エル ELLE (2016)
主人公、ミシェルへの感情移入が難しい作品だ。でも、最初から感情移入を放棄して鑑賞してみると、それなりに彼女のことがわかったような気にはなれる。個人的には鑑賞前から注目していた変態映画で、やっぱりイイ意味で変態映画だったと思う(笑)。ネタバレあり。
―2017年公開 仏=独=白 131分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:ポール・バーホーヴェンがイザベル・ユペールを主演に迎えたサスペンス。ゲーム会社の社長ミシェルは、独り暮らしの自宅で覆面の男の襲撃を受ける。以後も不審な出来事が続き、過去の体験から警察との関わりを避ける彼女は、自ら犯人探しに乗り出すが……。原作は、「ベティ・ブルー/愛と激情の日々」のフィリップ・ディジャンの小説。(KINENOTE)
あらすじ:新鋭ゲーム会社の社長ミシェルは、1人暮らしの瀟洒な自宅にいたところ、覆面の男の襲撃を受ける。その後も、差出人不明の嫌がらせメールが届き、留守中に何者かが侵入した形跡が見つかるなど、不審な出来事が続く。自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲に疑惑の目を向けるミシェル。父親にまつわる過去の衝撃的な事件から、警察との関わりを避ける彼女は、自ら犯人を探し始める。だが、次第に明らかになっていくのは、事件の真相よりも恐ろしいミシェルの本性だった……。(KINENOTE)
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
出演:イザベル・ユペール/ローラン・ラフィット/アンヌ・コンシニ/シャルル・ベルリング/ヴィルジニー・エフィラ/ジョナ・ブロケ
感想
懐かしい監督の新作!
ポール・ヴァーホーヴェンと言えば、俺の中では10代の頃に面白く観た『ロボコップ』と『トータル・リコール』を思いだす。あとは『氷の微笑』か。確か2000年代には『スターシップ・トゥルーパーズ』なんてのもあった。
ということで、そんな懐かしい監督の新作である。あらすじは上の引用を読んでもらえればと思うので、個人的な感想を述べます。途中からネタバレもします。
理解しづらい主人公
主人公のミシェルは、何だかよくわからん人である。その性格は過去の陰惨な事件が多分に影響していると思われる。
彼女は息子への愛情は深いものの、それだからこそ成人した息子を今でも子どものように扱うし(息子がボンクラなせいもあるんだけど)、その恋人に対しては、厳しい(恋人が糞なのも大きいがw)。
そして、元旦那に対しては今でも愛憎にまみれた感情を持っているようで、元旦那に新しい恋人ができると嫉妬しているような行動をする。で、元旦那がその彼女にフラれると、元旦那を慰めてあげるのだ。
さらに、母親が若い男と結婚したがるのを認めない割に、自分も友人かつ共同経営者? ぽいアンナって女性の旦那と不倫というか、セックスフレンドみたいな関係を持っているし、隣人夫婦の旦那に好意があるようで、誘惑してみたり、家の中から双眼鏡で隣人男を見ながらオナニーしてみたり。母親を非難できるような人ではないんである。
そして、経営者として舵を取る会社は、化物が女性を犯したりするゲームを創作しているという。で、その会社の若い社員らに対しては、セクハラ、パワハラぽい接し方をしている反面、自分の人気を気にしていたり。
セクハラ、パワハラ経営者
ちなみに、彼女に好意を持っている社員に対して、いろいろあって「チ○コ見せないとクビにするわよ」というあのシーン。彼女は彼のイチモツを眺めて、「ユダヤ教徒じゃないのね」。みたいなことを言う。そして、「割礼が云々」と。割礼てのは生まれた男の子の包皮を切っちゃうこと。つまり、包茎手術を生まれたときにしちゃうようなものらしい。だから、あの男性社員は包茎だったっていうことだろうね。どうでもいい余談。
包茎なんて、気にすんな(笑)
余談ついでに包茎について触れると、特に日本人の若い男の子に言っておきたいのは、自分が仮性包茎だったとしても、あまり悩まないほうがよいということだ。ちなみに俺は火星人である。中高生の頃は友人らの会話の中で剥けたか剥けてないかとかの話題があったり、男性誌の広告で、包茎手術を奨励する煽り広告なんかがあって、いろいろ悩んだけども、火星はきちんと風呂入ったときに綺麗にしておけば、何の支障もない。
恋人とかにバカにされるんでないかとか悩む必要もない。個人的な経験で言うと、女性はそういうこと、あまり気にしてない。むしろ、バカにするようなアホな女は、バカな言説を常識だと思ってしまって、付き合っている相手を知ろうとしてくれないツマラン女だと思えばいいのである。ほんとに大したことじゃないから、もっと別のことに悩んだり熱中したりしたほうがいいよ(笑)。
