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映画『散歩する侵略者』ネタバレ感想 概念を奪うってすごい

散歩する侵略者
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散歩する侵略者

人間から言葉の概念を奪っちゃう侵略者ってすごいね。ちょっと長めの感想になりますが、個人的なこの映画の解釈について紹介します。ネタバレあり。

―2017年公開 日 129分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:「岸辺の旅」の黒沢清が劇団イキウメの同名舞台を映画化。鳴海の夫は数日間の行方不明の後、侵略者に乗っ取られて帰ってきた。同じころ、町で一家惨殺事件が発生し、ジャーナリストの桜井が取材に訪れる。第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門正式出品作品。出演は、「追憶」の長澤まさみ、「ぼくのおじさん」の松田龍平、「シン・ゴジラ」の長谷川博己、「PとJK」の高杉真宙、「ハルチカ」の恒松祐里。(KINENOTE)

あらすじ:不仲だった夫・加瀬真治(松田龍平)が数日間の行方不明の後、まるで別人のように穏やかで優しくなって帰ってきたことに、妻・加瀬鳴海(長澤まさみ)は戸惑う。一方の真治は、何事もなかったかのように毎日散歩に出かけていく。同じころ、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙なことが多発する。ジャーナリストの桜井(長谷川博己)は取材しながら、天野(高杉真宙)という謎の若者に出会う。二人は一家惨殺事件のカギを握る女子高生・立花あきら(恒松祐里)を探す。桜井はあきらを見つけ、そこで天野とあきらがある男と会話をするなかで起こった異変を目撃する。天野は、自分たちは侵略者で人間の概念を調査しており、自分たちがその概念を学習すると相手からそれが抜け落ちると言う。桜井は半信半疑ながら天野たちに興味を持ち、もう一人の仲間を探すという彼らに密着取材を申し入れる。一方、毎日ぶらぶらと散歩をするばかりの真治に、散歩中に何をしているのかと鳴海が問い詰めると、地球を侵略しに来たと答える。鳴海は戸惑いながらも、真治を再び愛し始めていた。町は急速に不穏な世界となり、事態は加速していく。さらなる混乱に巻き込まれていく桜井の選択とは? 鳴海と真治の行きつく先にあるものとは?(KINENOTE)

監督:黒沢清
原作:前川知大:(「散歩する侵略者」(2017年7月下旬 角川文庫より刊行予定))
出演:長澤まさみ/松田龍平/光石研/東出昌大/小泉今日子/笹野高史/長谷川博己

見どころ(個人的な)

言葉の概念を蓄積ってすごい

侵略者たちが地球人の使う言葉に異様にこだわっていて、人類の使う言語の概念を蓄積していく――という設定が非常におもしろいと思った。だから前半部分、3人の侵略者がそれぞれのやり方で概念を人間から奪っていくシーンは非常に興奮して観られた。

侵略者が出会う人によって獲得していく言葉の概念は当然異なるので、それぞれが異なる知識というか個性を持った侵略者になっていく。

もともとの侵略者としてのアイデンティティもあるだろうから、それぞれが興味を持つ概念は違うようだが、ともかくそうやって三者三様に人間から言葉の概念を奪い、それらを統合することで侵略対象である地球人がどういう存在なのかを知っていく。3人の目的は、統合された人間像を仲間たちに発信することみたい。で、それを受け取ると、仲間たちは地球侵略を始めると。

もともと舞台劇らしいので、黒沢監督が内容をどれほど改変したのかは知らんのだが、この内容を考えた人はすごいと思う。てのが個人的にこの映画で俺が素晴らしいと思ったポイントである。

ところどころ、笑えるシーンも

侵略者たちが人類を理解しきっていないために、ヘンテコなコミュニケーションになるシーンもたくさんある。そこは笑えるしおもしろい。

感想

ということで、今月期待の公開作品には入れてなかったけど、興味を感じたので鑑賞したこの作品。黒沢清監督作で鑑賞したことあるのは今作の他には、『スウィートホーム』『CURE』『回路』『クリーピー 偽りの隣人』くらい。

『CURE』と『回路』は、個人的な琴線に触れる部分があるんだけども、全編通して観ると、何だかよくわからんなぁという感じだったような覚えが。で、今作もそんな感じであった。思ったのは、黒沢監督の作品って後半にいくに連れてグダグダって言うと適切ではないんだけども、ダレてしまうような感じがするのだ。

ネタバレというか個人的解釈

侵略者が来なくても、自滅し始めている

黒沢監督が作品ごとにどうしても訴えたいことがあるとか、強いメッセージ性のある作品をつくりたい人なのかどうかは知らない。

ただ、個人的に今作から勝手に読みとったのは、侵略者云々が地球に攻め込んでこようが来るまいが、人類は近い将来破滅に向かう道をたどっているということだ。それは突発的にカタストロフ的出来事が起こるのではなく、緩やかに、今現在も破滅に向かっているということである。

それは、長谷川博己が演じるジャーナリストがショッピングモールの駐車場でいきなり演説を始めるシーンでそう思わされた。そもそも、彼自身も侵略者のことを取材しておきながら、途中まで彼らのことを侵略者だとは信じていない(当たり前か)。だが、彼らを宇宙人=侵略者と確信したから、あの演説をかますのである。

本来ライターとして書くべきことをあの場でどうしても口頭でいいから伝えたかったのかはよくわからんが、彼が言っていたのは、我々は知らぬ間に侵略されているのだということ。気付いた時にはもう遅いのだと。そんなようなことを言うのである。そして、よく考えてください! と訴える。

もちろん誰も真面目に聞いてないし、彼の言っていることは単なる狂人のたわごとに聞こえる。だが、鑑賞者は彼が何を言いたいのかが分かる。

そして、彼の言は表面的に意味をとれば、この世界は侵略者に今まさに、侵略されつつある。そしてそのことに気付いた時にはもう遅いのだということだ。

この言を深読みすると、侵略者というのは現代社会の抱える様々な問題の比喩みたいなもので、現実の世界でも、普通に日常を生きているだけのつもりの俺らの行為の中に、人類を破滅に向かわせる要素が無尽蔵にあるのだということを示しているように思った。

だから長谷川は、考えろと言っているのだ。つまり彼が言っているのは、ビジネスシーンでよく言われる、ゆでガエルの法則みたいなことなんではないか。

愛の概念が侵略者たちを撤退させた!?

