PET ペット 檻の中の乙女
ある男(セス)が同じ高校出身で、人気者だった女性(ホリー)を偶然見かけて、彼女のことが気になってしかたなくなり、ストーカーになり、拒否されたことで逆ギレして彼女を誘拐・監禁してみたら、ホリーのほうがセス以上にぶっ飛んだ変態野郎だった。で、どうなるのかという話。鑑賞後、主人公たるセスとはどういう人間なのかをちょっとだけ考えてみた。ネタバレあり。
―2017年 米=西 94分―
解説とあらすじ
解説:第49回シッチェス・カタロニア映画祭脚本賞に輝いたサイコスリラー。動物保護センターで働くセスは、同級生のホリーと偶然再会。しかし忘れられており、逆恨みしたセスは彼女を執拗に追いまわした挙句に動物用の檻に監禁。飼い主気分に浸ろうとするが……。監督は「[アパートメント:143]」のカルレス・トレンス。脚本を「ファンタスティック・フォー」のジェレミー・スレイターが手がけた。特集企画『未体験ゾーンの映画たち2017』にて上映。(KINENOTE)
あらすじ:青年セスは偶然にも同級生だったホリーをバスで見かけ声をかけるが、彼女は彼のことを一切覚えておらず、邪険に扱われる。悔しさでいっぱいのセスはSNSを使って彼女のことを調べ、バイト先を突き止めて執拗に取り入ろうとするが、ホリーに小馬鹿にされてしまう。セスの行動はエスカレートしホリーの家に侵入、帰宅した彼女を拉致し、職場である動物保護センターの地下にある檻に入れる。状況が飲み込めないまま、下着姿で監禁されるホリー。まるで彼女の飼い主であるかのような気分に浸るセスを、予期せぬ事態が待ち構えていた。(KINENOTE)
予告とスタッフ・キャスト
(YouTube ムービー)
監督:カルレス・トレンス
出演:ドミニク・モナハン/クセニア・ソロ
話し相手は動物だけ
セスはうだつのあがらない男だってことは冒頭から何となくわかる。そして、ストーリーを追うに連れ、そのダメッぷりがどんどん明るみに。彼は保健所みたいなところで動物を飼育する仕事(安月給)で生計を立てている。恋人どころか友だちもいないっぽい。
日常会話らしい会話はほとんどなくて、上司とは仕事上でのやりとり、警備員にもバカにされてて会話はほぼない。ホリーとはそこそこのコミュニケーションがとれるけども、そうなるのは彼女を監禁してからであり、その内容は常軌を逸している部分が多い。
てなことで、彼は孤独なボッチ野郎なわけで、相手にしてくれるのは動物たちだけなのだ。彼は動物に対して、愛情を持って接しているように見える。でも、その関係が成り立つのは、動物たちが、身よりのないさびしい存在であるから。彼よりも悲惨な境遇にいて、自分よりも弱い立場の存在たちに対して、檻を隔ててなんとか対等、もしくは自分が上位の関係でいられるのがセスという男なのだ。
傷つきたくないから、檻を隔てた関係に
でも、自分より上の立場にある人間たちに対しては逆らえないし、それだけの自信も能力もない。だからこそ、可愛がっていた犬が獣医によって処分される際に、犬を助けられずに泣く泣く処分に手を貸す。
犬を自分の家に連れて帰って、飼う経済力すらない悲しい男なんである。
そういう孤独な人間が、女性を好きになる(好んでいるのは容姿のみ)。そうなったらどうなるか。コミュニケーションがうまくないから、相手に自分を印象づけられない。魅力を感じてもらえない。それどころか、相手は美人で経験も豊富だから、蚊ほどの存在感も示せない(だんだん、うざがられるようになるから蚊くらいには覚えてもらえているかw)。
ストーカーして駄目なら、確かに監禁しかないわな。得意の飼育しなかないわな。ということで彼は、偶然見つけた職場の地下室に、ホリーを監禁するのである。檻を隔てた関係になることで、マウンティングするのだ。彼にとってはそれが、自分が傷つかずに相手とコミュニケーションできる、唯一の可能性なのである。
檻の中から操られちゃうダメ男
ところがホリー。実はサイコなシリアルキラーなんである。この展開には少し驚いたが、それが判明した後の展開は読めちゃうよなぁ。結局セスは、檻の中の彼女にマウンティングされるはめに。なぜそうなってしまうのか。
彼は結局、人との関係づくりができないのである。それが原因だろう。彼はホリーがシリアルキラーであることを知り、「君を救いたい」といい続ける。でも、救うって何を? 彼女をどういう状態にして、自分とどのような関係になることが、彼女を救うことなの? そして、そのためには閉じ込めた彼女をどうすればいいの? それらに関して具体的な考えは何一つないのだ。
ということで、ホリーを監禁して彼女がいろいろな意味で変わることには期待しているのに、自分では何もできないまま。で、中途半端なコミュニケーションをし続けることに逃げる。その結果があれだ。
そもそも、監禁場所を職場の地下にしたら、いずれ他人の眼に触れることなんて想像できんだろ。
一方的で、一方通行な愛を貫いた?
観てるこっちはホリーにあの手この手の拷問を加えて楽しませてくれるのか(鬼畜)と期待していたのに、肌に触れることすらしない。アホかと。むしろ、ホリーの策略? にはまり出して、彼女の言うことに影響されて動いちゃうバカなセスに申し訳程度だけどもハラハラして観ちゃっている瞬間も(笑)。
そういう意味ではある意味作り手にはめられた感じがするのだが、いかんせん、その流れが面白くないのだ。予想の範疇だし、退屈きわまりないのである。
てなことで、セスが唯一貫いたように見えるのは、ホリーに対する、関係性のない愛情だけか。相手と通じ合ったうえでの関係性があるからこそ、指を詰めちゃったのかとも思うけど(この指詰めシーンの歯物がしょぼすぎ。あんな切り方痛いだろ、アホすぎと思った。詰める前に日本のヤクザ映画で予習しとけやw)、あれって、相手に対する期待と思い込みだけでやっているように見えた。
しかしだ、だがしかし、ラストでホリーによってセスが監禁されている描写を見るに、セスは希望を成就したとも考え得る。なぜなら、ホリーは恋人を殺さずに我慢していることをセスに告げるから。セスという存在によって、彼女は殺人を犯さないでいられるようになった(あの時点では)。そう考えると、セスはホリーを救ったのだなと思えるのである。ああいう結末は望んでいなかったにしても。
にしてもセス、首切られてなかったっけ? 何で死なずにいられたんだろうか。
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