狼たちの墓標
昔気質のヤクザ、キルソクのシマに別組織で成り上がってきた冷血漢、ミンソクが現れた。リゾート地の開発利権を巡り、双方が血を流さずに共存の道を探るキルソクであったが、ミンソクは武闘派を貫いてくる。ヤクザ世界の仁義なき闘いの果てには何があるのか。『友へチング』のユ・オソン主演の韓国ノワール作品。ネタバレあり。
―2022年公開 韓 119分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「友へ チング」のユ・オソンと「僕の彼女を紹介します」のチャン・ヒョクが共演した韓国ノワール・アクション。大規模開発に湧くビーチリゾート地・江陵の開発利権を巡り、仁義を重んじるやくざ者キルソクと新興組織のボス・ミンソクとの熾烈な抗争が始まる。本作が初長編のユン・ヨンビン監督が、自身の出身地である江陵(カンヌン)市を舞台に、リゾート開発を巡る欲望と裏切りを活写。ユ・オソンは地に根を張る昔気質のやくざ者キルソクを、チャン・ヒョクは冷血漢のミンソクを演じる。(KINENOTE)
あらすじ:平昌オリンピック直前、韓国屈指のビーチリゾート地・江陵(カンヌン)はさらなる大規模開発に湧いていた。街を牛耳る組織の幹部キルソク(ユ・オソン)は地元に根を張り誰よりも義理を重んじ、地元警察からも一目置かれる存在で、彼のおかげで街は安定していた。そんなキルソクの前に、目的のためならば手段を選ばない非情な男ミンソク(チャン・ヒョク)が立ちはだかり、やがて開発利権を巡り、警察をも巻き込んだ凄惨な抗争が始まる。(KINENOTE)
監督・脚本:ユン・ヨンビン
出演:ユ・オソン/チャン・ヒョク
ネタバレ感想
適当すぎるあらすじ
レンタルで見つけて鑑賞。ユ・オソンと言えば『友へチング』のジュンソクだよね。一応、同作の続編も彼が演じてたが、そっちはあんまりおもしろくなかったなぁ。で、本作で彼が演じるキルソクは若い頃のジュンソクがそのままオッサンになったような感じの役柄で、義理人情に厚い男なんである。
で、そのキルソクはヤクザ組織の幹部なんだが、会長に才を見込まれていて、リゾート開発会社の運営を任されることに。キルソクは義兄弟2人に遠慮があって最初は辞退するんだけども、会長の命でその役を担うことになる。
でまぁ、この会社の2番手の株主がミンソクが所属する別のヤクザ組織の会長で、ミンソクはその会長をぶっ殺して権力を奪い取り、次にはキルソクの会社の経営権もぶんどったろうと、キルソクのシマに乗り込んでくるのである。
キルソクは警察に一目置かれるくらいに街の治安に安定をもたらせていて、しかもその安定は武力行使ではなく、敵対者との話し合いで事を進めてきたような男。であるから、本人も部下も喧嘩は強いんだけど、血みどろの抗争経験はさほど持っていない。
で、ミンソクに対してもいつも通り、食事の席を設けて話し合いで穏便に解決を図ろうとするんだけども、ミンソクはそんな気はさらさらなくて、自分の希望を通すためには血を流すこともいとわない奴なのだ。であるから、会食の場で和気あいあいなんてことにはなるわけもないのである。
キルソクは警察のマル暴の刑事とも親しくしていて、街の安定をもたらすために刑事はキルソクとミンソクの抗争を起こさないように努めるんだが、そこはミンソクのが一枚上手、警察の介入もむなしく、2つの組織は血みどろの戦いを起こすことになるのであったーーというのが適当すぎるあらすじ。
最後はロマンよりも暴力だ
仲間思いで義理堅いキルソクと自身の目的を達するためには人殺しだろうが裏切りだろうが、何でもありの男、ミンソクの戦いを描いた今作。二人の男のやり方が対照的すぎて、肩入れしたくなるのは人間の情的にはキルソク側であるのは間違いないんだが、所詮はキルソクもヤクザ者なわけで、ミンソクと似た者同士。最終的には暴力に対して暴力で物事を解決することになる。であるからラスト、瀕死のミンソクに対して「おまんも最期は俺と同じような目に遭うぞ」と言われるのだ。
そこがこの作品のテーマと言える部分なのかもで、要するにあれだけ穏健派でコミュニケーションを大事にしてきたキルソクも自分の目的や組織の掟みたいなのに縛られて暴力をふるうことになるわけで、一度暴力で手を血に染めた人々は、暴力連鎖から逃れられなくなるということだ。
キルソクはそれを覚悟したうえでミンソク潰しをしたわけで、であるからラスト、いろいろ考えこみつつも血にまみれた行く末に思いを馳せつつ、その運命を受け入れて物語は終わるのである。
「ロマンだけではやっていける時代ではなくなった」。キルソクはミンソクとの対決の前に、そんな話をするわけだが、そもそも現実的には、ロマンだけでやってられるヤクザなんていないわけで、きっと2000年代だろうが、90年代だろうが、いつでもヤクザはヤクザであり、そこにロマンもへったくれもないはず。
だが、こういうフィクション上でのノワールヤクザ作品には、確かに義理人情仁義任侠みいたなロマンが溢れてて、そこがこうした作品の面白味ではある。であるから今作は、そのロマンを捨てざるを得ないキルソクの覚悟が描かれているところが見せ場なんだろうけど、じゃあその話が新鮮だったかというと、使い古された任侠モノって感じはありますな。別にそれはそれで、俺は嫌いではないからいいんだけど。
にしても、ツッコミどころはいくらかあって、そもそもキルソクの会長は簡単に敵に乗り込まれちゃうような無防備っぷりに萎える。少しは屋敷に護衛くらい用意しとけやと思いますね。あと、ラストバトルのところ。ミンソク一人に対して、キルソクは部下を従えてバトルに突入するシーン。
キルソクの部下を全員殺しちゃうミンソクの戦闘力も異常だが、キルソクはそんなミンソクが部下と戦って疲弊するさまを見てるだけ。自分は見物気どってやがって、ロマンが云々とか言ってるくせに、五体満足のミンソクとタイマンしないところがセコい。部下も使い捨て。酷い。
てなことで、なかなか楽しめるヤクザ映画でしたが、絶賛するほどでもない。ユ・オソクはさすがの存在感ではあったが。
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