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映画 タロウのバカ ネタバレ感想

タロウのばか
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タロウのバカ

高校生のエージとスギオにはバカのタロウという少年の友だちがいる。ある日、図らずも拳銃を手に入れたことによって3人の人生は大きく変わり始める。タロウがバカなのは仕方ないが、残り二人は同情があまりできないバカ。でも、こういう人たちがいるが今の社会なんだなぁと思わされる暗い作品。ネタバレあり。

―2019年公開 119分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:「日日是好日」の大森立嗣が監督・脚本を務めた青春ドラマ。戸籍がなく、学校に通ったことのない少年タロウには、エージとスギオという高校生の仲間がいる。3人は奔放な日々を過ごしていたが、偶然一丁の拳銃を手に入れたことから現実と向き合うこととなる。出演は、本作が俳優デビューとなるYOSHI、「アルキメデスの大戦」の菅田将暉、「町田くんの世界」の太賀。(KINENOTE)

あらすじ:戸籍がなく、一度も学校に通ったことのない少年タロウ(YOSHI)。タロウには名前もなかったが、エージ(菅田将暉)とスギオ(太賀)という高校生の仲間が“タロウ”と名付けた。エージとスギオはそれぞれやるせない悩みを抱えているが、タロウといるときはなぜか心が解放されるのだった。大きな川が流れ、頭上を高速道路が走る町を、3人はあてどなく走り回り、自由を感じながら奔放な日々を過ごしていた。しかし、偶然一丁の拳銃を手に入れたことから、3人はそれまで目を背けていた現実に向き合うこととなる……。(KINENOTE)

監督・脚本:大森立嗣
出演:YOSHI/菅田将暉/仲野太賀/奥野瑛太/國村隼

ネタバレ感想

今後の展開を期待させる冒頭の施設のシーン

ネットフリックスで見つけて鑑賞。タロウを演じた若者は音楽分野かなんかで有名な人らしく、しかも交通事故で死んじまっているそうだ。ということで、今作が映画初主演作であり、遺作らしい。

もう少し軽めな青春作品なんかと思ってたら、なかなかハードな内容。いい意味で驚いたし、楽しめた。

そもそも冒頭のシーンからしてぶっ飛んでで、吉岡と小田(國村準)が廃墟みたいな建物にやってくるところから物語は始まる。んで、そこは障がい者を収容して暮らさせてる施設のようで、障がい者の保護者たち(多分)が大金を払ってこの施設に送り込んでいるらしい。

そうやってお払い箱になった気の毒な人たちが住まう施設を運営してるのが小田らしい。この小田ってのはどうもヤクザ組織とつながりがあるみたい。んで、吉岡はこの施設の存在を憎んでいるようで、かなりの暴言を吐いているわけだが、彼の鬼畜な言い分からは、彼自身がこの世の仕組みに対して激しく憤っていることが伝わってくる。

要するに、悪者でありながらも、彼の怒りについては共感しないでもない部分もあるのだ。そんな吉岡がケガをしたのか何なのか瀕死になっている障がい者を拳銃で撃ち殺しちゃう。

このシーンを見ただけで、この作品はなかなかヘヴィな問題作っぽいなぁと感じさせる力があって、先の展開に期待が持てる内容であった。

ただし、施設の話には広がっていかない

しかもその後、バイトでもしてたのか何なのか、エージもそこにいて、そのエージも吉岡にボコボコにされる。さらに、自分が殺した障がい者を小田と一緒に処理した吉岡は、なぜかここで小田も射殺。なんなんこれぇ…。

ーーと思わせておいて、けっきょく吉岡が誰に雇われてるのかとか、小田は何だったのかとか、この施設がどうなったのかとかは、何も判明しない。その辺はちょっともったいないし、國村準の無駄使いな気がしなくもない(笑)。

いずれにせよ、この出来事によって吉岡に復讐をすることになったエージが、スギオとタロウを連れて吉岡をボコった拍子に拳銃を手に入れることで物語は本筋に入っていくわけで、上述の導入部はその後の展開にやっぱりあまり影響してないところは繰り返しになるが、残念。

ついでに言うと、この吉岡は半グレっぽい割にはその筋の人っぽい小田を殺しちゃったり、大物なのか、小物なのか、イマイチようわからん。このキャラは単なる拳銃を手に入れるためにいただけのような脚本的に都合の良い人物みたいな印象で終わっちゃってるところも残念。

タロウの物語

上記などを踏まえて鑑賞後に思ったのは、この物語において心に変化が生まれたり成長したように見られるのは、タロウだけで、これはエージでもスギオでもなく、タロウの物語だったのだなということだ。

