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映画 ニトラムNITRAM ネタバレ感想 実話を基にした話

二トラムNITRAM
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二トラムNITRAM

ある青年が観光地で無差別殺人を行うことになるまでの足跡をたどる、実話を基にした物語。殺戮行為に至る原因を限定せずに、淡々と出来事を描写していくことで作品に重みを持たせた、考えさせられる作品です。ネタバレあり。

―2022年公開 濠 110分―

解説:1996年、オーストラリアの観光地で起きた無差別銃乱射事件を「アサシン クリード」のジャスティン・カーゼル監督が映画化。周囲に馴染めないニトラムはある日、引きこもりの女性ヘレンと出会う。だが2人の関係は悲劇的な結末を迎え、彼の精神は歪み始めてゆく。「アウトポスト」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、本作で第74回カンヌ国際映画祭 主演男優賞を受賞。共演は「天才スピヴェット」のジュディ・デイヴィス、「ババドック 暗闇の魔物」のエッシー・デイヴィス。(KINENOTE)

あらすじ:1990年代半ばのオーストラリア。母(ジュディ・デイヴィス)と父(アンソニー・ラパリア)と暮らすニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、孤立し周囲に馴染めずにいた。母は彼を“普通”の若者として人生を謳歌してほしいと願う一方、父は彼の将来を案じ、出来る限りのケアをしようと努めていた。ある日、サーフィンに憧れるニトラムは、ボードを買うために、庭の芝刈りの訪問営業を始める。そんななか、引きこもりの裕福な女性ヘレン(エッシー・デイヴィス)と出会うニトラム。だが、彼女との関係は悲劇的な結末を迎え、彼の孤独感や怒りは増し、破壊への道を辿り始める……。(KIENOTE)

監督:ジャスティン・カーゼル
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/ジュディ・デイヴィス/エッシー・デイヴィス/ショーン・キーナン/アンソニー・ラパリア

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ネタバレ感想

この話のもとになった出来事はかなりの大事件だったようだが、俺はその存在を知らんかった。

主人公のニトラム(あだ名)は、どうやら知的障害があるようで、その辺がまず気の毒。両親からは愛されているようだが、彼はなかなか育てにくい存在だったようで、養育に手を焼いていたようだったことが、見て取れる。

長じてからの彼もけっこうな生きざまで、小遣い稼ぎにバイトに入った金持ちで独身のおばさんと同棲を始めちゃう始末。彼女を親に紹介したものの、母親からは好意的な目では見られないのも当たり前と言えば当たり前ではある。

そんで、いろいろあってそのおばさんとアメリカ旅行に出るため空港へ車を走らせていたときに、ニトラムは調子こいておばさんの運転の邪魔したら大事故になっちゃって、おばさんは事故死。なんか、故意にやったんじゃないかと思っちゃうくらいの展開だったんだけども、その辺に言及されてないってことは、謎なのか、そもそも単なるおふざけだったのか。

でまぁ、ニトラムは幸運にもそのおばさんの遺産のすべてを受け継ぐことになるのだ。となると…、アホのフリしてマジで遺産を狙ってたんじゃないかと勘繰ってしまう。普通だったら就職も簡単にできないであろう境遇の人なのに、ちょっとしたことがきっかけで遺産をもらって小金持ちになっちゃった彼は、金に困らない生活を手に入れているわけで、やっぱり幸運と言えば幸運だ。

しかしまぁ、その間に友だちとの付き合いがうまく行かなかったり、親父が独立を夢見て購入しようとしてた別荘を別のやつに買われたりして、だんだんと言動が狂気じみてくる。

もともとこの男は怒りの感情を抑えるのが苦手だったようで、あるときには弱っている父をぶん殴ったりするし、なかなか狂暴で恐ろしいやつ。そんな奴が銃の魅力に取りつかれて、当時のオーストラリアではかなり簡単に銃を購入できるため、たくさんの武器を購入して武装を始める。しかも、取り柄がないと思わせておいて、射撃の腕前はなかなかのもの。

こうなっちゃったら後は標的が必要になるのも時間の問題。果たして彼は、親父の別荘を購入した老夫婦を逆恨みして襲撃。そのあと、観光地に乗りこんでジュースとフルーツの何かを食してから、まるで作業のように大殺戮を行うのであった。

この食事シーンはなかなか恐ろしい。ニトラムは単に作業的に食物を口にするだけで、そこには何の感情も見て取れず、犯行に及ぶ前の人間としてはかなりの冷静さを保っている。しかし、あの冷静さが怖いのだ。もはや人の感情を持たずにロボットのような機械的さを思わせる演技をした役者に拍手を送りたい。

また、この話の特徴的なのは、彼がなぜ犯行に及んだのかについて、決定的な結論を出さないところだ。彼の境遇は悲惨ではあるが、前述のように幸運な部分もある。そういった人間が、人とのかかわりあい、特に両親とのそれの中に、この結末に導かずにすんだことがあったように思わせつつも、その凶行は育ちとは関係のない彼自身の内面にあるかのようにも見えて、そう感じさせる描写がなかなかに匠なのである。

ただ一点、犯行前の母親との最後の晩餐のときに、彼は自分自身が何者かわからないーー的な心情を母に吐露する。それを聞いた母は、「私にはあなたが何を言っているのかわからない」と一蹴。それを聞いて、「それは仕方ない僕だって何を言ってるかわからないんだから」というように返答するシーンがある。

しかし、あの言を理解できない母親は、母親としての役割を放棄しているように感じた。確かに抽象的で意味がわからりづらいことを言っているが、彼の苦しみはある程度伝わるわけで、そこに寄り添おうとしない母親は、ある意味では彼のことを忌んでおり、嫌悪しているように感じてしまった。

ラストのエンドロールの前に、この事件をきっかけにオーストラリアは銃規制に乗り出したという説明がなされる。ということは、この作品は最後の最後で、ニトラムの犯した犯罪行為の一翼を担ったのは、銃規制が緩すぎる社会にあったということを強調したかったのだろうと思わせる。

それはまったくその通りで、いいと思うんだけど、やっぱりそれも一つの要因に過ぎず、ニトラムがあのような結末を迎えるには、それ以上にたくさんの人間とのかかわりや、その時ごとに彼自身、そして彼の周囲の人たちがとった選択によって起こるべくして起こった事件だったのかもしれない。

別にニトラムを擁護する気持ちは微塵もないが、どこかで自分も虞犯的であることを想起させ、そして誰もが虞犯者であり、間接的に誰かを傷つけ、殺しているのかもしれないと突き付けてくる、奥行きの感じられる作品であった。

内容がけっこう重いし、派手さのない淡々とした内容なので、2度見ることはないだろうが、一度は観ておいてよかったなぁという作品でした。

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