スカーフェイス
キューバからアメリカに移民してきた政治犯のトニー・モンタナ(アルパチーノ)が、コカインビジネスで成り上がり栄華を極めたのち、没落するまでを描いたバイオレンス犯罪作品。デパルマ作品の中でもかなりの傑作。The World is Yours! ネタバレあり。
―1984年公開 米 170分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:キューバ移民がコカイン密売で暗黒街のボスにのしあがり、そして自滅してゆくまでを描く。ハワード・ホークス監督作品「暗黒街の顔役(1932)」を再映画化したもので、この映画はハワード・ホークスと脚本家ベン・ヘクトに捧げられている。製作はマーティン・ブレグマン、共同製作はピーター・サファイヤー、エグゼキュティヴ・プロデューサーはルイス・A・ストローラー。監督は「ミッドナイトクロス」のブライアン・デ・パルマ。脚本はオリヴァー・ストーン、撮影はジョン・A・アロンゾ、音楽はジョルジオ・モロダーが担当。出演はアル・パチーノ、スティーヴン・バウアー、ミシェル・ファイファー、ロバート・ロッジアなど・パナビジョンで撮影。(KINENOTE)
あらすじ:80年5月、キューバは反カストロ主義者をアメリカに追放した。その中には政治犯の他にトニー・モンタナ(アル・パチーノ)、マニー・リベラ(スティーヴン・バウアー)のような前科者もいた。彼らはマイアミの高速道路下にもうけられた移民キャンプに送られた。3カ月後、キャンプ生活に飽きて来たトニーは、政治犯レベンガの殺しを頼まれて実行する。数週間後、トニーとマニーはマイアミで皿洗いをしていた。そこにレベンガ殺しを依頼したフランク(ロバート・ロッジア)の部下オマーが、仕事を持って来た。あるモーテルに行き、コカインの取引きをしてこいというものだったが、相手は金を横取りしようとした。一瞬の隙をついてトニーは、敵を皆殺しにする。フランクの豪邸を訪れたトニーは、彼の知己を得て部下になった。フランクの情婦エルヴィラ(ミシェル・ファイファー)にひかれていくトニー。ある夜、トニーは自分より先に渡米した母親(M・コロン)と妹ジーナ(M・E・マストラントニオ)に会いに行った。母は息子のヤクザな生き方を嫌うが、妹は兄の派手な世界に関心を持つ。数カ月後、トニーとオマーはボリヴィアのコチャバンバに行き、黒幕のソーサと会い、トニーは独断で高額の取引きに同意した。そんなトニーをフランクは邪魔者と思うようになる。悪徳刑事バーンスタインが賄賂を要求するし、ジーナは屑野郎と付き合っているしで、放心したようにクラブでうなだれているトニー。トニーを暗殺者の銃弾が襲う。あやうく難を逃れたトニーは、マニーらをつれて、フランクの事務所へ行き、フランクと居合わせたバーンスタインを射殺。こうして、トニーはマイアミのボスの座につき、エルヴィラと結婚する。だが、彼の栄光の日々も長くは続かなかった。脱税が摘発されたのだ。一方、ソーサの方も麻薬取締りが厳しくなり、困っていた。ソーサは取締り委員会の最高顧問暗殺を手伝えば、トニーの脱税問題に手を廻すという。トニーはニューヨークに行き、ソーサの殺し屋の仕事を手伝う。しかし、顧問が家族と一緒なのを見て、爆殺に反対し、殺し屋を射殺してマイアミにもどる。エルヴィラの姿が消え、ジーナの行方も知れない。とある家に行ったトニーは、ドアを開けたマニーを射殺。「昨日、彼と結婚したの…」と、泣くジーナ。邸にソーサ一味が襲撃して来て、壮絶な銃撃戦が展開された。そして、ついにトニーは銃弾を何発もぶち込まれて死亡する。(KINENOTE)
監督:ブライアン・デ・パルマ
脚本:オリヴァー・ストーン
出演:アル・パチーノ/スティーヴン・バウアー/ミシェル・ファイファー/メアリー・エリザベス・マストラントニオ/ロバート・ロギア/ポール・シナー/ミリアム・コロン/F・マーリー・エイブラハム/リス・ユーリン
ネタバレ感想
デパルマ監督による『暗黒街の顔役』のリメイク
バイオレンス映画、犯罪映画好きなので、この作品はDVDも持ってて、何回も観ている。今回はネットフリックスで鑑賞した。今作は変態監督、ブライアン・デ・パルマによるもので、ハワード・ホークス監督作品『暗黒街の顔役(1932)』のリメイクだそうだ。
ただ今作は、デパルマ監督作としては彼の変態性がそんなに前面には出てない。それは、彼が依頼されて引き受けた仕事だったからだと思われる。まぁでも、彼の趣味が前面に出てないことが功を奏したと考えられそうな面白作品だ。趣味が前面に出た作品も面白いけど(笑)。
トニーモンタナのキャラがいい
