デッドゾーン
―1983年製作 加 103分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:交通事故のために超能力をもつようになった青年が、世界が破滅する危機を阻止しようと必死になるというSFスリラー。製作はデブラ・ヒル。エグゼキュティヴ・プロデューサーはディノ・デ・ラウレンティス。監督は「ザ・フライ」のデイヴィッド・クロネンバーグ。スティーヴン・キングの原作(新潮文庫)をジェフリー・ボームが脚色。撮影はマーク・アーウィン、音楽はマイケル・ケイメン、特殊効果はジョン・ベリューが担当。出演はクリストファー・ウォーケン、マーティン・シーンほか。(KINENOTE)
あらすじ:高校の英語教師ジョニー・スミス(クリストファー・ウォーケン)は同僚のサラ(ブルック・アダムス)とデートし、彼女と別れて帰宅する途中交通事故に合い、深い昏睡状態に陥る。そして、5年後。ウイザック博士(ハーバート・ロム)の診療所で目を覚ました。「サラは他の人と結婚したよ」という母の言葉に絶望するジョニー。ある朝、ジョニーの手が看護婦の腕を掴んだ。そのとき、彼はショックを感じた。部屋の隅で火に包まれて少女がなき叫んでいる。「エミーが泣いている。家が火事だ」という彼の言葉に看護婦が家へ駆けつけると消防士に助けられ泣きじゃくるエミーの姿があった。ジョニーには離れた場所で起きていることを感知する能力のほかに過去を見通すこともできることがわかった。彼の元へサラが子供をつれて訪ねてきた。その後、ジョニーは実業家スチュアート(アンソニー・ザービ)の息子で自閉症ぎみのクリストファーの家庭教師となった。池のなかに沈むクリストファーの姿を見たジョニーはキャンプ行きを止めた。その翌日、新聞で2人の少年がキャンプで溺死したことを知り、自分には未来を知るだけでなく未来を変えることもできるのだと悟る。サラとその夫ウォルトは上院議員候補グレッグ・スティルソン(マーティン・シーン)の選挙運動を手伝っていた。演説会場にいったジョニーは、大統領になったスティルソンが核ミサイルの発射ボタンを押す<ヴィジョン>を見た。未来の惨劇を防止するため、ジョニーは彼を殺そうと考え、ライフル銃を手に二階に隠れる。演壇に立ったスティルソンに狙いをつけた。スティルソンはサラの子供を頭上に掲げて弾よけにした。シークレット・サーヴィスに射たれたジョニーは一階に落下する。スティルソンの腕を掴んだジョニーは未来を透視した。拳銃をつかむ男の手。拳銃の下には子供を掲げたスティルソンの写真がカヴァーになった『ニューズ・ウィーク』があった。銃声がし、血しぶきがカヴァーにかかる。彼の政治生命を断つことに成功したことを見届けて、ジョニーは息を引き取った。(KINENOTE)
監督:デイヴィッド・クローネンバーグ
出演:クリストファー・ウォーケン/ブルック・アダムス/トム・スケリット/ハーバート・ロム/アンソニー・ザーブ/コリーン・デューハースト/マーティン・シーン/ニコラス・キャンベル
ネタバレ感想
デヴィッドクローネンバーグのけっこう古い作品。俺が彼の作品を初めて鑑賞したのは、『ザ・フライ』だったと思われる。で、今作も恐らく地上波かレンタルか忘れたけども観たことがあって、細部を忘れていたのでアマゾンプライムで久しぶりに鑑賞した。
簡単に言うと、真面目で常識人なクリストファーウォーケン扮するジョニーが交通事故に遭ったことで特殊な能力を手に入れ、その力に苦しみながらも世界を救う話だ。
彼が手に入れた能力は、人の肌に触れることでその人にまつわる過去や未来の出来事を知れるというもの。過去を見るのか未来を見るのかは彼に選ぶことはできない。いずれにしても、彼に触れられた人間にとってはかなり重大な出来事、特に人の生死に関わることについて知ることができるようだ。
