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映画 宮本から君へ ネタバレ感想 褒められて生きていたい

宮本から君へ
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宮本から君へ

漫画原作とドラマは未見で鑑賞。別にそれらを知らなくとも楽しめる。ネタバレあり。

―2019年公開 日 129分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:2018年のテレビドラマ版が好評を博した新井英樹の原作コミックの後半部分を映画化。宮本浩は、不器用ながらも真っ直ぐに仕事と向き合う文具メーカーマルキタの営業マン。自立した女性・中野靖子と恋に落ちた彼の前に、最大の試練が立ちはだかる。出演はドラマ版から引き続きの池松壮亮、蒼井優、松山ケンイチらに加え、「嵐電」の井浦新、「キングダム」の一ノ瀬ワタルが新加入。監督は「ディストラクション・ベイビーズ」の真利子哲也。(KINENOTE)

あらすじ:文具メーカーマルキタの営業マン、宮本浩(池松壮亮)は、笑顔がうまく作れず、気の利いたお世辞の一言も言えない不器用な男。にもかかわらず、人一倍強い正義感で、日々の仕事をこなしていた。会社の先輩・神保(松山ケンイチ)の仕事仲間で自立した女性・中野靖子(蒼井優)と恋に落ちた宮本はある日、靖子の自宅での食事に呼ばれる。だが、そこに現れたのは、靖子の元恋人・裕二(井浦新)だった。裕二を拒むため、宮本と寝たと告げる靖子。怒りに任せて靖子に手を出した裕二に対して、この女は俺が守ると言い放つ宮本。この出来事をきっかけに、心から結ばれた宮本と靖子に、ひと時の幸福が訪れる。やがて、営業先の真淵部長(ピエール瀧)と大野部長(佐藤二朗)から気に入られた宮本は、飲み会の誘いを受ける。靖子と共に参加し、気合いを入れて日本酒の一升瓶を飲み干す宮本だったが、最後は泥酔。見かねた大野が車で送ろうと、真淵の息子・拓馬(一ノ瀬ワタル)を呼び出す。ところが、やって来たのは、ラグビーで鍛えあげた肉体を持つ巨漢の怪物だった……。泥酔する宮本と宴会を楽しむ靖子。2人の間に人生最大の試練が立ちはだかる。究極の愛の試練。愛する靖子のため、絶対に勝たなきゃいけないケンカに挑む宮本の運命は……(KINENOTE)

監督:真利子哲也
原作:新井英樹(『宮本から君へ』(百万年書房/太田出版刊))
出演:池松壮亮/蒼井優/井浦新/古舘寛治/ピエール瀧/松山ケンイチ

ネタバレ感想

原作を忠実に再現してるのかどうなのかはわからないけども、漫画っぽい過剰演出というか、そもそも主人公の宮本は漫画原作的な直情径行型的な気質の持ち主で、そこがいいんだけども、観る人によってはものすごくウザくてウザくて邪魔くさくて面倒くさくて勘弁してほしいくらいに過剰なまっすぐ野郎である。

そこが彼の良さであり、この作品もそんな彼が起こす(文字通り作中で起こる出来事は彼がそういう性格だから起こることだとも言える)騒動によって、そこに関わった人間が、特に恋人である靖子がいかなる選択をするのかという話として観えた。

で、この映画単体を観た感想として言うと、靖子がラガーマンの拓馬にレイプされるまでは、退屈でかなわんかった。それは宮本のキャラがよくわからんかったせいなのかも。俺は作中でのセックスシーンなんて、そんなに執拗に描く必要がないと思っている人間なんで、必要な箇所だけ見せてくれればさっさと次の展開に移ってほしいのだ。だから、序盤のほうでの宮本と靖子のセックスシーンは、AVじゃあるまいしあそこまで長く見せる必要ないと思ってまったのである。とはいえ、役者2人の演技はそれなりにというか蒼井優はすごいなとは思ったのだけど。

とかなんとか、ともかく宮本のあの面倒くさい性格ってのは、靖子がレイプされて以降に非常に発揮される。その発揮されるそれぞれは、靖子にも指摘されるように、宮本の自己満足だ。彼が拓馬との喧嘩に勝とうとする、勝たないと気が済まない気持ちは彼自身の雄としてのプライドみたいなもんで、それに付随して彼が靖子にプロポーズするシーンなども、彼の直情径行の周りの迷惑を顧みない行動力の発露によるものであって、ともかくそれを目の当たりにする靖子や他の関係のない人間にとっては、彼の言動は狂気の沙汰にしか見えない。

