ハート・ロッカー
命知らずの爆弾処理兵の物語。戦場に身をおくことでしか生きる実感を得られないように見える戦争中毒の男は、安全対策もへったくれもない爆弾処理を行う。仲間たちはそんな彼に反感を抱きつつも彼の実力を認め、チームとして信頼関係が芽生え始めるのだが…ネタバレあり。
―2010年公開 米 131分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:イラクの最前線に駐留を続ける米軍爆弾処理班の危険で過酷な任務の実態を描く。「告発のとき」の原案担当マーク・ボールの現地取材に基づく脚本を、「K-19」のキャスリン・ビグローが監督。全米監督協会賞などで監督賞を受賞したほか、オスカー9部門にノミネート。主演は「ジェシー・ジェームズの暗殺」のジェレミー・レナー。(KINENOTE)
あらすじ:2004年夏、イラクのバグダッド郊外に駐留するアメリカ軍。そこに所属する爆発物処理班は、死と隣り合わせの前線の中でも、最も死を身近に感じながら爆弾処理を行うスペシャリストたちだった。ある日も、ブラボー中隊はいつものように爆弾処理を行っていたが、退避しようとしたその瞬間に爆弾が爆発。1人が殉職してしまう。その後、新しく中隊のリーダーに就任したのはウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)。だが彼は、基本的な安全対策も行わず、まるで死を恐れないかのように振る舞い、周囲を驚かせる。一瞬の判断ミスが死に直結する爆発物処理班の任務の中、補佐するJ・T・サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とオーウェン・エルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラディ)は、徐々にジェームズへの不安を募らせていく。彼は、虚勢を張るただの命知らずなのか、それとも勇敢なプロフェッショナルなのか。そんな男たちの思いとは関係なく、激しい戦闘が繰り返される日常は続き、爆弾処理の日々が過ぎていく。ブラボー中隊の任務明けまで、あと38日……。(KINENOTE)
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェレミー・レナー/アンソニー・マッキー/ブライアン・ジェラティ/レイフ・ファインズ/ガイ・ピアース/デヴィッド・モース
ネタバレ感想
ジェームズ氏は非常に有能な爆弾処理兵ではあるものの、中隊として同じチームに所属するエルドリッジとサンボーンにしてみれば、迷惑きわまりない奴だ。なぜなら、彼はチームで動くべきタイミングなのに、無線を無視するなど自己本位な判断で動くくせして、なぜそういう行動をしたかについての説明はほとんどしないからだ。なぜしないのかというと、仲間に受け入れられないのはわかっていつつ、自分はそのやり方でやりたいからだろうと思われる(笑)。
とはいえ、すべてが手前勝手ではないから、少しずつ仲間の信頼は得ていったようだ。しかし、最終的には強い絆が生まれることなくこの中隊は任務を終了することになる。
その後、帰国したジェームズは妻子とともに幸せに暮らしているように見えるが、けっきょく平凡な暮らしは長続きせずに、またもや爆弾処理兵として戦場に戻ってくるのだ。これは冒頭にも示されていたように、一部の人間にとっては、戦場は生きがいとなるような場所なのだということだろう。
常に死と隣り合わせでいることのスリルは、ある種の人間にとっては中毒性を持つ。ジェームズは戦争中毒なのである。スポーツ選手、特に格闘技の世界では、命の危険を背負いながら戦うことに喜びを感じる選手もいるらしい。それも程度の差こそあれ、スリルを味わうことを求める人間のあり方の一つだと考えられる。
帰国したジェームズは幼い息子に対して、「大人になったら好きなものなんて1つか2つしか残らない」的なことを言う。確かにそうだ。俺はあんなに恐竜が好きだったのに、今では当時ほどの情熱もなく、好きに毛の生えた程度の興味しか残していない。そのほかもそうだ、何に対してもそうだ。これから先、これまでとは別の夢中になれるものを探さないと、今以上に虚しい人生を送るんではないかと考えてしまうくらいに。
そう思うと、あそこまで生きがいを見出せる場があるジェームズは、一人の人間の人生としては、幸せなのかもしれない。死ぬときは一瞬なんだろうし。
大規模な銃撃戦などは少ない展開ではあるものの、爆弾処理特有のスリリングさが味わえる、良質な戦争映画であった。
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