麻薬王
ネットフリックス配信作品。一般人のドゥサムがちょっとした密輸に関わった結果、ヒロポンの売人に。時代の流れに乗って成り上がったドゥサムは、ヒロポン帝国を築き、表の世界にも影響力を持ち始めるのだが――ネタバレあり。
―2018年製作 韓 138分―
あらすじ:1970年代、釜山。一介の密輸業者が足を踏み入れたのは、日本相手の麻薬ビジネス。善と悪、2つの顔をもつ密輸王の伝説は、まさにここからはじまった。(Filmarks)
監督:ウ・ミンホ
出演:ソン・ガンホ/チョ・ジョンソク/ペ・ドゥナ/イ・ソンミン/キム・デミョン/キム・ソジン/イ・ヒジュン/チョ・ウジン/ユ・ジェミョン
ネタバレ感想
家族を養うために真面目に働いていた男が、黒社会の密輸に関わったことで、ヒロポンづくりをしてそれを売りさばくことになり、巨万の富を得ていくが、最後は自滅する物語。
この手の物語ってたくさんあるので、話としては目新しさはさほどない。冒頭で事実を基にした話という紹介があるが、描かれている1970年~80年代の韓国社会があんな感じだったというところが、おそらくノンフィクション的な部分だろう。
韓国と日本の黒社会が通じて、ヒロポンを韓国で製造して日本に輸出するルートをつくっていたかどうかってのは、事実なのかわからない。特に、「メイドインコリア」ってなブランド名はないんじゃないかなと。ただ、日本のヤクザが韓国の闇社会とつながって何らかの商売をしていたのは、本当だろう。
印象としては、同じ韓国映画の『悪いやつら』とブライアン・デ・パルマ監督の名作、『スカーフェイス』を混ぜたような感じの作品だった。前者は、普通の市民が韓国社会特有のコネと賄賂で成り上がっていくところが似ているし、後者は、ラスト付近の監視カメラがたくさんある部屋の、内装の色使いなどがトニー・モンタナの自室に似ている。さらに、ヒロポン中毒になって検察人たちに向かって銃を撃ちまくるシーンも、トニーモンタナのラストバトルのシーンから影響を受けているように観えた。
イ・ドゥサムは、成り上がるにつれて周囲の協力者たちが減っていく。その孤独を埋めるためなのか、彼は「売人が薬に手を出したら終わり」ということを自覚していながら、ヒロポンにはまっていく。
そんな彼が目的としていたのは何なのかというと、社会の変革だったのかもしれないと思わされる。彼は愛国者なので、最初は国内ではヒロポンをさばかない。自分の国を占領していた憎き日本に輸出することで、日本人を薬漬けの国にしてやろうとしていたのである。
ところが、あることをきっかけに、国内でもヒロポンを売りさばくように。それにより、一気にメイクマネーをしていくし、国内のさまざまな権力者たちとコネを持つようになっていく。そのおかげで彼は、自らの財を利用して表社会にも進出し、社会貢献活動や政治活動を推進するようになる。
しかし、けっきょくは時代の変革の流れにのれず、廃人同然な結末を迎えることになるのだが、彼の行為を観ていると、本当に世の中を変えたいと思うなら、たとえ表の社会にいても、黒いうわさが立つような何かをせざるを得ないことがわかる。よりよい世界をつくるためには、どこかで黒いことをしなければならぬのだ。
おそらく、時代を牽引していく政治家とか権力者ってのはそういうもんなんだろうなと思わせる。それがいいか悪いかってのは正直どちらともいえない。
てなことで、そういう人間社会の複雑さ、人間の業の深さなどを垣間見られるという意味では、なかなか良い作品だった。決して内容に目新しさはないんだけども、時代背景をうまく利用した物語のつくりかたが上手なんだろうと思われる。
ついでに言うと、本作の仕立てのいいスーツを着たソン・ガンホはなかなかカッコよろしいと思った。俺のイメージだとこの人、汚いオッサンっていう感じだったので。前もなんかの作品の記事で書いたけど、韓国って、中年世代の役者に味のある人がたくさんいて、それが作品の良さにかなり影響しているんだなって思えるところ。
なぜなら、韓国で面白いと思われる作品の大半で、そういうオッサンたちが主役を張っているからだ。ソン・ガンホ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、クァク・ドウォン、キム・ユンソク、マ・ドンソク…。今の日本の作品で、こういう年齢層の人が主役やってるギラギラした作品ってなかなか思いつかない(泣)。
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