隔たる世界の2人
黒人の男がナンパした女と一夜を過ごして愛犬の待つ自宅に帰ろうとしたら、白人警官に止められて殺害されるループを繰り返すことになる。果たして彼は、殺人ループから脱出できるのか。ネタバレあり。
―2020年製作 米 29分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:第93回アカデミー短編実写映画賞ノミネート作品。Netflixで2021年4月9日から配信。(映画.com)
あらすじ:タイムループに閉じ込められた男が、愛犬が待つ自宅に戻る途中で、警官ともめて殺される恐怖を何度も繰り返す。(Netflix)
監督;トレイボン・フリー/マーティン・デズモンド・ロー
脚本:トレイボン・フリー
出演:ジョーイ・バッドアス/アンドリュー・ハワード
ネタバレ感想
ジョージフロイド氏の死亡事件が題材に
ネットフリックスで見つけて鑑賞。ブラックライブズマター運動が沸き起こるきっかけとなった、警官によるジョージ・フロイド氏の死亡事件を題材に、人種差別の根深さを感じさせる内容に仕上がっている。
適当なネタバレあらすじ
グラフィックデザインの仕事をして裕福そうな暮らしをしている男が、一夜を過ごした女性の家から愛犬(超かわいい)の待つ自宅に帰ろうと外に出たら、白人警官に職質みたいなんされて、そのままフロイド氏のように窒息死させられてまうのだ。
で、男が目を覚ますと時間はその日の朝に戻っていて、自分は女性と共にしていたベッドの上にいる。嫌な夢を見たと思って帰宅しようとすると、またしても同じ警官がやってきて、彼はまたしても殺されてまうことに。
何度繰り返しても、警官からは逃れられない。およそ99回同じ朝を過ごし、99回殺されたのちに、男は少し違う行動をとる。
これまでに自分が警官に殺される間に目にしてきた街のさまざまな出来事を記憶しているので、それが起こる前に警官にそれを予言してみせるのだ。警官は不審に思いつつも、彼の予言に驚かされ、二人は打ち解けた会話をし始める。そして、彼は警官に自分の家までパトカーで送ってもらうことになるのだ。
その車中でもお互いの距離を近づけるような会話が続く。やっと帰宅、すがすがしい気分で警官と別れようとする男だが、警官が彼の背後で不敵に笑う。なんと、警官も時間がループしていることを知っていたようで、打ち解けたように対応していたのは彼の演技だったのである。
それを男に告げた警官は、彼の背中に拳銃を向けて、銃殺する。男はまた、女性の家で目覚めるのであった。いろいろなことを試みてもループの悪夢から逃げ出せない男であったが、彼は女性の家を出てから明るい気持ちで決意をする。あきらめずに、やり続けるだけだーーというのが適当なネタバレあらすじ。
タイムループで差別問題の根深さを描いた良作
これはすごい。いいものを観たと思える作品だったな。何がすごいって、人種差別にある根深い問題を表現するために、タイムループというSF的設定を導入しているところ。
通常のタイムループ作品は、繰り返す時間の中で主人公が人間的に成長していくタイプの話が多い。もしくはループそのものから抜け出るためにジタバタするとか。
ところがこの作品は、ループを繰り返す中で、差別をする人間のしつこさというか、絶対に自分の見方を変えようとしない、人間の凝り固まった価値観のいかんともし難さを描きだすことに成功しているように感じた。
人間=白人警官は一切、この点において成長しない。自分の価値観の外に出ていく気がまったくない。そうした偏執的な人間がいかに変わらないか、変えられないか、変わろうとしないかが、嫌というほどにわかるようになっているのである。
それに対して、黒人の男は希望を捨てずに、あきらめずに同じ時間を繰り返す覚悟を持つ。つまり、それはこれまでの人間が差別を繰り返してきた歴史をそのまま、たった30分程度のドラマの中で表現していることを示しているのであり、歴史は変わっているようで実は変わっておらず、それでも繰り返し、差別主義者とは戦わなければならない、対話を続けなければならないと呼びかけているように思える。
もちろん、作品で描かれるのは白人による黒人差別だが、あらゆる人種間、たとえ同じ人種の中にあっても巻き起こる差別意識の根深さを表現している、ととらえることもできる。
タイムループという設定を持ち込むことによって、これだけ大きな問題を、30分という短い尺のなかで見事に表現できちゃってる素晴らしい作品であった。あと、犬がかわいい。
この作品は、ネットフリックスで鑑賞できます。
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