ザ・ギフト
1人の登場人物に感情移入し続けると、どこかでそれを裏切られるような展開になっている。ラストまで面白く観られるうえ、心にどっしり何かを残す作品だ。鑑賞するか迷っている人のため、ネタバレなしでおすすめポイントを。
―2016年 米 108分―
解説:「ブラック・スキャンダル」などで活躍する俳優ジョエル・エドガートンが初監督を務めたサイコスリラー。新天地で暮らし始めた夫婦が、夫の高校時代の同級生と再会。その相手から繰り返し贈り物が届くようになり、やがて周囲で奇怪な出来事が続発する。出演は「ディス/コネクト」のジェイソン・ベイトマン、「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」のレベッカ・ホール。ジョエル・エドガートンは監督の他、脚本・出演も兼任する。(KINENOTE)
あらすじ:シカゴからカリフォルニア州郊外に移り住んだ若い夫婦サイモン(ジェイソン・ベイトマン)とロビン(レベッカ・ホール)は、人もうらやむ幸せな生活を送っていた。その新天地はサイモンの故郷でもあったことから、偶然、買い物中に高校時代の同級生ゴード(ジョエル・エドガートン)から声をかけられる。ゴードのことをすっかり忘れていたサイモンだったが、旧友との25年ぶりの再会を喜んだゴードは、次々と贈り物を届けてくる。しかし、その過剰な様子に、2人は次第に困惑。とりわけサイモンは露骨にゴードを煙たがり、ついに強い口調で“もう自宅に来るな”と言い放つ。やがて夫妻の周囲で続発する奇怪な出来事。そこへ、ゴードから謝罪の手紙が届くが、そこにはサイモンとの過去の因縁をほのめかす一文があった。果たして25年前、彼らの間に何があったのか。頑なに口を閉ざす夫への疑念を募らせ、自らその秘密を解き明かそうとしたロビンは、衝撃的な事実に行き当たる……。(KINENOTE)
監督・脚本:ジョエル・エドガートン
出演:ジェイソン・ベイトマン/レベッカ・ホール/ジョエル・エドガートン
タダより怖いものはない
ジョエル・エドガートンて監督・脚本までやっちゃうのね。彼は本作で不気味な男、ゴードを演じている。『ウォーリアー』なんかと比べると別人に見えるからなかなかすごい。
で、この作品、おかしな元同級生が自分の家に怪しげな贈り物をしてきて、その贈り物攻勢が次第にエスカレートして主人公の夫婦を恐怖にさらすという、これまでにも類似作がありそうなクソ展開の映画なのかと思っていたら、ぜんぜん違う。
スプラッターやグロ描写もなく恐ろしい展開とラストが楽しめる、良作です。
三者三様の行動や心の動きに注目
それぞれの人物について考えると、不気味な男、ゴードには同情したくなる過去がある。で、偶然ではあるものの、その忌まわしい過去の原因をつくった本作の主人公(サイモン)と出会うことになるのだ。そして、その出会いを通じて、彼は贈り物をすることでサイモンのことを試していく。その結果がラストにつながると。
こいつ、不気味だしあんまり性格もよさそうには見えないが、実は相手に対して「許し」を与える機会をいくつも与えているのだ。そういう意味ではイイ奴なのである。
サイモンは勝ち組のリア充である。イケイケだ。過去にとらわれずに、今を生きることを信条としている。目的達成のためには努力を惜しまない人間だ。なかなかすごい。すごいからこそ、すごくない部分も明るみになってくる。
サイモンの奥さんロビン。彼女は子どもを亡くした過去があって、精神的に不安定。ゴードとの関わりによって、心の弱さが露わになっていく。こうやって書くと同情したくなるかもしれぬが、よく観ていると、なんかおかしい。この人にも注意が必要だ。
てなわけで、1人の人物の動きにとらわれずに、各人の行動や心の動きに注目して鑑賞することをおすすめしたい。
そうやって鑑賞すると、ラストのそれぞれの行動や心情にも深みが増すと思う。
自分は忘れていても、相手は覚えているかもしれないよ
で、ネタバレなしで個人的感想を述べると、過去を思い返して自分の胸に手を当てざるを得なくなるという意味でも恐ろしい作品であった。自分は「他人をいじめてない」とか、「加害者ではない」と思っていても、少年少女の頃って知らぬうちに相手を傷つけるし、傷つけられているものなんである。
ましてやこの物語の人物たちほど酷くはないにせよ(本当はそんな比較はできないが)、自分の脛に傷を持つ人間としては、慙愧の念を呼び起こす内容であった。
そういう意味では、まさにタイトル通り、鑑賞者にもギフトをくれる作品です。それが恐ろしいかそうではないかは、鑑賞した人によって異なると思う。
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