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映画 ラストエンペラー ネタバレ感想 コオロギのラストが悲しい

ラストエンペラー
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ラストエンペラー

―1988年公開 伊=中 163分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:激動の時代に生きた中国の最後の皇帝溥儀の生涯を描く。製作はジェレミー・トーマス、監督は「1900年」のベルナルド・ベルトルッチ、脚本はマーク・ペプローとベルトルッチ、撮影はヴィットリオ・ストラーロ、音楽は坂本龍一、デイヴィッド・バーン、コン・スー、編集はガブリエラ・クリスティアーニ、衣裳はジェームズ・アシュソンが担当。出演はジョン・ローン、坂本龍一ほか。後に219分のオリジナル全長版が発表されている。(KINENOTE)

あらすじ:1950年、ハルビン駅では次々と中国人戦犯たちが送りこまれていった。800人を越えるその人の中には“清朝最後の皇帝”--愛新覚羅溥儀(ジョン・ローン)の顔もあった。彼は人目を避けてトイレに入り手首を切った。様ざまな過去が彼の脳裏をよぎった--まだ何もわからぬ幼少(リチャード・ヴゥ)の頃、光緒帝は帰らぬ人となり、実質的支配者だった西太后(リサ・ルー)は、溥儀を紫禁城に迎え、皇帝にと考える。紫禁城での生活は、外へ出ることは禁じられ、心の支えは乳母(イエード・ゴー)だけだった。7年後、溥儀(タイジャ・ツゥウ)は、中国全土に革命の嵐が吹き荒れる中で、孤独だった。そんな頃、家庭教師としてやって来たレジナルド・ジョンストン(ピーター・オトゥール)から数学やテニスなど西洋の文化を学ぶ。やがて15歳になった溥儀(ワン・タオ)は17歳の婉容(ジョアン・チェン)を皇后に、12歳の文繍を第二の妃に迎えた。1924年、中華民国の軍人である馮玉祥のクーデターで、溥儀は紫禁城を追われ、ジョンストンが、婉容、文繍(ウー・ジュン・メイ)、女官らと共に英国大使館に保護することになる。一方、戦犯管理所センターでは、罪の告白が続く。溥儀は、日本の甘粕大尉(坂本龍一)との日々を思い出していた。天津の租界地でプレイボーイの生活を楽しんでいるころ、蒋介石率いる国民党が上海を攻略。溥儀の身を案じた甘粕は、日本公使館へ逃亡するように指示する。民主主義に日覚めた文繍は離婚を申し出、溥儀の元を去り、かわりに日本のスパイであり婉容の従姉のイースタン・ジュエル(マギー・ハン)がやってきた。やがて友人のジョンストンも帰国したが、1932年、全世界の非難にも関らず溥儀は、日本の“傀儡政府”である満州国の執権になり、2年後皇帝となった。溥儀が東京を訪問中、婉容が運転手と誤ちを犯し身寵ってしまう。運転手は射殺され、子供は秘かに始末された。中国主要都市を制圧した日本軍だが、1945年、ソ連が宣戦布告、同年8月15日、日本は無条件降伏する。玉音放送を聞きながら、甘粕はピストル自決を遂げた。日本へ脱出しようとした満州国皇帝は、長春の空港でソ連軍の捕虜となる。1959年、10年の収容所生活を経て、溥儀は特赦される。皇帝溥儀は、一市民に生まれ変わったのだ。そして、庭師として北京で暮らす溥儀は、あの懐かしい紫禁城を訪れる……。(KINENOTE)

監督:ベルナルド・ベルトルッチ
音楽:坂本龍一
出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/イン・ルオ・チェン/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/坂本龍一/ケリー・ヒロユキ・タガワ/池田文彦/高松英郎/立花ハジメ