しかも、未来の出来事を予知した場合、それを起こらないよう阻止するために、未来を変えることもできるようで、この力がラストの展開に重要な役割を果たすことになる。
てなことで、こうやって久しぶりに鑑賞してみると、なかなか主人公のジョニーが悲惨な話であった。とりあえず、事故前に付き合ってた彼女。彼が5年間昏睡状態でいた間、他の男と結婚しちゃってるのである。その癖に、彼の前に何度も姿を現してきて、しまいには子供まで連れてくる始末。ジョニーのほうは眠ってたわけだから5年間経っても、感情は5年前のまま。であるから、彼女のことが好きなわけで、未練がある相手にあんなにチョコチョコ顔出されたら困るだろ。
でも彼女は彼に会いに来るのだ。何でかっていうと、ジョニーのことを愛しているから。だったら何で結婚とかしてんだよ。アホか。しかも子どもまでつくっちゃってるとか尻軽すぎだろ。のくせに、この女、あろうことか一回セックスさせてやってんのよ、ジョニーに。そんなん今の旦那の立場がないだろ。で、未練たらたらのジョニーがまた会いに来てくれと頼むと、「私はこれ以上のことはできない」とか抜かしやがるの。なんなん、こいつ!?
まぁでも、その辺のジョニーの愛の物語なんて、ある意味どうでもよくて、この作品がおもしろくなってくるのは、ジョニーがある金持ちの子息の家庭教師になるところだ。この金持ちはけっこうな名士で、もちろん金をもっているから政治家ともかかわりがある。で、このマーティンシーン演じる政治家、スティルソンは大統領になることを夢見ている野心家なのだ。金持ちはでも、このスティルソンのそうした部分を警戒してて、つかず、離れずの付き合いをしていることをジョニーに告白する。
やっぱなぁ、こういう策士っているんだなぁと思わせて嫌な気分になる。こういうテメェの利益しか考えてない輩がたくさんいるのが資本主義社会の…とかどうでもいいか。
しかしまぁ、この金持ちは子息との関係がよろしくなく、それでジョニーを教師として雇うわけだが、息子が彼を評価しているように「殻をやぶるべきなのは父さんだ」というのが本当にそのままな奴で、自分の考えを息子に押し付けようとしすぎなために息子は呆れているしなつかないのであって、典型的な専制君主的父なのである。だから奥さんがいないんだろうなぁ、どうせ離婚したんだろうなぁと思わせる人物だ。
であるから、ジョニーが予知をしたある出来事についても信じようとしないし、彼を解雇してまうのだ。けっきょく息子のためになっとらんやん、それ。てのには気付かない。
で、次に始まるエピソードが、ラストにつながるスティルソン暗殺未遂事件だ。ジョニーはいろいろあって、スティルソン射殺を企てることになる。なぜなら、ジョニーの予知によると、彼が大統領になると、核爆弾のスイッチを押してしまうからだ。核戦争突入コースである。であるからジョニーはそれを阻止したい。
それが倫理的にやってよいことか悪いことなのかーーってことについて、ジョニーは一応悩んで、主治医にも相談した結果、射殺コースを選ぶのである。まぁ確かにスティルソンてのは、とんでもない奴で、そもそも、自分の夢が「大統領になること」なんである。人生の目的がそこにあるので、政治家として何がしたいとか、国をよくしたいとか、そんな考えはないのだ。
「大統領」になることが人生の目的なのである。こういう政治家って本当に糞だなと思うんだけど、今の世の中見渡してみるに、似たような奴が某国の大統領やっているように見えるし、我が国の政治家も似たり寄ったりなもんだろう。
てなことで、80年代の古い映画ではあるものの、なんとなく今のデストピアな世界に重なる部分もある作品であった。とてもいいなと思うのは、終始暗い顔、シリアスな表情のジョニーが、作中で何度か笑みを浮かべるときのそれが、とても良い顔をしているところ。さすが、クリストファーウォーケン。役者ですな。
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