グラフィティアートを始める。チーム名は、アメリカに実在する有名な落書きからとって“キルロイ”と決定。キルロイは“28歳・安曇春子の行方を探す張り紙”をモチーフに、春子の顔とMISSINGという文字を合わせグラフィティアートにして街中に拡散していく。一方、自分そっちのけで楽しむユキオと学に愛菜は怒り心頭。二人に強引に割って入り、アズミ・ハルコのグラフィティアートを一緒に広めていくのだった。ちょうどその頃、無差別に男たちを襲う謎の女子高生集団による暴行事件が巷を騒がせていた。インターネット上ではその事件と、アズミ・ハルコのグラフィティアートの関連が噂され……。(KINENOTE)

予告・スタッフとキャスト

(PHANTOM FILM)

監督:松居大悟
原作:山内マリコ:(『アズミ・ハルコは行方不明』(幻冬舎文庫))
出演:蒼井優/高畑充希/加瀬亮

女性解放の物語

時間軸が直線じゃないので最初は何だかよくわからんし、細部を説明していない(原作はどうなんだろうか)ので物語に没入しづらい印象だったが、それでも知らぬ間にひきこまれていた。

この映画は全ての女性が現代社会に生きる上で抱えざるを得ない、潜在的な抑圧から己を解き放つための、足かせを外すための力を与えようとしている作品ではないかと思わされたのである。

蒼井優が演じるハルコは28歳くらいだということがわかる。務め先では旧時代的な上司が、彼氏はいるのか、結婚しないのかとありふれた言葉を放ってくる。彼女自身は自分の行く末に関して不安を抱えているようであるものの、周囲の人にそれを語ることもなく、言葉少なに日々を無為に過ごしている。

もう一人の主人公、成人式を迎えたアイナは男がいないとダメな女の子である。見ていてわかるが、ギャーギャーうるさいし、喋ることに知性のかけらも感じないし、ともかく本当に面倒くさい女の子だ。しかし、己の感情に素直であり、一途と言えば一途に見えなくもない。そんな彼女は、男に求められていたいという強迫観念のようなものを抱えているのではないか。

そして、もう一つ重要なのが、女子高生ギャングたちである。彼女らは男を必要とするどころか、搾取と暴力の対象にしている、この作品において最上位に位置する存在だ。恐らく彼女らはこの映画における、女性全体の怒りの象徴なのだ。

既存の社会によって女性の生き方の多様性を認めず、レールに敷かれて考えずに生きさせられ、時にはその人生にむなしさを感じるものの、そこから逃れられないでいる女性の様々な感情が怒りとなって具現化したのが、あのギャング団なのである。

ギャング団の生き方は自由である

それを証明するかのように、ハルコのお母さんからハルコ、そしてアイナ、さらにギャング団へと世代が下がるにつれ、女性たちがこれまでの歴史でつくり上げられてきた男社会の眼に見えない構造から逃れるパワーを獲得しているキャラとして描かれている。

例えばハルコは結婚適齢期である自分の今後の行く末に様々な不安を抱えていながらも、生き方を決められていない。そして、考えることを止めているようにも見える。しかし、母親ほどには自分の人生を何かに縛られて生きたくはないと思っている。つまり、母から娘へと世代を経ることで女性の普遍的な人生観も、少しずつ変化しているのだ。

ハルコは、ギャング団の犯罪現場を目撃し、恐れを感じつつも彼女たちの持つパワーに魅かれる。それは10代の頃に自分が持っていたパワーに似ているから、そこに懐かしさを覚えるのと同時に、彼女たちの中にそれ以上の生命力のあることを感じたからだ。では、その生命力とは何か。

最も若い世代であるギャング団は、自分たちの思うままに踊り、歌い続け、時には男たちを狩りながら、自分たちの生をこれでもかというくらいに享受している。つまり、社会のルール(男の文脈でつくり上げられてきた)には全く縛られていないのだ。自由だ。

そして、ラスト近くの映画館のシーン(上映されている作品も象徴的)、ギャング団を包囲したつもりだった警官たちは、その中に女子高生に扮した中年のオバサンら、世代を超えて女性たちが集まっていることを知る。そして彼女らが一斉に力を解き放ち、方々へ逃げ去っていくことを止めることができない。

あのシーンはギャング団の活動に影響を受けて集まった女性たちが、新しい生きかたを見出し、これからの社会の隅々でその力を発揮していくであろうことを示しているように思わせる。

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書籍 栗原康『村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝』感想 やっちまいな!
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ハルコは人生を半分降りたのだ

また、ハルコとその友達、そしてその子ども、さらにはアイナが集うラスト。ハルコは何もかもどうでもよくなって、一度姿を隠す。その結果、世の中のつまらない言説や偏見に囚われることなく、自分自身の幸福の見出し方を知った人になった。

だからこそ、ハルコはとても素敵な笑顔をしているのだ。あの表情は、人生を半分降りて生きる術を知った解放感と、半分降りて生きる決意の表れなのではないか。ということで本作は俺の中では、女性が人生を半分降りることを決める過程が描かれている作品であった。そして、描かれる対象が女性なだけで、この話は男性にも通じる部分が多々ある良作である。

ということで、オススメ作品です。

ちなみに、ユキオが興奮していた映画、『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』は、あの神出鬼没のアーティスト、バンクシーの監督作品である。↓

こっちはバンクシーの活動によって起こった騒動にまつわるドキュメンタリー↓

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