ラストのほうで、松田龍平の演じる侵略者は長澤まさみから、愛の概念をもらう(奪うというよりは、もらっていた)。そしたら、彼、普通の人間みたいになっちゃうのである。で、長澤まさみは、「何も変わってない」とかいいながら廃人みたくなっちゃう。

侵略者たちはあの隕石シーンの2ヶ月後、地球侵略をやめたらしい。てことは、鑑賞している人間には、どうも愛の概念が侵略者たちを退けるにあたって有効だったらしいと思わせる。

でも、松田は愛の概念を知ったからいいとして、(その愛も単に長澤まさみが旦那を想う愛に過ぎない気もするが)じゃあその概念はどうやって侵略者たちに伝わったのか。

と考えると、侵略者たちは松田らと同じように、地道に人間に乗り移り、その中でそれぞれ愛の概念を知って、松田と同じように普通の人間になったということか。

もしくは松田自身が、あの見つめあっている間に侵略者同士の考えを知ることができる能力を使うかなんかして、侵略者たちと愛の概念を共有して人間と同じにしてしまったかとか。

この解釈がおかしくないとするなら、侵略者は侵略を止めたわけではないのだ。単に、人間と同じになってしまったのだ。そういうことなんかな?

というのが自分の勝手な解釈。ここからは突っ込みたくて仕方がない部分について。

突っ込みどころ

冒頭のシーン(笑)

まず、冒頭の侵略者になった女子高生が道路を歩いているシーン。それなりに交通量があるようで、車もいっぱい走っているけれど、彼女はそれを意に介さず車道を堂々と歩いている。で、彼女を避けるために車のほうが避けていくんだけど、トラックが横転するシーン。あれおかしいだろ。

すごいオープニングだなぁと思って、その後の展開にワクワクはしたんだけども、ワクワクしつつも、あんな見通しのいい道路なのにトラックがブレーキするの遅すぎ! と思わずにいられなかった(笑)。対向車や前方を行く車の動きがトラックドライバーの視野に入っていないわけがないんだけどな。

終盤の侵略者の攻撃? わけわかんね(笑)

この作品の侵略者は実体を持っていない。侵略者の天野の話によると、こいつらは人間には姿が見えない存在のようだ。それはいいんだけど、だったら何で、仲間と交信するのに人間の使う道具を用いて発信機を作る必要があるのか意味がわからん。なんで乗り移った生命体の文明の利器を使わないといけないんだよ。おかしいだろ。

ラスト近くの火の玉シーンが安っぽすぎ

で、その侵略手法がなんか隕石みたいなのを落とすわけのわからん攻撃(笑)。もしかするとあれは、攻撃ではなくてあの火の玉の中に侵略者らがいたのかもしれない。その辺はよくわからんが、ともかくこのシーンの描写がショボすぎで萎える(笑)。俺が普段観ている糞ディザスタームービーみたいなチープさで唖然としてしまった。

↓たとえばこの作品とか

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長谷川博己が演説中にでタイトルを叫んじゃうダサさ

演説の話は上述したけども、そこで笑ったのは、長谷川氏の演じるジャーナリストが「あそこにいる奴は散歩する侵略者なんだよ!」とか叫んじゃうところ。あれ、ダサすぎだろ。なんであんなこと言わせちゃったんだろうか。そもそも長谷川が一緒にいた侵略者の天野はおまんと一緒にほぼ車で移動してただろ。散歩してたのは松田龍平の演じた侵略者だし。

侵略者は余裕かましてる割にすぐ死ぬ

侵略者たちは人間は肉体を傷つけられると死んじゃうってことをちっとも理解してないらしい。特に女の子のほうは自分でけっこうな数の人間を惨殺している癖に、そのことに対する理解が薄すぎ。だから人間の攻撃に対してほとんど防御ってものを考えないのである。

でも、おまんら人間の体にいるんだから、そら死ぬだろ。もっと考えて行動したり戦ったりしろよって思っちゃうのである。どうやらあんまり、死ぬことに頓着しない生命体のようにも見えるんだけど。

ついでに、あの女の子戦闘力高すぎ(笑)。格闘技の概念でも覚えたのか? それはそれでいいけど、あんな細い体でウェイト差のある男と戦えるとは思えないんですがね。

ということで、楽しく観られたのは間違いないんだけど、納得いかない部分もかなり多い作品でした。

今年は言葉をテーマにした作品がいくつか

ちなみに、気のせいなのかもだけど今年はこうした言葉の概念とか使い方とかそういう話をテーマにした作品がたくさん映画化されているように思った。何でなんだろう。時代的な普遍性のあるテーマなんだろうか。

ちなみに、2017年9月18日から、本作のスピンオフドラマが放映されるらしいです。

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善悪を超えた言葉を獲得するために、みんな人間であることをやめよう。

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