スモールワールド
少女誘拐犯を取り逃して母親に責められた警官が、自責の念にかられて12年間にわたり少女の行方を追い続ける執念の物語。人身売買に手を染める人間たちの悪魔ぶりが際立つ胸糞な展開のため、そいつらの所業に振り回され続けてきたラストの主人公の行為には、ある意味で溜飲が下がる。お見事でした!
―2021年製作 波 116分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:国際的な児童人身売買の実態を暴く社会派サスペンス。ポーランドで4歳の幼女ウーラが誘拐される。誘拐犯を取り逃がした自責の念に苛まれた警察官ロベルトは、国際捜査に乗り出す。しかし、12年間に渡る執念の追跡で、ロベルトはある症状に蝕まれてしまう。監督は、「エクソダス 爆弾に取り憑かれた男」のパトリック・ヴェガ。出演は、「ショパン 愛と哀しみの旋律」のピョートル・アダムチク、「ミッドナイト・マーダー・ライブ」のエンリケ・アルセ。ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて開催の『未体験ゾーンの映画たち2023』で上映。(KINENOTE)
あらすじ:ポーランド。4歳の幼女ウーラが誘拐され、誘拐犯のトラックを見つけた母親が車で追いかけるが、スピード違反で警察官ロベルト(ピョートル・アダムチク)の尋問にあう。そのためロシア国境の検問所でトラックに逃げられ、母親はロベルトを責め立てる。ロベルトは自責の念に駆られ、国際捜査に乗り出す。3年後、ロシアでウーラにつながる痕跡が発見され、ロベルトは現地へ向かうが、一足早くウーラたちは別の組織に売買されていた。5年後、ウーラはイギリスの小児性愛者が集う秘密の屋敷にいた。情報を入手したロベルトは屋敷に潜入するが、身元がバレてしまい、救出は失敗に終わる。その後、アジアに売られたウーラを追い、ロベルトはタイへ向かう。しかし、12年もの長年の追跡捜査で、ロベルトはある症状に蝕まれていた……。(KINENOTE)
監督:パトリック・ヴェガ
出演:ピョートル・アダムチク/エンリケ・アルセ/ユリア・ヴィーニャーヴァ/モントセラト・ロイグ・ド・ピュイグ/アンドリス・ケイス
ネタバレ感想
人身売買ビジネスの売り手と買い手
あらすじに興味を惹かれてレンタルで鑑賞。人身売買系の作品ってのは映画だけでもたくさんあって、その描かれ方も様々。どれも胸糞悪くなるような内容なんだけど、こういう商売を当たり前のように手がけている鬼畜な奴らや、それに加担する金持ちや賄賂を受け取ってこいつらの犯罪をスルーしちゃう警官とか役人とか、たくさんいるんだよね。
何でこんな商売が成り立つかっていうと、とうぜん金になるからだ。俺がこれまでに見てきたいろいろの作品の中で知る限りでは稼ぎ方には二通りあって、一つは、さらった子どもたちの臓器を摘出し、その臓器を金持ちに売る商売。金持ちたちはそれで自分の病を治したり、不治の病に侵された自分の愛する子どもを救おうとしたりするのだ。
んで、もう一つは子どもたちを性的な対象として扱ったり、儀式の捧げものにしたりするケース。本作において描かれるのは後者で、誘拐された子どもたちを買う人間の多くは富裕層。
買い取った少女を自分と一緒に生活させていいように扱う奴(例えば、タイでウーラと一緒に生活してた勃起不全DV男)や、たくさんの子どもを悪魔への儀式の捧げものとして扱っていた悪魔崇拝ババぁとか。
バフォメットの頭を被ったババぁの屋敷に仮面とか動物の着ぐるみ被って遊びに来ている奴らももちろん富裕層で、屋敷には主人公のロベルトの捜査を邪魔してたインターポール(確か)の上役も遊びにきてたよね。マジでこいつらは人間のクズ。来ていた着ぐるみが奴らの本能を表してて、要するに、理性のない動物以下の存在(人間も動物なので、上から目線ぽい物言いになっちまうが)。
で、人身売買ビジネスの二つのケースにおいて、いずれも流通経路の川上にいるのはチンピラや三下みたいな小遣い稼ぎ野郎(本作で言うなら、ウーラをさらったトラックおじさんのキリル)で、そいつから裏社会の組織(キリルが5人の子どもを売った兄ちゃんたち)などが子どもを買い取り、川下で子どもたちを消費するのが、富裕層や権力者(ババぁの屋敷にいた奴ら全員と、勃起不全DV)どもだ。
