ある殺し屋 KILLER FRANK
孤児院で虐待を受けながら育ったフランクは、黒社会で殺しと強盗を請け負っている。犯罪をしている瞬間だけが彼の生きがいだ。そんな孤独な男がある女性と知り合って文章講座に通い始めたことをきっかけに、日常の中にも幸福を見出していくことになるのだが――ネタバレあり。
―2015年制作 米 98分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:凄腕の殺し屋の復讐劇を描くアクション。裏社会で殺し屋として生きてきたフランクはある日、見知らぬ女・ジャッキーから声を掛けられる。フランクは次第に彼女に心を開いていくが、ジャッキーが殺害されてしまう。【スタッフ&キャスト】監督・脚本:カメル・アメッド 撮影:トム・アグネロ 編集:アレクサンダー・コピット 音楽:スコット・ハンプトン 出演:ウィリアム・フォーサイス/トム・サイズモア/ビクター・コリッチオ/ラリー・ロマーノ(KINENOTE)
あらすじ:NYの裏社会で、汚れた仕事を請け負う初老の男、フランク。組織のボス・トニーから強盗や殺しなど、あらゆる違法な行為を命じられたら、躊躇なく確実に遂行する男だ。孤児院育ちで、天外孤独なフランクは、冷徹で感情を持たない男だった。ある日、フランクは街で見知らぬ女から声を懸けられる。その女、ジャッキーは市民講座に参加するメンバーと、フランクを間違えて声をかけてきたのだった。それからフランクは、女が通う小説講座にふと顔を出すようになる。生まれて初めて、一人の人間として接してくれたジャッキーに、彼は次第に心を開いていくのだった。しかしボスのトニーは、フランクが組織の秘密を漏らしているのではないかと疑念を持ち、彼を殺害する計画を立てる。そしてジャッキーは、トニーの手下に無残にも殺されてしまう・・・。(KINENOTE)
監督・脚本:カメル・アメッド
出演:ウィリアム・フォーサイス/トム・サイズモア
ネタバレ感想
一匹狼の犯罪者フランク
フランクは臍の緒をクビに巻き付けられた状態で親から捨てられ、孤児院で育った。そこの施設長(トムサイズモア)はかなりイカれた人間で、フランクは幼少時から彼に虐待を受けて育つ。そして成長してからはトニーという街を牛耳るギャングの手下として働くようになった。
フランクは冷静かつ非情な男で、冷徹に任務を遂行できる凄腕の男なので、ボスのトニーはフランクを重宝していた。だが、つきあいの悪いフランクはトニーの他の手下からは嫌われている。
フランクは、同じヤマを叩く仲間に対しても信頼をしていない。だから、常に仲間の裏切りを想定して事を運ぶ。そして実際、仲間たちは足がつきそうなチンピラ的行動をしたり、分け前をトニーに渡さず全取りしちまおうとする輩たちばかり。フランクは命令に忠実ではないそうした奴らを容赦なく抹殺する。
犯罪は一人でやるべき
つまり彼は、基本的に一匹狼だ。お縄を頂戴しないために、自分以外の人間を信頼しない。しかし、だからこそ彼は、長年にわたって任務を遂行させてこられたのである。
俺はこのブログで何度も、犯罪は一人でやるべきではないかと言い続けているので、このウィリアム・フォーサイス扮するフランクに魅力を感じた。どうして犯罪は一人でやるべきなのかについて興味のある方は、下記の記事を参照ください。
なぜ犯罪は一人でやったほうがいいのかに触れた記事(一部)↓
良い意味で古臭く、ムダに長く感じるシーンも
この映画は冒頭のタイトルバックからエンドロールまで、その演出が最近作とは思えないほどに、70年~80年代のバイオレンス映画的な雰囲気を感じる。具体的にどの作品かを挙げることはできないんだけど、ともかく、いい意味での古臭さがある。
あと、トムサイズモア(久しぶりに彼をみた。少しやせてたw)扮する施設長の独白シーンなどが延々と続いたり、物語に関係があるかないかよくわからない、文章講座での創作物発表シーン、そして場末のクラブみたいなところでのコメディアンたちのパフォーマンスなど、そこまで描写する必要があるのかないのかわからないシーンがけっこうたくさんある不思議な作品であった。
その冗長さにイライラしたりはしなかったのでそれは別によくて、作り手には何らかの意図があったんだろうと思われる。
で、肝心のストーリーなんだけど、ありがちとは言え、けっこうおもしろく観られる内容であった。特に、前述したように俺は犯罪は一人でやるべきと思っているので、それを地で行くようなフランクの孤高さには好感を持って鑑賞していた。
ジャッキーと恋仲になって以降の警戒心の薄さが残念
フランクは文章講座で、自分自身の過去と現在を小説にしている。しかも、実名を使ってだ。書くことが孤独な人間にとっての自己療養の手段になるのは俺自身にも経験があることなので、それはいい。自分の人生を小説化することに対しては。
ジャッキーに自分の半生を告白して距離を近づけたことも良いと思う。フランクは孤高の人間であったが、癒しを求めていたことがわかるからだ。人からの愛を受けたことのない男も、愛に飢えていたのである。それが叶う相手を見つけられたこと。とてもいいと思う。だから、ここまでのお話は非常に面白く鑑賞できた。
ガッカリしたのはそれ以降だ。あれだけ冷静沈着だったフランクが、実名で小説を書いたこと、そしてジャッキーにそれを話してしまったことで、もしかしたらトニーたちにそのことが露見することを、まったく想定しないのである。だから彼は、ジャッキーを殺されてしまうのだ。
フランクがトニーの存在をジャッキーに話してしまったことを、トニーが気付いたのは単なる偶然だ。だから仕方ないとも言える。フランク自身も舞い上がって警戒心が薄れていたのかも。
しかし、彼はトニー以外からは自分が好かれていないことを知っているし、トニーからも「もう少し付き合いをよくしろ」とたしなめられていることからわかるように、この組織に対して常に警戒心を持っておくべきだったのだ。
しかし、ジャッキーと恋仲になった後はその警戒心がほとんどなくなっている。
だから、新しい仕事の依頼と称してトニーから呼び出されたとき、自分の背後に怪しい動きをする男のことなどを敏感に察知していれば、あのシーンでリンチを受けることはなかったはずなのだ。その前の2度にわたる強盗シーンでのフランクを観れば、トニーにリンチを受けるシーンも回避できたはずと思うのである。
ところが、ボッコボコにされて病院送りにされたうえ、ジャッキーも殺害されてまうのだ。なんともがっかりである。
しかも、何の反動なのかわからんが、笑い上戸になっているという(笑)。ここからフランクが笑い続けるエピソードがだいぶ続くのだが、そんなことしてるよりも早くトニーを殺しに行くか、ジャッキーが死んだことを悲しむシーンぐらい入れたほうがよかったとのではないか。内面のわからない男なので、彼が何を思っているのか読み取れない。
ラストは復讐を果たしてめでたしな終わり方してたけども、ジャッキーを守りつつハッピーエンドするストーリーでも、十分面白くできたように感じた。まぁこれは好みの問題なんだけども、フランクには最後まで一匹狼的緊張感を持っていてほしかったなぁと思う。
ただ、尺は短いし妙な味のある作品なので、けっこうおススメです。
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