ミスティック・リバー
―2004年公開 米 138分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:殺人事件を通して再び出会った幼なじみの男3人の運命を描いたサスペンス。監督・製作は「ブラッド・ワーク」のクリント・イーストウッド。脚本も「ブラッド・ワーク」のブライアン・ヘルゲランド。原作はデニス・ルヘインのベストセラー小説。撮影は「ブラッド・ワーク」のトム・スターン。美術も「ブラッド・ワーク」のヘンリー・バムステッド。編集も「ブラッド・ワーク」のジョエル・コックス。出演は「アイ・アム・サム」のショーン・ペン、「ヒューマンネイチュア」のティム・ロビンス、「コール」のケヴィン・ベーコン、「マトリックス」シリーズのローレンス・フィッシュバーン、「ポロック2人だけのアトリエ」のマーシャ・ゲイ・ハーデン、「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」のローラ・リニーほか。2004年ゴールデン・グローブ賞主演男優賞、助演男優賞受賞。(KINENOTE)
あらすじ:一度は犯罪社会に身を置きながら今は雑貨店を経営しているジミー(ショーン・ペン)、平凡な家庭人であるデイヴ(ティム・ロビンス)、刑事のショーン(ケヴィン・ベーコン)の3人は、ボストンのイーストバッキンガム地区で少年時代を共に過ごした幼なじみ。しかし彼らが11歳の時、ある男にデイヴだけが誘拐されて性的な凌辱を受け、その日を境に3人は離れ離れになった。それから25年後の現在、ジミーの娘が何者かに殺される殺人事件が勃発。捜査にあたることになったのはショーンと、相棒のホワイティー(ローレンス・フィッシュバーン)であり、容疑者として浮かび上がってきたのは、なんとデイヴだった。今も少年時代のトラウマに悩まされているデイヴ。そして、事件当夜に血まみれで帰宅した彼に、妻のセレステ(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は不安を隠しきれず、ジミーに夫が犯人だと思うと心中を告白した。ジミーは自らの手で娘の復讐を果たすべく、デイヴを呼び出す。少年に悪戯をしていた男を殴り殺して血まみれになったと主張するデイヴに圧力をかけたジミーは、娘を殺したと言わせてしまう。ジミーはデイヴを殺害し、川に沈める。しかし一方、ショーンは真犯人を逮捕していた。それは殺された娘のボーイフレンドの弟と、その友人だった。まもなく、デイヴが殴り殺した男の死体も発見される。事の真相をショーンから聞いたジミーは、激しい悔恨の念に打ち震えるのだった。(KINENOTE)
監督:クリント・イーストウッド
出演:ショーン・ペン/ティム・ロビンス/ケヴィン・ベーコン/ローレンス・フィッシュバーン/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ローラ・リニー/トーマス・グイリー/エミィ・ロッサム
ネタバレ感想
適当なあらすじ
同じ町に住む幼馴染の三人、デイブとショーンとジミー。ある日、三人が遊んでいると警官らしき男2名が車に乗ってやってきて、道路にいたずらしていた3人を叱る。そして、なぜかデイブを連れ去ってしまうのである。
その2人組、実は児童性愛者であり、さらったデイブを凌辱する。デイブは何とか監禁されていた現場から脱出するものの、心に大きなトラウマを抱えることに。その後、3人は交友が少なくなり、それぞれが大人になっていく。
ショーンは町を出て刑事になった。ジミーは犯罪者として身を立て、一度はムショ送りに。その後は裏社会から足を洗って雑貨店を営んでいる。デイブは低所得者として妻子を持ち、普通に暮らしてはいたが、快活さに欠ける大人になっていた。
そんなある日、ジミーの娘が殺害される事件が起きる。ショーンはその事件を担当することに。捜査するうちにデイブが容疑者の一人として浮かび上がってくる。一方、ジミーは犯罪者時代の仲間をつかって娘を殺した犯人を突き止めるべく独自の動きを始める。
デイブは何かに怯えている日々を過ごす。そのデイブの挙動不審さを訝った彼の妻、セレステは、ジミーにその胸中を告白。それを聞いたジミーはデイブを誘い出し、殺害するのであった。
しかし、それとほぼ同時期にショーンが真の犯人を摘発。それは町に住む2人の子どもだったのである。娘殺しに関しては無実だったデイブを殺したジミーは罪の意識に苛まれるが、妻の慰めによって落ち着きを取り戻す。ジミーは依然として、妻との間に残された子どもの父親であり、町の支配者なのである。
