佐々木、イン、マイマイン
佐々木! 佐々木! 佐々木! これに尽きる青春作品。ネタバレあり。
―2020年公開 日 119分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:初監督作「ヴァニタス」がPFFアワード2016観客賞に輝いた新鋭・内山拓也の青春映画。俳優を志して上京しながらも、鳴かず飛ばずの日々を送る三谷悠二はある日、高校の同級生と再会。これを機に当時、彼らの間で絶対的な存在だった佐々木の記憶が蘇る。出演は「止められるか、俺たちを」の藤原季節、「歩けない僕らは」の細川岳、「37セカンズ」の萩原みのり、「初恋」の小西桜子。(KINENOTE)
あらすじ:俳優を志して上京した三谷悠二は、鳴かず飛ばずの日々を送り、既に27歳という年齢を迎えていた。別れた彼女のユキとの同棲生活は今もだらだらと続き、終わりを受け入れられないまま。そんなある日、高校の同級生・多田と再会。在学当時、彼らの中で絶対的な存在だった佐々木に話が及ぶと、悠二の中で、当時の記憶が蘇ってくる。やがて後輩に誘われ、ある舞台に出演する事に。稽古が進むにつれ、次第にその内容が過去と現在にリンクし始め、悠二の日常を急加速させていく。その矢先、数年ぶりに佐々木から電話の着信が入り、悠二の脳内で“佐々木コール”が鳴り響く……。(KINENOTE)
監督:内山拓也
出演:藤原季節/細川岳/萩原みのり/遊屋慎太郎/森優作/小西桜子/河合優実/井口理(King Gnu)/鈴木卓爾/村上虹郎
ネタバレ感想
ノスタルジィな気分になっちゃう青春作品
何となく気になってたので劇場で鑑賞。ともかく作り手と役者の熱意が溢れてる作品で、冒頭から力がみなぎってて、ラストでそれが爆発する感じ。
主人公たちの高校時代と現在とその中間の時間が錯綜して描写される、行ったり来たりな感じのストーリーは、主人公の成長物語であり、高校時代を描いた青春映画とも言えて、なかなか奥行きがある。
佐々木と悠二、多田、木村との日常が描かれる高校時代なんかは、本当にノスタルジィ。自分が友達と遊びまわってた10代や20代前半の頃を思い起こさせ、キャラがまったく同じなんてことはないけども、似たような奴がいたなぁなんて感慨にふけってしまう。それは俺が40代の中年だってこともあるだろうが。
ともかく、なんというか、作中の途上人物4人のくだらないやり取りにリアリティを感じ、遠き日の記憶を呼び起こすのである。
ストーリーそのものはそんなに目新しさがあるわけでもなく、特に主人公の悠二の日常描写とかはさして面白く感じられない。ただ、前述した過去の記憶への憧憬をもたらすのと、ともかく佐々木が出てくると楽しめる映画であった。それはもちろん俺にとってだ。
佐々木と悠二の物語
キャラの掘り下げについては主に悠二と佐々木に重点が置かれ、その二人の関わりにおいて物語が展開していく。悠二は高校時代から自己主張みたいなんがなくて、悶々としていて、それが20代後半になっても続いてて、何かに対して決断できないところなんかは親近感が湧くし、感情移入もできるんだけど、やっぱりこの作品は佐々木なのである。
悠二も親がいないような家庭で過ごしてるけども、佐々木もかなり生活環境が酷くて、親父は何をやってるかわからんし、途中で死んじゃうし、とはいえ佐々木はそれなりに父親を慕ってたみたいで、だからこそ、親父が死んだ後、追悼をしたかったのか、やり切れん気持ちを解消したかったのか、悠二らに全裸ダンスのための手拍子を求めたんだと思われる。
で、こいつは負けず嫌いであるもののスポーツ音痴らしく、どっちかというとインドア派。小説など本をたくさん読んでいて、何の作品か知らんけど、悠二に小説本をくれてやるシーンなんかもあって、けっこうたくさん読んでいるんだろうなと思わせる文学青年だ。
さらに、絵を描くのが好きらしく美術部にもいたとか。ともかく、高校時代の佐々木はその家庭環境のせいか高校時代から自分の未来を諦めていたらしく、その分、悠二を励ますところなんかはけっこう大人びていて哀愁も漂っている。しかし、自分のことは話さない。境遇を人前で嘆きもしない。それがなぜなのかはわからない。
20代の彼は、パチプロとして生計をたてていて、普通の会社員暮らしだけはしたくないし、できないと思っている。絵は描き続けているようだが、それほど一生懸命やっている描写もないし、けっきょく、彼が何を考えているのかってあまりよくわからない。
ただ、他者と関わるにあたっては、やや破天荒な部分もあるが、正直者。しかし、社会適応力はない。が、ともかくいい奴なのだ。
人生を肯定する全裸ダンス
そんな佐々木はなんで高校時代に全裸になっていたのか、よくわからん。よくわからんが、あの行為は作品における何かの比喩だろう。
という意味で考えるに、全裸になって踊る、踊り狂うその行為の中にはきっと、生への肯定があり、彼はいつも、人生を肯定していたのではないか。
彼が衣服を脱ぎ棄てて拍手を要求し、悠二ら周りの人間はそれにこたえる。その中で一体感が生まれ、悠二ら周囲の男たちにも力を与え、この世に存在していること、たとえ行き場のない人生だったとしても、それを各々に肯定させる力があるのがあのダンスだ。鑑賞者にも、人生はダンスして、踊り踊って踊り狂うべきものなのだと思わせる力が。『どうで死ぬ身の一踊り』。
それがこの作品の力強さだと思われる。そして、それは全裸ダンスでなくともよかったのだ。もっと別の行為でも。しかし、やはり、鑑賞後にいろいろ考えるに、あれは全裸ダンスでなければ成立しない物語だったようにも思う。
ということで、なんだかんだで、いい映画でした。人生はいいものだし、幾つになっても輝ける瞬間はあるだろうし、肯定され得るものだ。美しいものだ。どうで死ぬ身の一踊り、踊って踊って踊り狂って死ね。佐々木! 佐々木! 佐々木!
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