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映画『予兆 散歩する侵略者 劇場版』ネタバレ感想 死の恐怖とは存在することの恐怖だ

予兆 散歩する侵略者
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予兆 散歩する侵略者 劇場版

本編が面白かったので鑑賞したスピンオフ作品。WOWOWのドラマ版を劇場用につなげた作品らしい。率直に思うのは、原作をものした人の”概念を奪う”という発想に拍手を送りたいということだ。ネタバレあり

―2017年公開 日 140分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:「散歩する侵略者」の黒沢清の監督により新たな設定・キャストで制作された同作スピンオフドラマの劇場版。新任外科医・真壁と常に共に行動するうちに夫の辰雄が精神的に追い詰められていき、不安を抱く悦子。そんな彼女に真壁は地球を侵略しに来たと告げる。脚本には「蛇の道」以来の黒沢清監督とのタッグとなる「リング」シリーズの高橋洋も参加。出演は「22年目の告白私が殺人犯です」の夏帆、「3月のライオン」シリーズの染谷将太、「聖の青春」の東出昌大ほか。劇場版は音がドルビーデジタル 5.1 chにアップグレードされ、映像の細部にも変更が加えられている。(KINENOTE)

あらすじ:同僚の浅川みゆき(岸井ゆきの)から家に幽霊がいると告白された山際悦子(夏帆)は、彼女の自宅に向かうが、そこには実の父親がいるだけだった。心配し夫・辰雄(染谷将太)の勤める病院の心療内科へみゆきを連れて行ったところ、みゆきは家族という概念が欠落していることが判明する。病院で辰雄から紹介された新任の外科医・真壁司郎(東出昌大)に違和感を覚える悦子。やがて真壁と常に行動をともにする辰雄が精神的に追い詰められていき、得体の知れない不安を抱いていった。そんな中、悦子は病院で真壁から地球を侵略しに来たと告げられる。冗談とも本気ともつかない言葉だったが、悦子は身の周りで次々に起こる異変に真壁が関与しているのではと疑いはじめる。(KINENOTE

監督:黒沢清
脚本:高橋洋
原作:前川知大:(『散歩する侵略者』)
出演:夏帆/染谷将太/東出昌大/大杉漣

ネタバレ感想

長いんだよなぁ

以前、『散歩する侵略者』の感想でも述べたけど、黒沢監督の描く内容って、何か俺の好む部分に触れてくるから好きなんだけども、いつも自分の触れてほしい細部まで掘り下げずに物語が終わる印象が強い。これは、俺の個人的な興味と黒沢監督の表現したいことが異なるんだと思うので、作品そのものの面白さとは別の話だ。

だが、いつものことなんだけど、尺がどうしても長く感じてしまう。そこがちょっとね。まぁそのことについて本編の感想で触れたので、終わりにする。

黒沢監督ぽさは本編より色濃い

てなことで、本作は『回路』とかと同じような面白味がある。テイストとして、本編の『散歩する侵略者』よりも、より黒沢監督っぽさが色濃く表れているという意味では楽しめた。

例えば物語全体を覆う不穏さとか。本編で松田龍平演じる侵略者よりも、今作の東出昌大演じる侵略者の、概念を奪うごとに人間ぽさが垣間見えてくるそれもいい。いいんだけども、なぜか楽しめないし物足りなさを感じるのは、単に俺の好みの問題である。黒沢監督が悪いのではない。

「死の恐怖の概念」とは

てなことで、個人的に関心を持ったのは「死の恐怖」を奪うくだりだ。いろいろあって死の恐怖を奪った東出医師は、初期においてはその概念の恐ろしさを全く理解していないように見える。なぜなら、どっかの建物の屋上で「これが死の恐怖か!」とか言って踊っているシーン。そんなんあるかいね。死の恐怖を理解するというのはそういうことではない。あんなことでは理解したことになってない――と思う。

と思って観ていたら、東出氏扮する侵略者はラスト近くで死の恐怖を真に理解する。死にゆく自分の境遇に対して理解しているし、真に恐怖しているように見えた。そして、それを運命として受け入れる。「死の概念」を理解したことによって彼は、人間がなぜ「共存」したがる生き物なのかを悟るのだ。

ここまで鑑賞すると、東出氏扮する侵略者は死の恐怖を知ったんだと思って納得できる。そしてその死に様や、よしと思える。なぜなら、死の恐怖はビルから飛び降りようとするジェットコースター的スリルとは別物だと東出氏が理解したことがわかるからだ。

なぜ死の恐怖だけ、2つの概念にしたのか

しかし、よく考えるとおかしいのは、なぜこの物語で「死の概念」だけが、二つの概念の合わさったものなのか。それぞれの登場人物が奪われていたように、「過去」「未来」など一つの概念ではないのか。「死の恐怖」は「死」と「恐怖」の概念をそれぞれ知ったあとでこそ、理解されるべきだと思うのだが。

思うに、「死の恐怖」という概念は別の言葉に置き換えることが可能だ。それは、「存在する」という概念だ。俺は死を非常に恐れる性格の人間だ。だが、20代の頃に知ったのは、俺が死を恐れるのは、死ぬことを恐れているだけではなく、自分がいま、こうしてまさに存在していることが恐ろしくて仕方がないということだった。なぜならその逃れがたい現実は、どんな他者とも共有できないからだ。

であるから俺自身がもし侵略者から概念を奪われるのだとしたら、「俺が存在する」という概念を奪ってほしい。私という人間が存在するという認識を、その概念を奪ってほしい。存在するという概念を知らなければ、死ぬことの恐怖も知らずに生きられるだろうから。

という感想をもたらしてくれるという意味では、この作品の持つ意義は俺にとっては大きい。だが。映画として面白いかというと、さほど面白くはなかった。だけど、ここまで述べたことを再認識させてくれたという意味では、本編以上に力のある作品ではあった。

この感想を読んで黒沢清氏の作品に興味を持たれた方には、『回路』もオススメしたい。わけわからんし、眠くなるけど。

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