ここからかなりネタバレ
閑話休題。作品の話に戻ると、彼女の性格に触れるにはどうしてもネタバレが必要なんだけども、社内で起こる、彼女の画像をゲーム内のキャラに貼りつけてネットに流すコラージュ事件と、レイプ犯の事件は別の出来事で、犯人は同一人物ではない。
海外ではあのレイプ魔との関係が、レイプを肯定しているとかいう解釈をされて問題になったそうである。たぶん、主人公のミシェルがレイプ魔が誰なのかわかった後でも、その行為を受け入れているような素振りで奇妙な関係を続けるからなんだろう。
レイプが是か非かとかそういう話ではない
個人的に思うのは、この作品はレイプがどうのこうのという話ではないと思うので、その辺の常識的なフィルターを外さないと、楽しめないのではないかと思う。ミシェルは常識的な人ではないのである。どちらかというと、自分の感情の赴くままに生きたい人なのだ。
だから、気に入らないことがあれば怒るし、関わるのが面倒になった相手に対してはその思いを表明するし、友人の男だろうと、妻がいる男だろうと、セックスしたければするのである。
その分、彼女を憎む人もいるだろうし、実際憎まれてもいる。でも、それでも彼女は自分の考えを曲げないのである。曲げないというか、他人の負の感情をやり過ごせる精神的な強さを持った女性なのだ。その彼女の強靭な心は、常識的なフィルターを通してみると、単なる変態でもあり、態度がムカつくのでもあり、なんだかよくわからない人である。
でも、そこが彼女の魅力になってもいるのだろう。そして、人間なんて、みんな他人のことなんてわかるわけがないんである。
人間はみんな、変態だし我がままだし、本当は欲望剥きだしで生きていたいのに、自分自身の自分に対する常識的目線とか、周囲の目を気にしたりなどで、自分の欲望を律して生きている。少なくとも俺はそうである。
対する彼女は、ある程度は己の感情や欲望のままに生きられる地位と金と心の強さがあるので、つまらん常識にはとらわれずに生きていけるのだ。ということで、何を言っているのかよくわからんかも知らんが、ミシェルという女性はそういう人なのである。
彼女はお父さんなのだ(笑)
それらを踏まえて鑑賞後に感じたのは、彼女は、旧時代的な力強い父権を有した女性親分なのだということだ。
ダメ息子と、愛人つくって結婚しようとしているお母さんを養うだけの経済力を持つ、女性社長。経営者であるから、社員を食わせる能力も持っている。そして、おそらくだが、旦那に殴られて離婚する前も、好意を持った男性とはセックスをしていただろう。それは、権力者が妾を持ったり女遊びをしたりするのと同じこと。
頑固だし、自分が有能であることを知っているから、我がままで、他人のアホな言動には自分を棚にあげて口をださずにはいられない。でも、自分の身の周りの人間をきちんと飢えずに食べさせてあげられる、親分なのである。ミシェルという人は、そういう力強さを持つ女性なのであった。
とか、こういうもの言いそのものが男目線と感じられたら、その指摘に対しては何も言えなくなっちまうと思いますが。
いずれにしてもミシェルは、被害者面なんてしたくない。何をされようが自分はありのままで自分なのだ。自分がレイプされようが、親父が殺人者だろうが、世間の目線なんてクソ食らえ。そういう女性なんである。すごいね。
つっこみどころ
あまりにも無防備すぎ!?
彼女に対して突っ込みたい部分もある。まず、車はもう少し路肩に寄せて駐車しなさい(笑)。あと、レイプ犯は警察なんかに頼らず自分で見つける――と言っておきながら、あんまり探していないところ。さらには、武器を購入したり、銃の扱いを学んでいる割に、無防備すぎだろ(笑)。2回目の襲撃のときとか、もっと警戒するべきだと思うんだけど。
そう考えると、彼女のレイプ犯探しは、無防備になることで自分の懐に相手を入れてしまおうという作略だったのだろうか。よくわからん。あと、これは彼女ではないんだけども、レイプ犯はハサミで右手を貫かれたと思うのだが、翌日以降、平然とし過ぎだろ。もっと痛いと思うよ、あれ(笑)。
自分の常識を捨てて鑑賞するのがいいのでは
とか思うところはあったものの、今年、どうしても観たい映画だった本作は、いろいろのことを考えさせてくれる良作であったことは間違いない。ぜひ、自分の常識を捨て去って彼女の破天荒な言動に注目して鑑賞してみてください。
最後に、向かいに住む例の夫婦の奥さんのほう。最後のほうのセリフから考えるに、彼女は旦那が変態的な男であることを知ってたみたいだね。なかなか恐ろしい人である。
善悪を超えた言葉を獲得するために、みんな人間であることをやめよう。
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