でも、宮本はそれをするのである。しないと気が済まないことをしないと気がすまない人間なのだ。猿なのだ。宮本は猿なのである。雄猿なのである。ところが、その雄猿的な雄度を見せられると、雄である俺は、頑張れ宮本、押忍! と思わなくもないところがあって戸惑う。

宮本は、自分のために生きているのだ。靖子のために生きてはいない(これは字面と違う意味に言うなら、靖子のために生きている)。ただ褒められたいのだ。好きな女性に褒められたいのだ。愛している人に褒めてほしい。おためごかしでなく、自分の思っている生き方を理解して、その生き方をほめてほしい。そんなふうに、女性に対して母性をむき出しで求めていいのはシャア・アズナブルだけだ(笑)。

そうした異性への願望は独りよがりだし、そんな自分の雄度をピンポイントで褒めてほしいように褒めてくれる人間は、本質的には自分しかいない。しかしそれを、恥ずかしげもなく表に出せるのが宮本という男なのだ。暑苦しい。

こうした宮本の言動を観た俺は、彼のその自己肯定感に、ある意味では打ちのめされる部分があった。自分はそうはできないからだ。そして、そもそもあいつのその性格のせいで靖子がレイプされるに至ったのにも関わらず、その過失を引きずらずに前のめりに行動できてしまう(できているように見える)力に圧倒されるのである。

宮本は自分のために生きている。そして、それが靖子のためになるのだ。靖子がそうした彼の傲慢さに対して怒りをあらわにするのは、自分を置き去りにされているように感じるからでもあるだろうし、そういう暑苦しさに対する憎しみなのかもしらんし、そういう行為ができない自分自身に対する嫌さなのかもしらぬし、そうではないのかも知らぬ。

ともかく、俺は誰々のために頑張っているーーとか抜かすおためごかしよりも、むき出しの感情で自分を肯定して、自分のために生きてて、それを完遂したいがために行っていることが、靖子を愛していることの表現になるという宮本の生き方には、ある種の共感を覚えざるを得ない。

何かについて言動したことは、たとえ誰を思ったことであろうが、それは自分がそうしたいからするのだ。自分が損をすることだろうと、自分が損をすることを知ったうえで、もしそれを知らなかったとしても、それを自分がしたかったからするのだ。

したかったからするのだ。選んだ行動は自分で選んでしているのだ。例えば、やらなければ殺すといわれてやったことも、死ぬよりも自分が生きたいから自分で選んでした行動なのだ。死ぬよりましだったと選んだ行動なのだ。誰のせいにもできない。

崖から落ちそうになった瞬間に瞬間的な判断で自分が生きるために誰かを犠牲にしてしまっても、自分が犠牲になっても、ともかくどういう選択しても、選択したのは自分だ。そこまで人間は自己責任に縛られなくてはならないのか。それは分からない、分からないけども、それが社会の常識的に求められる倫理観や道徳観ではなかったか。

ともかく、己の存在を認めて生きている宮本の生き様は、ある意味では人のためになっているのだと俺は思った。そこがこの作品の良さだ。

ただし、ツッコミどころはいっぱいある。特に拓馬との2戦目の喧嘩とか、その後に靖子の元まで自転車で拓馬をつれていくところとか、そんなんあるかいなと思うけども。その辺は漫画なのかなと思うしかない。

いずれにせよ、苛烈なまでの自己肯定と、独り相撲な生き方をしている宮本。これは本当に漫画的な理想的キャラであり、その彼の言動を観た人間に、何がしかの考えをもたらす作品であったと思う。そしてそもそも、どんな行動も言葉の上では、自分のための行動なのである。

ちなみに、原作者の新井英樹氏は俺が前から読みたいと思ってた『ワールドイズマイン』の作者だったのを、この記事を書いてて知った。ちゃんと読もう。ついでに、『愛しのアイリーン』もこの人の作だったらしい(笑)。

善悪を超えた言葉を獲得すために、みんな人間であることをやめよう。

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