エージ

エージは兄と同じく柔道の道を期待されていて、特待生として高校に入ってきたようだが、兄のようには大成できず、なんともヤサグれた生活をしている。そのくらいしか彼の背景は描かれておらず、なんだかよくわからない人間だ。しかし鬱屈した何かは抱えており、破滅的な生き方しかできない人間で、暴力的に生きたがゆえに、暴力の中で死んでいくことになる。

スギオ

彼の同級生であるスギオは主体性がない男で、その場のノリで犯罪に手を染めるエージとタロウについて行けないものを感じているのに、2人といる以外には居場所が見いだせないのか、一度は関係を断とうとしたのに、結局は2人のところにもどってきて、最期には自殺することになる。

スギオがエージとタロウと決別しようとした際に、父親が出てくるのには笑ったが、スギオはこの親父の言いなりになってるようで、この親父に「自衛隊に入れと言われた」からそれを選択すべきか真剣に悩んでいるようで、ともかく主体性がない。

であるから、父親が前述のシーンに出てくるわけだが、この親父がまた頼りにならなくて、なんのためについてきたのか意味不明。息子が大事ならもう少し話し合いに介入すればいいのに、「縁切りのために」エージとタロウに殴られる息子を傍観してるだけなのである。

ただ、スギオのキャラにはエージとは異なりもう少し奥行きがあって、洋子という同級生に恋してるのだ。でも、洋子は売春をしている。スギオはそれを止めさせたいわけだが、ストーカーみたいなことするだけで、彼女とコミュニケーションを取ろうとしない。

でまぁ、いろいろあって、3万円を握りしめて彼女に近づくものの、最終的に思いは成就しないわけで、それがきっかけで彼は自暴自棄になっていくわけだ。

ただ、エージもそうなんだけど、この2人は家庭の境遇などがそれほどよろしくないから今の状態があるんだろうなぁと想像させられはするものの、その破滅ぶりにあまり説得力がなく、設定上必要な存在だったんだろうなぁってな感じがしたのである。

で、それを感じさせないのがタロウで、であるからこれはそもそもタロウの話だったんだろうというのが俺の感想。タロウはバカだが、エージとスギオのバカさとは違うバカで、純粋で無邪気なバカ。要するに真っ白だったようなもんだから。

タロウだけが成長を感じられる

タロウの母は何で生計を立ててるのか知らんが、育児は完全に放棄してて、タロウはそういう環境で暮らしているので、飯も満足に食えず、学校にも行ってないので、最低限の教育も受けていない。

であるからなんだかよくわからないままに日々を生きていて、コミュニケーションがあるのは、河原にいるダウン症のカップルと、友だちになったエージとスギオくらい。

タロウは特に、エージの影響をかなり受けていて、彼のすることなすことをまねたり、一緒に体験することで自分の人格形成しているようなところがある。そもそも善悪の区別もつかないので、エージがしている犯罪行為にも躊躇なく手を出すことができるし、彼がタロウとそれを楽しんでくれていることに喜びを感じているようだ。

ただ、拳銃という人の命を奪える道具を手に入れて以降は、その拳銃の威光を借りつつも、それを仲立ちにして他人に対して自分の思いを吐露するようになる。そのシーンが、道端のオバサンとの会話であり、母親との暴力的なコミュニケーションの場面だ。

しかし彼は、そうして自分の不満や抱えている何かを言語化していく過程で、人として大事な何かもはぐくんでいるように見える。

それはダウン症のカップルのうちの男のほうが死んでしまったとき、相方を亡くした女のほうの悲しみを受け止めてあげられるようになっていることからも見て取れる。母親から抱きしめられたことがなかったであろうタロウが、彼女を抱きしめてやれる共感力を身につけているからだ。

さらに彼はエージの死をみとったのちに、自分と同じような歳の人間たちがサッカーに興じているのを目の当たりにし、その輪の中で叫び続ける。叫び続けて物語は終わる。あのタロウの叫びはなんなのか。

しかしあの絶望的な叫びを乗り越えた先に、少しだけタロウの将来に希望が見いだせるような印象を残した。

てなことで、そのラストにいたるまでのタロウ動きを示すためにそのほかの登場人物がいるのであり、であるから吉岡を殺害した件が明るみに出なかったり、建設現場で毎日住み続けていることがバレなかったり、スギオがレイプ未遂した事件が表にでなかったり、そうした突っ込みどころ満載のエピソードたちもどうでもイイと思えるくらいに、タロウの行く末を見守る物語であったんだなぁと思う。

この世はディストピア

そして、こうした不遇な若者たちはリアルな世界でも当然増えているわけで、たまたまそういう人たちと関わる生活をしていない自分も、格差と分断が広がる世の中が続く限り、自分の求める安穏とした暮らしがどんどんと遠ざかっていく社会が形作られていることに、最も暗い気持ちにさせられたのである。しかし、それが現実だ。ディストピア。

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