屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ
―2020年公開 独=仏 110分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:ドイツ・ハンブルグで1970年代に実際に起きた連続殺人事件に基づく同名小説を映画化。安アパートの屋根裏に住むフリッツは、夜な夜な行きつけのバー“ゴールデン・グローブ”で孤独な女性に声を掛ける。一見無害そうに見える彼には、実は裏の顔があった。監督は、「女は二度決断する」のファティ・アキン。出演は、「僕たちは希望という名の列車に乗った」のヨナス・ダスラー、「パラダイス:愛」のマルガレーテ・ティーゼル、「マリア・ブラウンの結婚」のハーク・ボーム。第69回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。(KINENOTE)
あらすじ:1970年代のドイツ・ハンブルグ。安アパートの屋根裏に住むフリッツ・ホンカ(ヨナス・ダスラー)は、夜な夜な寂しい男女が集まるバー“ゴールデン・グローブ”へやってきては、孤独な女性たちに近づいていた。しかし、彼に声を掛けられた女たちは、顔をしかめるだけだった。そんな一見無害そうに見えるフリッツを、怪物と疑う常連客はいなかった……。(KINENOTE)
監督:ファティ・アキン
出演:ヨナス・ダスラー
ネタバレ感想
実話を基にした物語。ドイツはハンブルグのザンクトパウリには風俗街があるらしい。そうなんだ、サッカークラブがあるのは知ってたけど風俗街があるとは。
で、その風俗街の近くで暮らすフリッツホンカは、容姿が醜く、猫背だし歯が汚いし、斜視気味な小男。趣味は飲酒で、暇さえあれば風俗街のバー、ゴールデングローブという店で常連客たちとくだをまいている。
常連客は老人が多く、退役軍人や年老いてくたびれた娼婦やら、何やってるのかよくわからん人やら、生活保護受けたほうがよさそうな貧民などなど、ともかく底辺臭が漂いまくった人たちのオアシスだ。
オアシスと言っても、この店の常連には、できればなりたくないなって感じ。まず、みなさんそろいもそろって、出で立ちが汚すぎ。あと人のこと言えないんだけど、こいつらみんなアル中だろ。フリッツも例にもれず、ここで飲んでないとしたら、自宅があるマンションの最上階、屋根裏みたいな小さな部屋で買いためた酒をかっくらっている。
彼は大家族で育ったらしく、きょうだいの多くは消息を知らんが、一人、弟とは交流があるらしく、たまに彼と酒を飲んでいる。彼らの会話には知性のかけらも感じないので、おそらくまともな教育を受けていない可能性すら感じる。
その中でアル中に片足突っ込んでる俺が感心した弟の言葉がある。いわく、酒を飲む理由について。①憂さ晴らし②祝い事③暇つぶし …わかるっ! マジで首がちぎれるほどに首肯したくなってまう至言だ(笑)。
俺のお里が知れてしまいそうではあるが、確かにそうなんだよなぁと思わせる、この作品においての最大の収穫であった(笑)。
てなことで、気の毒なことに育ちが悪そうなことが原因で底辺を彷徨う日常な彼は、容姿が悪いこともあって、モテず、女の愛に飢えている。コンプレックスのせいか、おそらく普通の女性とはまともなコミュニケーションができないようで、ナンパ相手は年老いた娼婦か、明日の飯にすら困っている老女ばかり。そういう相手に対して、酒の力も手伝って、メチャクチャ暴力的な接し方をしちゃうところが、マジでこの男のどうしようもなさを感じさせる。
ところが一方で、なんか、彼のモテなさは、なんとなく自分自身に重なる部分もあって、切なくなってくるシーンもあったな。それは、思春期の頃に好きな女の子とうまくコミュニケーションが取れなかったり、ともかく全然モテなかったり、彼女ができなくて悶々とした経験がある男には、共感できるところはあるんではないか。…俺だけ?
ともかく、フリッツホンカという殺人鬼は、社会的弱者なのである。問題なのは、殺人の相手が自分よりさらに弱い人間だということだろう。一部の殺人鬼は、追随者が出てきちゃうほどに憧憬の相手になるケースもあるようだが、この男についてはそういうことはなさそう。その違いはどういうところにあるのかを考えてみるのも面白そうだが、それはこの記事ではやめとく。
いずれにしても社会の底辺を蠢く彼の日常とあの街の住人たちを見ているのは、つらい。ともかくみんな汚い。そして臭そう。
それと対照的な人物が2名出てきて、それは留年が決まった女子高生と、彼女に好意をよせている転校生の男の子だ。この二人には未来があるし、容姿もいいので、他の登場人物との対比がすさまじい。
その中で男の子のほうは、青春真っただ中の悶々とした感情を抱えているようで、ザンクトパウリの街に興味を持っている。そして、意を決してゴールデンバーを訪れることで、大人の階段上ったような気になってまうのだ。
んで、彼女にいいところを見せたかったのか、あろうことか彼女同伴でバーを再訪しちゃう。そしたらその雰囲気に彼女はドン引き(笑)。しかも、常連ぶって退役軍人にトイレで話しかけたら、小便をひっかけられてしまうという屈辱な経験。彼にはこの体験をバネにいい大人になってもらいたいが、かなりの嫌な思い出になったことは確かだろう。
てなことで、殺人鬼を描いた作品としては、べつにハラハラドキドキもしないし、捕まり方もあっさりしてるし、その辺は物足りなさはある。が、その汚物まみれな日常に、自分ももし間違えば陥ってしまう可能性もあるわけで、その辺は反面教師的に見ることはできる。
一度は酒を止めてまともな生活に戻れそうだったのに、けっきょくは元の世界に戻っちゃうところなんて気の毒ではあるし、ともかく、お酒はほどほどにですな。
2度目を観ることはないくらいに面白くはなかったけども、いろいろ考えると示唆的なものはある作品。そういえば、同監督作の『女は二度決断する』とは全然毛色の違う作品だったなぁ。
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