ジミーのデイブ殺しを核心しているショーンは、仲を取り戻した妻と、町へパレード見物に出かける。そこで彼は、ふてぶてしく仲間たちとパレードを見ているジミーの姿を見かける。彼と目が合ったショーンは、拳銃を向けるポーズをしてジミーを威嚇。それに対してジミーは、「俺は何も知らないぜ」と言いたげに、しらを切ってみせるのであった。
というのが、細部を端折りすぎてる超適当なネタバレあらすじ。
デイブとセレステ
イーストウッド監督作品の中でもかなり好きな一作。ラストにあまり希望を感じられない内容ではあるが、主要人物3人、特にデイブとジミーの葛藤がうまく描かれており、そこに重厚さが感じられる良作だ。
デイブは過去に誘拐され男たちから凌辱されたことで、長じてからもトラウマを抱えており、一言で言えば暗い男だ。そのせいで、児童性愛者に対して激しい怒りを感じている。そして、過去の事件を通じて、当時のデイブとは別の人格のようなものが存在しているようで、デイブ本人もそれを自覚しており、コントロールできていないようだ。
でも、それを他人に対して説明ができない。なぜ説明できないのか、したくないのか、それはよくわからないが、彼の苦悩は奥さんのセレステにも理解できない。セレステは朴訥な女性のようで、デイブも彼の息子も愛していることは見て取れるが、デイブが血まみれで帰宅してきて、その詳細を語らないことから疑念を感じ、それをジミーの娘殺しにつなげてしまうという短絡的思考の持ち主で、その意味では愚鈍な女だ。
ある意味では、彼女がデイブを殺したようなものであるが、彼女はラスト、それを理解していたのだろうか。最後、パレードのシーンで息子に手を振る彼女の悲壮かつ滑稽な姿は、けっこうな見どころであり、彼女を演じたマーシャゲイハーデンが素晴らしい。余談だけど、この人は『ミスト』でも、かなり嫌な役として登場してくる人だ。
ジミーと家族
で、そのデイブを直接的に殺害することになるジミーは、子ども時代からチンピラ感が溢れていて、あの子役がジショーン・ペンの幼い頃の姿として出てくるのは、非常に説得力を感じる。
まぁともかく、ジミーは最初の奥さんとの間にできた娘を溺愛していたので、それを殺害した人間を許すことができない。どのくらい愛していたかというと、娘ができたことで犯罪の道から足をあらって、雑貨屋を営むことになったということからもわかる。そういう意味では、悪人ではありつつも、善人的要素もある、普通の人間なのだ。
しかし、愛する者を奪われたことで彼は、昔の自分に戻ってしまうのである。これは別に、犯罪歴のある人間でなくとも、彼の怒りの感情は理解できるだろう。そしてそれが理解できるということは、鑑賞者も彼と似たようなもんで、同じ穴の狢だ。
それは、彼の2番目の奥さんに対しても言える。彼女は旦那が犯罪者だろうがなんだろうが、子どものために強い父親でいてくれればいいのである。家族のこと以外は、どうでもいいのだ。
ショーンはよくわからん
3人の中で人物像がイマイチよくわからないのが、ショーンである。彼にとっても誘拐事件が暗い影を落としているようだが、それが大人になった彼にどう作用しているのかはよくわからない。ジミーに関してもそれは同じなんだけど、ジミーはあの場に連れていかれなかったことに対して、過去の自分の行動を肯定できる意志があったようで、そこはあまりトラウマになっていない。
しかし、ショーンはよくわからない。で、そのよくわからないままで物語が進み、彼が奥さんになぜ出ていかれたのかも、よくわからないが、晴れて復縁するわけで、彼が最も幸福になっているようには感じる。
ジミーは罪を犯すことを悪だと知っているが、それに手を染めることをためらわない男になった。そういう成長を遂げた彼も幸福と言えば幸福か。ラストの描写で、ショーンはジミーに銃口をつきつけるようなそぶりを見せる。
単純に考えるなら「そのうちに捕まえてやるぜ、ジミー」という意志の表れに観れる。しかし、彼はそうするのだろうか。仮にしないとするならば、彼自身も自分の心の安寧を大事にする人間で、幼馴染である犯罪者に対して静観の立場をとろうとする、ある意味では大人な人間であるがゆえ、事なかれ主義で自分本位の悪人でもある。だがそれも、鑑賞者と同じく人間的なのだ。
ハッピーエンドではないラスト
てなことで、やっぱりどう見ても不幸なのはデイブであるが、この物語の良さは、人間の行いのすべてを、善悪で割り切れないものとしてきちんと、丁寧に描写しているところにあり、その事実を鑑賞者に突き付けるためには、ハッピーエンドを迎える必要はないのであり、そこにリアリティがある。
別にすべての映画にリアリティを求めるわけではないんだけども、こうした娯楽もあるところが、物語作品の多様性であり、よいところだ。
コメント