こういう輩にとっては、金になるし、金があれば、人の命なんてどうとでもできるのである。ババァがロベルトに勝ち誇って言ってたように、人身売買ビジネスってのは成長産業なのだ。ババぁが言うには、銃や麻薬よりも、今後は需要が増していくらしい。マジでディストピア。
こういう奴らと同じ人間だと思われたくないんだけども、人間ってのは同じ穴の貉であって、俺も含めてどの人間にも、こういう黒い本能はあるんだと、個人的には思っている。
隠された残虐性や変態性は誰にでもあるのでは
本作では、ロベルトがウーラの足取りを追う中で、さまざまな変態たちと出会うシーンが描かれる。キリルの弟であるオレグおじさんは、金もないくせに子どもたちを引き取って育てていたのはどういう趣味かわからんが、それ以降に出てくる奴らは大概がどうかしている趣味と性癖と信仰の持ち主で、本当にどうかしているんだが、繰り返すけども、こいつらは同じ人間なのだ。認めたくないが、俺と同じだ。嫌すぎる。しかし、自分にもこうした残虐性や変態性は隠されているのかもしらんのである。
とは言えさすがに、ウーラが仕事で得た3人分の性液を買いにきて、その場でフルーツジュースのようにそれを飲み干して次の職場に颯爽と向かっちゃいそうな感じで現れるザーメンごくごくおじさんとは一線を画しておきたいとこだが(笑)。
ロベルトも基地外じみた環境に入り込む捜査を続ける中で、精神が病んでいっているようで、しまいには自分もペドフィリアになっちまったんじゃないかと悩むようになる。プールのスライダーの中で少女を襲おうとし、意志の力でそれを断ち切るシーンはマジでヤバい犯罪者めいてて笑えるんだけども、後半のロベルトはそんな感じで、自分自身も裁くべき対象とみなし始めたようにも見えた。
ちなみに、彼がロシアで捜査してたときにコンビを組んでた女暴力刑事はかなり乱暴な仕事ぶりだったけど、ロシアの警察権力って本当にあんな感じなのかね(笑)。いずれにしても、彼女みたいな相棒と一緒に捜査を続けられていたら、ロベルトはもう少し精神的負担を減らすことができたんじゃないかと思わなくもない。
で、彼が助けようとしたウーラであるが、一度、ロベルトから救出された際の会話を見ると、彼女は完全に奉仕人としてのアイデンティティの持ち主として洗脳に近いことをされてるのがわかる。それとも理性に蓋をして自分の意思で自動機械になったか。いずれにしても痛ましいシーンで、この作品ではタイにうつった後の彼女の日常も描かれてて、これがまたキツイ。
そこで登場するのが、前述の勃起不全DV男。まぁこいつが即死レベルの人間。どういう経緯で金持ちになれたんだろうか。それはこいつが即死レベルに他人への配慮がない人間で、そうだからこそ世知辛い競争社会で他人を出し抜いて生き残れたんではないかなんて邪推しちゃうくらいに即死野郎。こいつはロベルトとひと悶着あって死んじまうんだけど、もっと早く即死すればよかったのにーーと思っちゃいましたな。
ラスト、ロベルトが大暴れするのがよい
で、この物語の白眉は、ウーラを何とかポーランドに帰郷させられるようになった後の、ロベルトの行動だ。なんと彼は、単身バフォメットババぁの屋敷に乗り込んで、そこではしゃいでたパリピどもを全員射殺してまうのである。
マジでこのシーンがよろしくて、入れ食い状態でロベルトの撃つ弾丸の犠牲になっていくクソ富裕層どものその様に、俺なんかは溜飲が下がりまくっちゃって、いいぞロベルトもっとやれ! と思っちゃいまして、その画面を見ていた俺の表情はきっと、屋敷にいたクソ野郎どもが子どもを見る眼つきと、なんら変わらなかったんだろうなぁということが容易に想像されたのである。
てなことで、今作はとても楽しめた。こういう人身売買ビジネスが絡む映画作品ってアクション的な内容で消化されるか、最初から最後までシリアスに描かれるかどっちかという印象だったけども、今作はアクション要素もあり、痛ましいシリアスな面もあり、そのうえで人身売買ビジネスの糞さ加減をしっかり描いているところがよろしいでありました。ただ、内容が内容だけに、見る人を選ぶのかもしれんが。
この監督の名前、どっかで聞いたことあるなぁと思ったら『ブレスラウの凶禍』っていうぶっ飛んだ殺人事件作品を撮った監督だった。あれもけっこう面白かったよな。この監督の作風、俺には合ってるのかもしらん。
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