悪魔を見た
―2010年制作 韓 144分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:婚約者を殺された男が、猟奇連続殺人鬼を執拗に追い詰めていく姿を描くサイコ・サスペンス。監督は「グッド・バッド・ウィアード」のキム・ジウン。出演は「アイリス THE LAST」のイ・ビョンホン、「クライング・フィスト」のチェ・ミンシク、「義兄弟 SECRET REUNION」のチョン・グックァン、「デイジー」のチョン・ホジンなど。(KINENOTE)
あらすじ:ある夜、雪の夜道で車がパンクし、レッカー車の到着を待っていた若い女性が、黄色いスクールバスに乗った男に連れ去られる。地元警察は大規模な捜索を開始。まもなく川底から切断された頭部を発見する。このバラバラ殺人事件の被害者は、引退した重犯罪課の刑事チャン(チョン・グックァン)の娘ジュヨン(オ・サナ)だった。一ヵ月前にジュヨンと婚約したばかりの国家情報院捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)は、ジュヨンが事件に巻き込まれる直前まで携帯電話で会話を交わしており、彼女を救えなかった自分のふがいなさを何度も呪う。深い絶望感に苦しむ彼は、自力で犯人を追い詰めると決心。上司に休暇を申し出、チャンが元部下から入手した捜査資料を受け取り、捜査線上に浮上した4人の有力容疑者をひとりまたひとりと力ずくで締め上げる。保険外交員を装って残る容疑者ギョンチョル(チェ・ミンシク)の実家を訪ねたスヒョンは、ひとり息子から現在の住みかを聞き出すことに成功。ギョンチョルのねぐらで女性用の下着やバッグを発見し、この男こそが犯人だと確信する。ねぐらの隣には被害者たちをバラバラにした血生臭い作業場があり、排水溝からジュヨンの婚約指輪を拾い上げたスヒョンは大粒の涙をこぼす。そんな中、塾の送迎バスの運転手であるギョンチョルは、ジュヨンに続いて別の若い女性を惨殺、さらに塾生の少女を広大な畑に連れ込む。だがそこにスヒョンが現れ、真夜中のビニールハウスでふたりは初めて対峙する。スヒョンを刑事と察知したギョンチョルは、鎌を振りかざして先制攻撃を仕掛けるが、スヒョンは強烈なキックで相手をノックアウト。朦朧としたギョンチョルの左手の骨を砕き、GPSチップのカプセルを飲み込ませ、その場を立ち去る。やがて意識を取り戻したギョンチョルは、自分を逮捕することも、とどめを刺すこともしなかったスヒョンの真意がまったくわからず、再び蛮行に及ぶのだが……。(KINENOTE)
監督:キム・ジウン
出演:イ・ビョンホン/チェ・ミンシク
ネタバレ感想
この作品はけっこう好きで、何度か鑑賞してるんだけど、いつもラストを忘れている。ぜんぜんハッピーエンドじゃなかったという記憶はある。んで、今回鑑賞して、ああそういうラストだったかと(笑)。
今回分かったんだけど、俺がこの映画のこと好きなのって、物語云々はさほど重要じゃないってことだ。だから、ラストの記憶があまりないのである。
じゃあ何がいいかって言うと、チェミンシクが演じる殺人鬼のギョンチョルがいいのだ。主役のイビョンホンが演じるスヒョンはどうでもいい(笑)。
スヒョンは国家情報院の捜査官だけあって、戦闘力も高いし頭もいいから、憎きギョンチョルを痛めつけては苦しめ、その逃がしてはまた追いかけるという、キャッチ&リリース方式で亡き妻の復讐を遂行するわけだが、ダラダラやってるうちにギョンチョルからその意図を見抜かれて反撃されて義理の父や妹にも迷惑かけてるし、その辺の手落ち感にそこはかとないバカさが見え隠れして萎える。いっそ一思いに殺すか、警察に突き出してれば犠牲になる人も少なかったわけだし。
まぁ、そういうツッコミをしちゃうとこの作品のストーリーが成り立たないので、野暮なんだけど、この映画は、ギョンチョルのキャラがいいからこそ楽しめるのだ。
彼には、一緒に暮らしていないとはいえ子どももいるし両親も健在。彼だけがなぜあんなに人格がぶっ壊れているのかはようわからんが、この作品の中だけでの彼を見るに、この男は純粋な悪人なのだ。
道徳観や倫理観なんてものはない。だから、人を殺すのにも傷つけるのにも、何のためらいもないし、むしろ楽しそう。
そういう人間を相手にすると、まともな人間の意見なんて、クソみたいなもんだ。いわゆる常識的な正しさなどはギョンチョルには通用しないのだ。
悪いことを悪いと思わずにできる人間にとって、それは悪ではない。そういう全然感情移入できない異常な男が起こす行動は一般常識にまみれた世界で生きる俺からしてみたら、絶対にまねできないし、したくないし、関わりたくもない人間であるのは確かだが、だがしかし、彼のその純粋悪としての存在感があってこそ、この映画は面白いのである。
このような殺人鬼はもちろん、他の作品の中にも腐るほどいると思うが、こいつは自分が成人女性殺しをする理由も、少女をレイプする理由も、何も説明しないので動機がよくわからん。
女性をバラバラにして殺すことに性的欲求が満たされるのか、レイプがしたいのか、なんなのか、わからんのである。
そこはある意味で不満点でもあるんだが、こういう悪人が悪的行為をなぜしてしまうかについて理由をつけたくなるのは、常識的観点にいる立場の人間が安心感を得たいからだろう。しかし、ギョンチョルが女性を殺すことの理由はよくわからないのである。
たぶん、行きずりで殺すことになった人間以外、彼がターゲットにするのはすべて女性であるから、そこに何か意味はあるのだろう。ただ、この作品ではそこが詳細には描かれない。その描かれなさが、ギョンチョルを純粋悪として成り立たせているのである。
だから、家族や息子となぜ別れて暮らしているかについての説明はないのだ。なくていいのだ。してしまうと、彼のキャラに背景ができてしまい、純粋悪ではいられなくなってしまうので。
ということで、この作品におけるギョンチョルの描写は意図的に説明が省かれているのかどうなのかはわからんが、その曖昧さや分からなさの中に、この悪人を見ることの面白さがある。
一方のスヒョンも復讐を通して悪魔的にはなっていくのだが、彼は単なる罪人になっていくだけで、純粋悪にはなれていない。悪人にはなるものではなく、元からなっているものなのだろう。もちろん、ここでいう悪とは、ギョンチョル的悪のことである。
善悪を越えた言葉を獲得するために、みんな人間であることをやめよう
コメント
それにしても韓国映画の容赦ないバイオレンス描写、こりゃ日本映画や香港映画が負けるわけだ、とつくづく思う。
マジで28禁でもおかしくないくらい
そして韓国の女優さんがあまりNGせずどんな汚れ役も(裸だろうがバラバラ死体だろうが)ちゃんとやる、そこにも感心した。
2000年代くらいからの韓国映画の勢いは本当にすごいですよね。もちろんつまらない作品もあるけど、特に暴力描写のあるジャンルはどの作品もけっこうな高水準だと思います。