フリー・ガイ
グランドセフトオートみたいなオープンワールドのオンラインゲームの中の、モブキャラであるガイ(ライアンレイノルズ)が、自身がゲーム内の存在であることに気付き、自我に目覚めた結果、その世界を変革するためにジタバタすることになる話。ネタバレあり。
―2021年公開 米 115分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「デッドプール」のライアン・レイノルズ主演のアクション・アドベンチャー。ルール無用・何でもありの暴力に溢れたオンライン・ゲームのモブキャラ、ガイ。退屈な日常に疑問を抱いた彼は、新しい自分に生まれ変わり、街を守る主人公になるために立ち上がる。監督は、「ナイト ミュージアム」シリーズのショーン・レヴィ。出演は、「イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語」のジョディ・カマー、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のジョー・キーリー、「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティ。(KINENOTE)
あらすじ:ルール無用・何でもありの暴力に溢れた街で、毎日強盗に襲われる銀行窓口係のガイ(ライアン・レイノルズ)。退屈な日常に疑問を抱いた彼は、ある日、強盗に反撃する。奪い取った眼鏡を掛けてみると、街中に今まで見えていなかったアイテムやミッション、謎の数値が溢れていることに気づく。この世界はオンライン・ゲーム“フリー・シティ”の中で、自分はそのモブ(背景)キャラだったという事実を知ったガイは、新しい自分に生まれ変わり、主人公になるために立ち上がる。ゲーム史上最大の危機が迫るなか、ガイはいい人すぎるヒーローとして世界を救おうとするが……。(KINENOTE)
監督:ショーン・レヴィ
出演:ライアン・レイノルズ/ジョディ・カマー/リル・レル・ハウリー/タイカ・ワイティティ/ジョー・キーリー/ウトカルシュ・アンブドゥカル/マティ・カーダロプル/リア・プロシート
ネタバレ感想
ストーリーはつまらないが、作品から派生していろいろ考えると面白味がある
昨年公開されたけど、観に行けなかったのでレンタルで鑑賞。個人的に、ストーリーはそれほど面白くなく、コメディでありつつハッピーエンドを迎える話自体にはさほど感銘を受けなかった。
ただ、未来を予見しているような感じもあるし、フリーシティと現実世界のことについていろいろと思いを巡らせることもできて、そういう部分にこそ俺は面白味を感じた。つまり、ストーリーは面白くないんだけども、作品としては優れているんだろうと感じた。
サングラスをかけろ!
であるので、個人的に面白味を感じた点について。まず、ガイの過ごす世界=フリーシティはゲームの中の仮想現実みたいな場所で、彼はモブキャラなので、サングラスをかけたアバター(現実のプレイヤー)たちにされるがままの存在。
アバターたちにとってフリーシティは自分の好き勝手に自身の暴力性を発揮することを楽しむ場なのであるから、モブキャラたちを現実存在として認めずに、ありとあらゆる無法行為をしてストレス解消的にゲーム世界を享受している。
ガイはひょんなことから、そのアバターのサングラスを手に入れ、それをかけたことによって、拡張現実を見られるようになり、そのことをきっかけにモブキャラから一人の人格を持った存在へと変わっていく。
このサングラスをかければモブキャラでも現実に目覚めることができることを知ったガイは、友人の警備員にそれをかけさせようとする。でも友人は拒否。このサングラスのシーンは恐らく、ジョンカーペンター大先生の監督作、『ゼイリブ』のオマージュであると思われる。同作品を知っている人はニヤリとしちゃうシーンだ。
現実世界はつまらない
でまぁ、俺も以前はゲーム大好きで、本当は今もやりたいんだけど、絶対にハマり過ぎて現実世界を疎かにし、ゲーム廃人になりそうな気がするし、他にもやりたいことがたくさんあるので、最近はやってない。
ともかく、過去、ゲームに熱中していたとき、ゲーム内でモブキャラに人格を認めてプレイすることはほぼなかった(ドラクエとかやってるときに、同じ言動を繰り返すことしかできない存在であるのは気の毒に感じることはあったものの)。それはごく自然なことではあるのだが。
しかし、この作品はそのプレイヤーの感覚を逆手にとって、人格に目覚めたモブキャラたちを鏡にして、プレイヤー(現実世界の人たち)に対して、いろいろなことを突き付けてくる。例えば、モブキャラたちを虐げているのは、現実世界でマイノリティに対して存在しないものかのように酷い扱いをしていることを暗に示しているというように感じられることなどがそれにあたる。
こういうゲームが受け入れられるのは現実世界があまり面白くないからという考え方もできそう。現実がつまらないから、ゲーム内でヒーロー的存在感を示すなどして、承認欲求を満たすプレイヤーたち。案外、そういう人は多いのかもなぁと思った。そして、ゲーム内世界のほうがリアルよりも心地よく、そちらの世界で生きたいと切に願っている人も、現実にはいるし、そういう人が増えていることも想像しうる。
メタバースにいりびたる
個人的にも、メタバースみたいな世界が仮に実現したとして、そこでいろいろな自分の欲求を満たすことができるなら、それは体験してみたいと思うし、その世界の中だけで自分の存在をまっとうできるような世界が構築されるなら、そこで人生を送ってもいいと思っちゃうかも。
だって、それくらい現実世界がディストピア的に見えちゃってるから。メタバースが人為的に構築された世界なのを知って、それがリアルな世界でないのを分かっていたとしても、もしメタバースの世界のほうが楽しめることが多く、苦しみが少ないのであるなら、まやかしの世界と言われようとも、そこで暮らすことを楽しむ権利もあっていいのではないかと思わされるのだ。仮にそんな世界ができたとしても、その世界が完全に平等であることはできないだろうけど。
だが、拡張現実(AR)の世界ではなかなか満たされなくても、メタバースだからこそ満たせる欲望ってたくさんありそうなんだよなぁ。だって、ARは現実と地続きだからね。メタバースは別の世界なわけだし。
以下、『13F』と『トゥルマンショー』て作品のラストに唐突に触れてますので、未見の方は注意!
ラストの展開がよい
ということで、この作品を鑑賞してて思い出したんだけど、自分が仮想現実の存在だと気づいた主人公が、ラストで現実世界に脱出し、現実世界の女性と恋仲になる『13F』という作品がある。確か『マトリックス』と同時期につくられてて、その陰に隠れちゃったような感があるけども、これがけっこうおすすめ。
何でそれを思い出したかというと、今作のラストでも、ガイは自分がリアルワールドへ出ることができるような展開になると俺は想像していたからだ。思い出しついでに、確かジムキャリーの『トゥルーマンショー』も仮想現実の話ではないけど、内容的には外の世界に出ていく感じのラストだった。
であるから俺は、先行作品をなぞるようにして、ガイがリアル世界に出ていくんだろうなぁと勝手に思ってたんだけど、そうはならない。ガイは、モブキャラたちを自我に芽生えさせるきっかけを与えたうえ、その世界で生きていくことになるのである。
この落としどころはある意味で、ゲーム世界から外に出ることよりも実現可能そうで説得力があるし、そこに新たな存在たちが生きる世界を表現したというところが、この作品の白眉と個人的には思う。
ただ、繰り返すが個人的には表面的なストーリーにはさほどの面白味はなかったな。
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