きみの鳥はうたえる
―2018年公開 日 106分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:佐藤泰志の同名小説の舞台を現代の函館に移し、「Playback」の三宅唱が映画化した青春ドラマ。書店で働く“僕”は、失業中の静雄と同居している。ふとしたきっかけで関係を持った同僚・佐知子が毎晩のようにアパートを訪れ、3人で過ごすようになる。出演は、「素敵なダイナマイトスキャンダル」の柄本佑、「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」の染谷将太、「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の石橋静河。2018年8月25日より函館シネマアイリスにて先行公開。(KINENOTE)
あらすじ:“僕”(柄本佑)は函館郊外の書店で働きながら、小さなアパートで失業中の静雄(染谷将太)と共同生活を送っている。ある日、ふとしたきっかけで同じ書店で働く佐知子(石橋静河)と関係を持つが、彼女は店長の島田(萩原聖人)とも抜き差しならない関係にあるようだった。しかし佐知子は毎晩のようにアパートを訪れ、“僕”、佐知子、静雄の3人は夏の間、毎晩のように酒を飲み、クラブへ出かけ、ビリヤードをして遊ぶようになる。“僕”は佐知子と恋人同士のように振る舞いながら、お互いを束縛せず、静雄とふたりで出掛けることを勧める。夏の終わり、静雄はみんなでキャンプに行こうと提案するが、“僕”はその誘いを断る。ふたりでキャンプに行くことになった静雄と佐知子は次第に気持ちが近づいていく。“僕”は函館でじっと暑さに耐えていた。3人の幸福な日々も終わりの気配を見せ始める。(KINENOTE)
監督・脚本:三宅唱
原作:佐藤泰志:(『きみの鳥はうたえる』)
出演:柄本佑/石橋静河/染谷将太/足立智充/萩原聖人
ネタバレ感想
ネットフリックスで配信が始まったので鑑賞してみた。希望溢れるキラキラ青春映画はさほど好きではないので、暗そうな雰囲気の本作にはけっこう期待していたんだけど、さしたる深みは感じられず。純文学作家による原作なので、多少のアレンジはあるとはいえ期待してたんだけどなぁ。そう言えば、この原作者は自死しちゃった人だよね。『そこのみにて光り輝く』も最近映画化されてたけども、あれもさほど好みではなくて、要するに俺とは相性が合わないってことだろうか。
主人公である「僕」は将来に何か希望があるわけでもないし、書店の仕事にも熱心ではない。その日暮らし的人間で、平気で仕事はさぼるし、同僚に対して協力的でもない。まぁどこにでもいそうな青年だ。恋愛ごとに対しても熱心になりたいタイプではなく、であるから、佐知子との関係もあいまいなものにとどめている。しかもあろうことか、同居人の静雄が佐知子に興味を持っているのを知ると、「俺のこと気にしないで二人で遊べば」みたいなことを言っちゃう。
そうやって佐知子に興味ないような態度を取っておきながら、実は彼、佐知子が静雄と遊びに行くことを良く思ってないらしい。それは態度でよくわかる。そんで拗ねちゃったりしてるんだから、アホなのかこいつはと思っちゃうし、ラストのラストで、ようやく自分の気持ちを表現するーーつまり、他人(佐知子)と向き合う決意をし、自分の殻を破るのである。
という意味では「僕」の成長物語なんだけども、ではそこまでの過程で描かれることに何か共感できるとか、人間同士の葛藤があるかというと、そこが強烈に感じられるシーンがなく、なんとも平板な感じ。最後まで興味を持たせる持続力はあるものの、それぞれのキャラが何をしたくて生きてるのかは当然伝わってこないし、何をしたいかが分からなくて生きているのかという迷いが表現されているわけでもない。
佐知子はもともと同僚だった「僕」に対してどうして唐突に興味を持ったのか。なぜその後に静雄にも興味を持ったのか。もしかしたら、アプローチかけてくる相手なら誰でもいいのかもしれない。居心地が悪くなければ。だから、本心を見せない「僕」とは別れよう(そもそも付き合ってない)としたのか?
静雄については母親に対する憤りっぽいことは何となく伝わってきたが、だからそれが何なのかと。ただ、卓球をするシーンがやたらと玄人っぽい動きに見えて、あのどや顔が軽くウザくて笑える(笑)。
ともかく、この作品は3人が曖昧な関係の中で内面をさほど吐露しあうことをせずに、いつかくる夏の終わりの日まで、なんとなく青春的な生活を送りました――ということを表現したかったのかもしれない。そして、若者の青春ってのはそういうものなのだと。
もしそうだとしたら、それはそれで成功しているように思う。けど、中年になってもうた俺には、そこについて感じることは何もないのだ。じゃあ自分が若かったころに、こういう男女の三角関係を描いた青春ぽい作品で何が面白かったかと言われると、行定勲監督の『贅沢な骨』がよかったかな。話自体は抽象的でようわからんけど、麻生久美子がとても魅力的な雰囲気映画だ(笑)。
あと、青春映画なのかどうかは知らないし、三角関係でもないけど、香港の若者たちの姿を描いたウォン・カーウァイ監督の『欲望の翼』。あれは大好き。
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