何が面白いって、ファックだのゴキブリ野郎だの、汚い言葉を使いまくる主人公のトニーモンタナのキャラがいいのである。キューバからの難民であり、故郷でも苦渋をなめ続けてきたせいか、アメリカにわたってからも成り上がるために犯罪をすることに何のためらいもなく、とはいえ荒唐無稽な突進型ではなくて、それなりの戦略があり、嘘をつかず、根性と己の信念に基づいて組織を拡大していく様がカッコイイ。
金さえあれば惚れた女性を自分のものにできると信じて疑わず、ある意味では相手の気持ちなんか斟酌せずに己のものとしていくオス度。公開当時は、オリジナルと全く異なるストーリーや表現に批判が集まったそうだが、逆に黒人らには受け入れられて、後のラッパーなどに大きな影響を与えたってのも、わかるといえばわかる。底辺から這い上がろうとするトニーの様に、多くのアメリカのマイノリティたちが、自身の姿を投影しただろう。
チンピラの成り上がりと没落を描く
だがしかし、これは単なるチンピラの成り上がり物語ではなく、その没落も描かれているところがいいのだ。
最初のボスであったフランクの裏切りをきっかけに、逆に彼を抹殺してシマを奪ったトニーは、ボリビアの麻薬王であるソーサと仕事をすることでのし上がっていく。フランクの妻であるエルヴィラを自分のものとし、さらには豪邸を建てて、その庭にトラを買い、最愛の妹であるジーナのために美容室をプレゼントし、コカイン売買で得た収入は銀行で洗浄していたものの、そこではさばききれないくらいの量にまで金がふくれあがっていく。
最終的にトニーは脱税容疑でピンチに陥り、それを回避するためにソーサと取引をして、ある男の暗殺を手伝うことになる。しかし、その暗殺対象が子どもを連れていたことを理由に作戦を放棄。ソーサの怒りを買って彼の組織と戦争をすることになるのだ。
それとは別に、奥さんのエルヴィラは毎日食っちゃ寝してるほかは、コカインを吸ってるだけのジャンキーで、子どもも授かることもできないので、トニーとの関係はあまりよくないものになってて、ある日、トニーと相棒のマニーと3人で会食時に大ゲンカ。エルヴィラは出てってしまうのである。
それとほぼ時を同じくして起こっているのがソニーに頼まれた暗殺仕事であり、それを反故にしたうえ、エルヴィラはいなくなっちゃうし、さらには自分の愛するジーナが相棒のマニーと密かに婚約してたことに怒ったトニーは衝動的にマニーを射殺。ジーナとの関係もめちゃくちゃになってまう。
こうして公私ともに破滅への道を歩むトニーは自身もコカイン中毒になってもうどうにもならぬ。
ソーサとの戦争が勃発し、とはいえ一方的に屋敷に攻め込まれるだけなんだが、トニーはソニーの送り込んだ刺客の軍団に対し、最終的にはたった一人で立ち向かっていくのである。
けっきょく、豪邸の2階で階下の刺客たちを迎え撃っていたトニー、ハチの巣にされながらも、しばらくは倒れることなく根性で生きていたものの、背後からターミネーターみたいな無言の男が迫ってきて、背中をショットされて絶命。2階から階下の噴水にドボンして死亡してまうのだ。
The World is Yours(世界はおまえのもの)
こうしてジェットコースター的に成り上がり、そして死を遂げるトニーであるが、その過程での印象的なシーンが二つ。
一つはエルヴィラとの喧嘩の中で、エルヴィラに彼は言われる「わかる、トニー? 私たちは負けたのよ」具体的に何に負けたのかはわからんが、明らかにあの時点で確かに、トニーたちは負けていたのである。
そして、トニーが殺される最期のシーン。彼が墜落していった噴水に装飾されているオブジェには「The World is Yours(世界はおまえのもの)」という文字が刻まれている。これは以前、フランクをぶっ殺して彼の組織とエルヴィラを自分のものとしたトニーが空を見上げた時に見えた飛行船に書かれていたのと同じ言葉だ。
あのときは成り上がりの途上で頭上にあったその言葉、豪邸を手に入れてからは己の眼下にしていた。しかし、死して噴水に落ちた彼は、その言葉に見下ろされる形で幕を閉じるのである。
この演出は憎いですな。そして、諸行無常の響き、盛者必衰の理を感じる名シーンなのである。
ということで、何度みても面白い作品。面白いと言えば、エルヴィラとの最初の出会いの夜に彼女が踊ってるダンスも華麗ではなくて笑える。
さらに、デパルマの変態性はあまり出てないと述べたけども、トニーがジーナに対して異常なほどの愛情と、であるから彼女に言い寄る他の男たちへの嫉妬を表現したシーンは、なんだか『キャリー』を観ているようなホラー性を感じちゃって、そこはやっぱりデパルマであるなぁと思わされる。おすすめ。
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