暗数殺人
―2020年公開 韓 110分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「1987、ある闘いの真実」のキム・ユンソク主演による、実際の連続殺人事件をモチーフにしたサスペンス。ある日、別件で収監されていた男から7人を殺害したとの告白を受けた刑事キム・ヒョンミンは、捜査を続行。やがて証言どおり白骨化した遺体を発見する。共演は「神と共に」シリーズのチュ・ジフン、「エクストリーム・ジョブ」のチン・ソンギュ。(KINENOTE)
あらすじ:ある日、キム・ヒョンミン刑事(キム・ユンソク)のもとに、恋人を殺害し収監されている男カン・テオ(チュ・ジフン)から、殺したのは全部で7人だという突然の告白を受ける。だが、テオの証言のほかに一切証拠はない。そもそも彼は、何故自らそのような告白を始めたのか理解できず、警察内部でもテオの自白に関してまともに相手をする者はいなかった。ところが、ヒョンミンは直感的にテオの言葉が真実であると確信、上層部の反対を押し切って捜査を進めていくのだった。やがてついに、テオの証言どおり白骨化した死体を発見。しかし、テオは「俺は死体を運んだだけだ」と今までの証言を覆す。ヒョンミンはテオの言葉に翻弄されていくが……。(KINENOTE)
監督:キム・テギュン
出演:キム・ユンソク/チュ・ジフン/チン・ソンギュ
ネタバレ感想
暗数てのはウィキペディアによると、「 ~主に犯罪統計において、警察などの公的機関が認知している犯罪の件数と実際に起きている件数との差を指す」そうだ。この作品はまさにその、暗数に該当する事件について執拗に捜査を続ける、ヒョンミン刑事の執念が描かれている。
キムユンソクの刑事ものってことで前から気になってたのを、ようやくレンタルしてきて鑑賞。もう少し派手な内容なのかと思ってたら至って地味で淡々とした展開の話だったけど、逆にそこがリアルで、とても楽しめた。
話自体が淡々としてるのもそのはず、この作品は釜山で起きた事件の事実を基に構成されたのだそうだ。どこまで事実なのか知らんけど、この作品内で7つの殺人を犯したと自白しておきながら、主人公ヒョンミン刑事に対してバカにしたような態度で接し、しかも金品をせしめ、さらには無罪を勝ち取ろうと証言を覆してはノラクラ逃げ回るクソ野郎なテオには、マジでムカつかされるし、だからこそ、その対決がスリリング。
こんな奴が実際にいて対面してたら、マジではらわた煮えくりかえっちゃいそう。ところが、ヒョンミン刑事も内心そうなってるはずなんだろうけど、彼は怒りを抑えているのか、ともかく冷静にテオに対応するのだ。少なくともそのように見える。
普通のフィクション作品なら、韓国刑事らしく自白を強要して脅したり、ドロップキックなどかまして相手を凹ましたろうとしたりしそうなもんだが、そういうことはないのである。なんでヒョンミン刑事はあんなカス野郎の対応にめげずに捜査をするのかっていうと、出世や名誉のためではない。
そんなもんのためだったら、この事件に執着する必要はないのだ。そうだとしたら、こんな面倒くさい事件に関わる必要ないんだから。そうではなく、彼が頑張るのは、「犠牲になった被害者たちを弔ってやりたい」からなんだとか。
であるから、ラストのほうでテオに「お前は俺には勝てない」と笑われても「てめぇに勝つつもりなんてねぇ」と啖呵を切り、上述した被害者たちへの思いを述べるのである。すごいね。
ここでわかるのは、彼こそがまともな刑事であって、警察組織はクソだということだ。テオに関わってると組織としてはろくなことがない。奴の巧妙な手口にはまると、警察の怠慢というか、捜査能力の低さなどが世間に露呈してしまうからだ。
ヒョンミン刑事の前に、テオを執拗に追い続けていた元刑事のセリフからでも、それはわかる。でも本来はヒョンミンや元刑事のやっていることのほうがまともなのだ。ところが、そのまともな職業意識の人が、退職に追い込まれたり出世の道から外されるのである。
こうした殺人事件ものの作品は、警察の初動捜査がいい加減なものだったせいで迷宮入りしちゃうケースの話がよくある。この事件はそういう描かれ方してないけども、ある意味で警察の怠慢によって暗数になってしまう事件はたくさんあるんだろうと思わされる。
で、ヒョンミン刑事のモデルになった人は、2018年時点では、まだこの事件の未解決な案件について捜査を続けているのだそうだ。一方のテオは、獄中で自殺を遂げたんだとか。無罪の見込みがなくなったからだろうか。
しかしまぁ、そうやって犯人を追い詰めたヒョンミン刑事の頑張りについて、警察組織は何をしてやったんだろうか。未だに一人で捜査をしているのか、それとも組織としてバックアップをしてやっているのか。たぶん、前者なんでしょうなぁ。証言を得るために金品渡してたのはよくないとはいえ、それだって組織の力をきちんと使えば、なんとかなったんではないかと思わなくもない。
それにしても、テオが殺人者になるきっかけは家庭環境、特に親父がロクデナシだったことによる部分もある。そう考えると、育ちってとても大事で、満足に子どもを育てられない家庭が増えつつある日本社会においても、こうした事件は増えていくんではなかろうかなんて想像しちゃって、何とも暗い気持ちになってしまいますなぁ。
ともかく、キムユンソクはもとより、テオを演じたチュジフンの存在感もよいところが、この作品を面白くしているのは間違いない。
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