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映画 凪待ち ネタバレ感想 ラストを迎えて殺しの動機を考える

凪待ち
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凪待ち

―2019年公開 日 124分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:「孤狼の血」の白石和彌が香取慎吾を主演に迎えて贈るヒューマン・サスペンス。日々を無為に過ごしていた木野本郁男は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓の故郷で人生をやり直すことを決意。だが、度重なる不幸に、郁男は次第に自暴自棄になってゆく……。共演は「虹色デイズ」の恒松祐里、「新聞記者」の西田尚美、「万引き家族」のリリー・フランキー。

あらすじ:日々を無為に過ごしていた木野本郁男(香取慎吾)は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓(西田尚美)の故郷・石巻で人生をやり直す決意を固める。だが、亜弓の娘・美波(恒松祐里)から亜弓との結婚について尋ねられても、仕事もせずにぶらぶらしている自分の境遇を考えると、結婚を言い出すことのできない郁男。辿り着いた石巻には、末期がんに侵されながらも漁師として働く亜弓の父・勝美(吉澤健)が待っていた。亜弓の実家で勝美や美波と一緒に暮らすことになった郁男は、近所の小野寺(リリー・フランキー)とも親しくなる。仕事も見つかり、印刷会社で働き始めた郁男はある日、同僚に誘われ、競輪のノミ屋を訪れる。自分は賭けをしなかったものの、同僚たちにアドバイスをしたことで、再び血が騒ぎ始める。そんなある日、亜弓と喧嘩した美波が家を飛び出してしまう。心配した亜弓と共に探しに出る郁男だったが、些細なことから口論になり、亜弓を車から下ろしてしまう。だが、その夜遅く、亜弓は遺体となって戻ってきた。郁男と別れた後、何者かに殺害されたのだ。亜弓の死に責任を感じる郁男。さらに、会社でのトラブルに巻き込まれ、仕事もクビになってしまう。次々と訪れる不幸に郁男は、“自分がいると、悪いことが舞い込んでくる”と自暴自棄になってゆく……。(KINENOTE)

監督:白石和彌
出演:香取慎吾/恒松祐里/西田尚美/吉澤健/音尾琢真/リリー・フランキー/麿赤兒/不破万作

ネタバレ感想

震災、被災地のその後、血のつながらない家族、殺人事件、ギャンブル依存症などさまざまな要素を詰め込んだ人間ドラマ。香取慎吾が俳優として新境地を開いたということだが、けっきょく何だったのかよくわからない中途半端な作品。

クズは最後までクズなままで終わっても良かったのでは

今作があまり楽しめないのは、香取慎吾扮する郁男が、中途半端に善人なことにあったと思われる。心根は悪い人ではないってのはわかる。それは彼の言動でわかる。そういう人間がギャンブル依存のせいで誤解をまねいたりしてうまく社会で世渡りできない、その不条理さ? みたいなんを描こうとしているようにも感じた。

で、それはある程度そう感じさせる力はあるんだけども、なんか腑に落ちない部分がある。それは、彼が「自分は生きる価値のない人間」と認め、それを告白することで他者に対する贖罪のようなことをしているように感じるからだ。ある意味で、それは逃げであり、他者ときちんと向き合おうとしない彼のダメな部分であり、それを他者がけっこう当たり前のように受け入れてやっていて、彼は何も変わることなく劇終を迎えたように見えた。

自分の短所を認めて謝罪するというのは、けっこう大変なもので、そういう意味では彼は自分自身も自分をクズ人間として認めている。しかし、そのクズ人間がなぜ、クズでありながらもああして、他者の助けを得られているのかがよくわからない。

それはどうも、他者にとって郁男はなんか世話をしたくなるような性質の善性を有した人間だと思われているからなんかもしれん。で、郁男はそうした人の優しさに触れて、ラストは恋人の娘とその祖父と家族のような暮らしをすることでハッピーエンドみたいな終わり方になっている。でも、あれでいいのかね。あのまんまだと、きっと郁男はまたギャンブルにはまるような気がするんだけど。

必ずそうあるべきとかそんなことではないけども、例えば己のクズ性を吐露しきって、苛烈なまでに吐露した先にある人間関係の嫌さとか難しさとか、そういう業みたいなもんが垣間見える作品と言えば、私小説なんかはそういうもんだと思う。

色川武大の『狂人日記』、車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』、西村賢太『けがれなき酒のへど』とか日本の作家にはこのジャンルには優れた人がけっこういて、後者2名の作品は、クズ人間ってまさにこういうもんだなと思わせる力がある。でも、彼らのクズでなさもわかるし、人間ってこういうもんだなと思わせる奥行きがあるのだ。

『凪待ち』は映画であって小説ではないんだけども、郁男のクズ性を最後までクズなままで描き切る、つまり、ハッピーエンドを迎えたように思わせておいて、やっぱりギャンブルから抜け出せずに周囲から白眼視されそうになる形でラストを迎えるとかーーそのほうが郁男の人としての業みたいのが垣間見れて良かったんじゃないかなんて思った。もちろん個人的な意見。

なぜ犯人は殺しをしたか。その動機が

もう一つ、郁男の恋人殺しは誰なのかーーというエピソード。作品コピーでも「誰が、なんのために殺したのか」みたいに煽っている割には、犯人の動機はさほど掘り下げられないし、捕まるシーンも非常にあっさりしている。おそらく、犯人は被害者を好いていたんだろうなと、それが犯行の動機の一つなんだろうと思うんだけど、では何で郁男にあんな親切にし続けたのか、そもそもなぜ最初からあの家族に親切だったのか。

例えば、惚れた女を喜ばせたいうえでの親切だったとするならそれでもいい。しかし、そうであるなら、そこまで献身的に惚れていた女のためにいろいろなことをしてやってたのに、どういうきっかけでそれをすべてご破算にして相手を殺すことになったのかくらいの説明は必要だと思うんだよね。

郁男以上にこの犯人は殺した相手を好いていて、それが逮捕時の海外の景色についてのセリフにあると思う。あれは、犯人が郁男に対して、「俺のほうが、あいつのことをよくわかってるんだからな」という意味を込めているように思った。だけどねぇ、衝動的だったのか計画的だったのか、その辺のことは説明があってもいいと思うんだよなぁ。

あと、事件当初は警察が郁男を容疑者として取り調べるんだけども、あれもけっきょくそういうエピソードとして出しただけで、あとにはさほど尾を引かない。郁男が自暴自棄になるきっかけの一つなのかもしれないが、彼はそんなことがなくても自暴自棄になっちゃうような心の持ち主だと思うし、あれだけにとどめておくなら、わざわざ描写する意味があったのか。

てなことで、被災地を舞台にした話としては、その地に残り続けたり、その地を離れたことによって被る影響とか、その辺は感じられて悪くないなと思った。しかしやはり、その地に被災者としてではなく、他人としてやってきた郁男が繰り広げる話は、すべてが自分事であって、彼自身の物語とするには舞台が被災地である必要があったのかどうかとも思ってしまう。

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