スクールズ・アウト
―2019年公開 仏 103分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「欲しがる女」のセバスチャン・マルニエが監督を務めたフランス発の学園ミステリー・ホラー。名門中等学校で、教師が生徒たちの目の前で窓から身投げする事件が発生。新たに赴任した教師ピエールは、6人の生徒たちが事態に奇妙なほど無関心なことに気づく。出演は、「天国でまた会おう」のロラン・ラフィット、「バハールの涙」のエマニュエル・ベルコ。シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019にて上映。(KINENOTE)
あらすじ:名門中等学校で、教師が生徒たちの目の前で教室の窓から身投げする事件が発生する。新たに赴任した教師ピエール(ロラン・ラフィット)は、6人の生徒たちが事態に奇妙なほど無関心なことに気づく。彼らの冷淡で気まぐれな振る舞いに翻弄されるピエールは、やがて彼らがなにか危険なことを企んでいると確信するが……。(KINENOTE)
監督:セバスチャン・マルニエ
出演:ロラン・ラフィット/エマニュエル・ベルコ/グランジ/グレゴリー・モンテル/パスカル・グレゴリー
ネタバレ感想
適当すぎるあらすじ
ある高校に、優等生だけを集めたクラスがある。ある日そのクラスの担任が、教室から外に身を投げて飛び降りて重傷を負う。担任を代理することになったピエールは、クラスの生徒たちの無機質さに対して金八先生的に接しようと試みるも、生徒たちはまったく無反応。むしろ彼をバカにするような態度をとる。
中でも優秀だけど生意気な6人組の男女グループと対立を深める過程で、彼らの謎の行動を監視し始めたピエールは、生徒たちがなぜ大人を小バカにしたような態度をとっているのかを知るようになっていくーーというのが適当すぎるあらすじ。
ディストピア的絶望感がいい
鑑賞後、こういう話だったのかーーと思わされて、とてもいいものを観たと得した気分になれた。早くもネタバレすると、ストーリー自体は救いがなくディストピア的。その中に込められた何とも知れん絶望感がとてもいいのだ。
ピエールについて
主人公のピエールは担任代理として頑張るものの、個人的にいろいろと問題を抱えている。はっきり説明されないけど、彼はゲイだ。それが物語にはさほど関係をもたらさないけども、彼がそこにコンプレックスを持っていることは想像できる。そして、彼はカフカの論文を書いて学術的権威を得ようとしている。だが、それを完成させることを恐れている。
それはなぜかと考えるに、論文が評価されなかった場合、自分の未来に希望がなくなってしまうからだろう。そういう気持ちってなんとなくわかる。俺も彼と同じ四十代の人間であり、日々、仕事に時間を費やしているけども、別のことで大成したいと思う気持ちもまだ持っていて、しかし、それに対して向き合う時間は若い頃より減っていて、なぜかというに、そもそも才能のなさを指摘されることを恐れているからだ。
で、俺の話は蛇足として、問題の生徒たち。彼らの無機質ぶりは、ジョン・カーペンター大先生の『光る眼』の子どもたちを思わせる。俺は前知識なくこの映画を鑑賞していたので、まさに『光る眼』のようなホラー展開を予想していたが、そうでもなかった。
6人の生徒たち
生徒たちは頭脳明晰なため、世の中に絶望しているのだ。希望を持っていないのだ。なぜなら、自分たちが生きる世がディストピアで、輝かしい未来が待っているというような若者的な無邪気さで生き続けられると思っていないから。
なぜそうなったかというと、人間が作り出している社会が各人の私利私欲によるエゴに満ちたものだということを知ってしまったから。フライトレコーダーとして記録している彼らの動画の中には、そうした人類の所業が編集されている。その中には日本の福島原発の爆発シーンも収録されている。
彼らは大人たちを信用していない。そうした世の中をつくったのは大人たちだからだ。腐った世の中で生きていない彼らは、汚物のような世界で生きる大人たちを軽蔑しているように見える。
そんな希望のない彼らが行うのが、死と隣り合わせの遊戯。落ちたら死んでしまうような高所でふざけたり、ラップを体にまきつけてプールに沈んでみたり、お互いに腹パンしあってみたり。それは将来に起こるであろうカタストロフに備え、痛みに耐える人間になりたいのか、死と隣り合わせになるスリルを味わうことでしか、生きている実感を得られないのか。その辺はどちらかよくわからない。
いずれにしても生徒たちは、卒業式の後に集団で自殺することを試みる。大人の世界で生きることを拒否するのだ。と考えてみるに、彼らはカタストロフの痛みへの耐性を鍛えているのでもなく、死と隣り合わせの恐怖を楽しみたいのでもなく、自殺の痛みに備えていたのかもしれない。よくわからない。
ただ、生徒たちは、救われるのだ。無理やり大人になることを要請される。ピエールによって。
クライマックスからの結末は感動的
ピエールは彼らと対立しているものの、彼らが生きていることを肯定しているのだ。どんな世の中だろうと、この世で生きるべきだと、彼らの存在を肯定するのである。6人とわかりあえなくても、理解できなかったとしても、この世に存在していることを肯定しているのだ。それがクライマックスのカーチェイスからの救出劇なのである。
ここまでの展開だけでも感動的。とてもいい話だなって思えた。しかしこの作品は、これで終わらない。ラストが素晴らしい。
ピエールには原発の近くの沼みたいなところで泳ぐ習慣がある。そこは学校の生徒たちの遊び場にもなっていて、生徒たちを救った後日、ピエールがそこで水泳をしていると、6人組もそこで遊んでいる。ピエールが彼らの姿を認めると様子がおかしい。彼らは原発のほうを凝視している。ピエールが彼らに近づいて原発のほうを見ると、それが爆発を起こしているのだ。
そして7人は死を悟るのである。6人はもちろん、ピエールも逃れられない死が目前にあることを悟る。周囲の人たちが逃げまどう中、微動だにしない7人。ピエールと、6人の中で最もピエールと対立していた女生徒が、自然と手を握りあって、物語は終わる。この手を握るシーンに、この物語の救いがある。それはピエールのエゴだったかもしれないが、女生徒との絆をつくったのは、ピエールの行いがあったからだ。
おすすめです。
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