ネタバレ感想

女真や満州族は名前がスゴイ

何度鑑賞しても面白い歴史ドラマ。中国は清王朝の最後の皇帝となった、愛新覚羅溥儀の生涯を描いている。

愛新覚羅ってすごい名前だよね、かっこいい。清王朝ってのは漢民族ではなく北方異民(当時の漢民族から見れば)である満州族の建てた征服王朝で、清の礎となる後金を立てたのが女真族(後の満州族)のヌルハチ先生だ。ヌルハチってこれまたすごい名前だ。インパクトありあすぎ。

余談だけど、俺が最初にヌルハチを知ったのは、小学校低学年の時に観た『インディージョーンズ魔宮の伝説』だった。インディが上海かなんかにいったときに、ギャングのボスと取り引きをする。そのブツが「ヌルハチ」だったのだ。小さなツボに入った遺灰なんだけども、当時の俺はそんなことを知らなかったので、ヌルハチが何だったのかさっぱりわからんかった(笑)。

てなことで、本作を最初に鑑賞したのはいつだったか…。あんまり記憶にない。ただ、初見時(テレビの洋画劇場で)はまだ中国の歴史なんてぜんぜん知らない頃だったので、内容を味わうなんてことはあまりできなかったような…。

『さらばわが愛 覇王別姫』と並ぶおもしろさ

次に鑑賞したのは大学生のときだ。俺は中国史系の学科に所属していて、ある授業でこれを鑑賞させられたのだ。ともかく、おもしろかった。そのあと、折に触れて何回鑑賞したことか。これとほぼ同時代を描いた映画としては、チェン・カイコー監督の『さらばわが愛 覇王別姫』て作品があって、それと並ぶくらいに好きだ。

ちなみに、また余談を述べると、この映画を授業中に鑑賞させた当時の教授は、清朝末期の政治家、蔡元培の孫だったか曾孫だったか忘れたけど、ともかくそういう人だった。

自分の意志で生きられない辛さ

にしても、この愛新覚羅溥儀って人の生涯は紆余曲折ありすぎて、しかもそのほとんどの人生が自分の意思では生きられていないっていう何とも悲しい人物である。幼くして皇帝になってみたはいいけども、当時の清王朝は斜陽を迎えていて権力なんてない。だから、「紫禁城の中では皇帝、外では皇帝ではない」なんて知らされちゃって、意気消沈。家庭教師のジョンストンからいろいろ学びつつ、それなりに皇帝らしくなっていく感じだけど、実際は何の実権もないので紫禁城内でも大したことができない。

描かれている紫禁城内での一連のエピソードは、当時の清王朝の宮中がしきたりに縛られるだけのクソ習慣が残り続けている様がよく描かれてて、なんでこういうことになっちゃうんだろうって思わされる。世襲というか血縁で世をつないでいく権力者たちの組織の腐敗具合って、ああいう部分にドロドロ溢れてくるんだねぇ。だって、あんなに宦官抱えてて、何に使うってのよ。

ちなみに、作品内では言及されてないけど、彼は性的不能者だったらしい。これはたぶん、幼少期に宮中生活を過ごしたことによって、いろいろと変な成長をしてしまったことがきっかけなんではないか。あくまで俺の想像だが。だって、映画の中では、10代前半くらいに見える頃でも、乳母のおっぱいにすがりついているわけで、しかもそんな彼女は母親というよりは初恋の人だったみたいだし。そんな育ち方したら、まともな性生活がどんなもんかなんて、わかんなくなっちゃうでしょ。一方、正妻というか第一の妻になった人が、後に運転手と浮気してたけども、それはまぁ、夫との性生活に満足できなかったからなんだろうし、気の毒ではある。アヘン中毒になっちゃうし。

その後の溥儀は紫禁城を追われるわけだが、そのシーンがまたいいね。これまで、どんなに願っても自分の力では門の外に出られなかった溥儀が、外部の圧力によってその場を追われることになっちゃう。自分が地に足をつけた状態で、初めて門の外の景色に触れる感慨と、しかし自分が暮らした紫禁城が自分の土地ではなくなってしまい、兵士たちが勝ち名乗りをあげながら入場していくーー実に切ない場面だ。

