さよなら、私のロンリー
詐欺師兼コソ泥の両親にケチな犯罪稼業の英才教育を受けたドリオ。が、ある女性が家庭に潜り込んできたことによって、自身の生き方に目覚めていく話。描いている内容はなかなか深みがあり、それを深刻でなくユーモラスに描いているところが楽しめる。ネタバレあり。
―2020年製作 米 104分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「君とボクの虹色の世界」「ザ・フューチャー」のミランダ・ジュライが監督・脚本を手がけ、詐欺師の両親に育てられた娘がある女性との出会いをきっかけに自分の人生を見つめ直す姿を描いたコメディドラマ。詐欺で生計を立てるテレサとロバートの一人娘オールド・ドリオは、幼い頃から詐欺やスリ、盗みの技術を叩き込まれてきた。彼女にとって両親は絶対的な存在であり、詐欺師としての人生を当然のように受け入れてきた。そんなある日、両親は偶然知り合った女性メラニーと意気投合し、詐欺の仲間に引き入れる。メラニーと一緒に仕事をするうち、ドリオは自身の生き方に疑問を抱くようになっていく。「アクロス・ザ・ユニバース」のエバン・レイチェル・ウッドが主演を務め、ドリオの両親を「シェイプ・オブ・ウォーター」のリチャード・ジェンキンスと「愛と青春の旅だち」のデブラ・ウィンガー、メラニーを「ミス・リベンジ」のジーナ・ロドリゲスが演じた。(映画.com)
あらすじ:自分の価値を知れ。脚本家としても高く評価されているミランダ・ジュライ監督が編み出す、感動的でオリジナリティーあふれるコメディー。詐欺師のテレサ(デブラ・ウィンガー)とロバート(リチャード・ジェンキンス)は一人娘オールド・ドリオ(エヴァン・レイチェル・ウッド)に対し、隙あらば詐欺、スリ、盗みをするよう26年かけて英才教育してきた。必要に迫られて急遽考えた詐欺の最中に、両親が見ず知らずの女性(ジーナ・ロドリゲス)の虜になり仲間に引き入れたことで、家族の人生は一変する。(amazon)
監督・脚本:ミランダ・ジュライ
出演:エヴァン・レイチェル・ウッド/デブラ・ウィンガー/ジーナ・ロドリゲス/リチャード・ジェンキンス/パトリシア・ベルチャー
ネタバレ感想
日本未公開だったらしいけど、何かのきっかけで存在を知り、レンタルまたは配信を心待ちにしてた作品。にもかかわらず、初見時は寝落ちしちゃってそのまま放置してたので、今回あらためて鑑賞。前回なぜ寝ちまったのか、わからんくらいに最後まで楽しめた。
主人公のオールド・ドリオの両親は、実に変な思想の持ち主で、よくわからんが、ともかく世の中の一般常識的な生活形式に何ら価値を見出していないように見えて、要はケチなドロボー稼業で小銭を稼ぐ以外に、働こうとしていない。けっして大金を狙うのではなく、日銭を稼いでいるような小さな犯罪とは言え、犯罪をしていることには変わりない。
しかし、両親には犯罪行為への罪悪感はないようで、娘もその犯罪に加担するように教育を施してきたのである。であるからドリオは、詐欺行為や盗みに関する(とはいえ、大金を稼げるような犯罪のノウハウではない)知識を得て、日々の生活のために犯罪行為を繰り返しているのである。
こんな育てられたかたをしているせいでドリオは、他人とのコミュニケーションがほとんどなく、そもそも他者との接し方もよくわからんようで、しかも両親との触れ合いが無機質なものであったせいか、他者に触れられることを拒否しているような感がある。そして、その表情には起伏がなく、機械のような存在にも見える。
なぜこのような人になったかというと、両親がまともに子育てをしなかったからだ。両親は彼女を子どもというよりは、犯罪行為の仲間としてとらえているようで、およそ常識的な親らしい接し方はしてこなかったのだ。
だから、犯罪行為の報酬は父、母、娘で三等分するのである。ある意味では、お互いが自立して生きているわけだが、だがしかし、三人は犯罪組織としての関係がないと生計が立てられてないので、共依存的な関係でもある。そこに愛はない。両親の間にも、果たして愛があるのかはわからない。ともかく常識的にみればこの両親、実にふざけた奴らなのであって、ドリオはその被害者とも言える。
だが、よくよく考えてみれば、親が子をきちんとまともに育て、極端なまでに庇護する必要性を感じないことが悪なのかどうかってことには、真の答えはないのである。ただ、今の人間社会では、それが常識であるというだけで。
この作品は誰もが自分の中に培ってきた既存の価値観が果たして本当に正しいのか、自己欺瞞はないか、実は自分がその多数性の中に生きることで、マイノリティを差別、もしくは白眼視、もしくは排除することに加担している可能性のあることを、鑑賞者につきつけてくるのだ。
物語的には、ドリオは愛のない両親との生活から脱却し、メラニーと愛のある生活を生きることになる。そこで描かれるのは同性愛の肯定であるが、この作品はそれだけを肯定するためのものではなく、どんな人間にも、自身の価値観や、それを形作る社会通念にも疑うべきことがあるのではないかということ、そして、自分自身の常識を疑う、顧みる視線を持つことの大事さを訴えているように感じる。
そうした込み入った話を、コミカルな演出で見せてくれるところに非常に好感を持ったであります。おすすめ。
善悪を超えた言葉を獲得するために、みんな人間であることをやめよう。
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