紫禁城を追われてからは、イギリス大使館に守られながら上海でプレイボーイとして楽しめてそうな感じだったのに、その地も追われ、いろいろあって満州国の皇帝になったはいいものの、傀儡政権なので、やっぱり何の実権もない。ここ、本人は日本と五分の付き合いができると思ってた感じなのがまた悲しい。日本が敗戦した後は、収容所生活を送らされ、そこで臭い飯を食ってる間は、傀儡されてた身だったのに、一応戦争に加担したわけだから、戦犯として執拗に罪の告白を迫られる。

ともかく、徹底して自分の意志で動けない人生で、がんじがらめな毎日で、もちろん些細な日常の選択などはできたにせよ、他人に利用される道具としての生活を強いられているのだ。…辛い。

コオロギで溥儀の一生を比喩するラスト

しかもだ、しかもだ、コオロギを比喩にして、ラストで彼は、あらゆる束縛から解放されて自由になったことが表現されているわけだが、解放されるって言っても、あの描写から見るに天に召されたってことだろうから、けっきょく現世では解放されてないじゃん! ってなことで、何とも気の毒。

その気の毒な人生なんだけども、坂本龍一の音楽をバックに繰り広げられる彼の激動の人生が、ドラマチック過ぎて、とても素晴らしいのである。映画スターにイマイチなりきれなかった、ジョン・ローンの最高の晴れ舞台となった作品でしたな。

しかしまぁ、これって皇族の話と言えばそうなんであって、日本だと天皇の生涯を描いているようなもんだが、じゃあ昭和天皇の生涯が日本で映画化されるかと言えば、たぶんないだろうなぁ。どっかの海外で作られたりせんだろうか。

所長はなぜ囚人になったか

ちなみに、2023年1月28日に、新宿武蔵野館で同作品の4Kレストア版が公開されてたので、鑑賞してきた。とてもよかった。やっぱり劇場で観ると全然印象が変わるよねぇ。しかも、自分の思い入れのある名作だと感じ方にもより深みが出てくる。エンディングの坂本龍一の音楽が流れるところとか、感動で身体が震えちゃったからね。

てなことで、あらためて鑑賞してみたら、最後のほうのくだりに新たな感想を得た。溥儀が恩赦を受けて庭師として働いている頃に、文化大革命が起きる。そして、紅衛兵たちによって反革命分子のレッテルを貼られた人間たちがさらし者にされてるシーンだ。

あの中に、溥儀の収監されてた収容所の所長がいるのである。まさかと思った溥儀が、「彼は善人だ。すばらしい先生だ」というものの、相手にされず。若者たちは共産党を称える歌を唄い、踊るのである。あれは実に恐ろしい光景だ。まさに激動の時代を生き、苦汁を味わってきた溥儀にとっては、体制によって起きる、価値観の大転換やそれに突き動かされていく大衆のパワーに、恐怖しただろう。

溥儀が、どうして所長が反革命分子なのかと紅衛兵に聞くと、彼らは「皇帝従順だ」という。要するに、満州国の傀儡皇帝だった溥儀が教育によって普通人になったと認め、恩赦を出した罪によるものーーと言っているようだ。食い下がろうとする溥儀ではあったが、かなり危険な行為であるし、もちろんこのシーンはフィクションなんだろうけど、この時代の中国と今の中国、どっちがおっかない国なのかって考えると、まだ今のほうがマシなんじゃないかと思っちゃったなぁ(その土地に生まれ、生きるとしたらという意味です)。

こうした名作は観るたびに新たな発見や感慨があるもので、今回は溥儀の奥さんたちの悲惨な末路にも目がいっちゃったな。特に婉容は溥儀のせいで(と言えなくもない)アヘン中毒になってるわけで、最後のほうで甘粕の死体とかスパイ女とか、屋敷にいた日本人にイチイチ唾を吐いていくシーンなんか、見るに耐えないくらい悲惨。あのとき、溥儀には唾をかけずに扉を閉ざすだけだったのは、彼女にまだ溥儀に対する愛情がなくもなかったということなんだろうか。その辺はようわからん。

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