悪の法則
人生楽しんじゃってる弁護士が、ちょっと欲をかいて麻薬ビジネスに関わって儲けようとしたら、とんでもない目に遭う話。キャストが豪華で、いろいろ考えさせてくれる内容だが全体的に説明不足過ぎて物足りないし、そんなに面白くない…。でもまた観たくなっちゃう変な作品。ネタバレあり。
―2013年公開 米 118分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「プロメテウス」のマイケル・ファスベンダー、「ある愛へと続く旅」のペネロペ・クルス、「007 スカイフォール」のハビエル・バルデム、「ワールド・ウォーZ」のブラッド・ピットらが顔を揃えた犯罪サスペンス。有能な弁護士が、出来心から危険な罠に飲み込まれてゆく姿を描く。監督は「プロメテウス」のリドリー・スコット。(KINENOTE)
あらすじ:すべての始まりは、若くてハンサムな弁護士が、ほんのちょっとの出来心から裏社会のビジネスに手を染めたことだった。美しいフィアンセとの輝かしい未来を夢見たその欲望は、周囲のセレブリティたちを否応なく危険に巻き込み、虚飾に満ちたその日常を揺るがしてゆく。しかし彼らは、まだ気づいていなかった。自分たちがこの世の闇に渦巻く“悪の法則”に魅入られ、逃れられない戦慄の罠に絡め取られてしまったことに……。(KINENOTE)
監督:リドリー・スコット
脚本:コーマック・マッカーシー
出演:マイケル・ファスベンダー/ペネロペ・クルス/キャメロン・ディアス/ハビエル・バルデム/ブラッド・ピット/ジョン・レグイザモ
ネタバレ感想
脚本コ―マックマッカーシー 監督リドリースコット
この映画、前から観たかったんで、レンタルで鑑賞。キャストが豪華だし、監督がリドリースコット、さらに、『ノーカントリー』の原作者であるコ―マックマッカーシーが脚本って割には、公開当時そんなに話題になってなかったような…。
ということは、そんなに評価されてる作品ではないんだろうなってことはわかりつつ、しかし、リドリースコットが描く犯罪者ものの作品は、『アメリカンギャングスタ―』とかけっこう面白いし、しかもコ―マックマッカーシー脚本ってことに期待して鑑賞したのだ。
で、結論から言うと、大して面白くなかったなぁ(笑)。作品に込められたものはなんとなくわかるような気がするのだが。
無慈悲なカルテル
単純に言えば、欲をかいて失敗しちゃう男の話だ。大した覚悟もなく悪の道に入ることの危険性がこれでもかってくらいに警告セリフとして出てきてて、主人公のカウンセラーはそれらをきちんと聞いてはいるものの、大して注意を向けてなくて、自分なら大丈夫だろう的な根拠のない自信でもって、悪の道に片足踏み込んでいっちゃって、踏み込んでみたらどうにも逃れようのない底なし沼にハマっていたことに、ラストで気付く。
ただそれだけの話なんだが、麻薬カルテルの慈悲のなさはものすごく伝わってくるし、その組織内の人間たちの、人を人扱いしない極悪ぶり、組織内の一部品(レグイザモが演じてたつなぎの男とか)として動くことにより、その組織の外で犠牲になっている人のことなんて微塵も感じていない想像力の欠如した人間たちの恐ろしさがしっかりと描かれてて、こんな奴らに近づいちゃったらロクなことにはならんーーってのがよくわかるのだ。
マルキナは純粋悪
そうした組織的な悪の恐ろしさだけではなく、個人としての悪人も描かれてて、その役を担ってるのが、キャメロンディアスが演じているマルキナである。この女性は純粋悪とでも言うような人間で、善悪の基準みたいのがない。己の欲望に忠実であり、それを満たすことのみが人生の目的であるような存在。
であるから、ライナー(ハビエルバルデム)が関わった麻薬取引のブツを強奪して自分が儲けちゃおうという作戦に出るのだ。こんなことしたら愛人のライナーがカルテルに消されちゃうのはほぼ確実のことなのに、それを平然とやってのけちゃう。
しかし、その奪った麻薬は最終的にカルテルに奪い返されちゃう。いずれにしても、カルテルの麻薬を一度は奪い取ってるので、マルキナもカルテルによって消されるべき標的だ。じゃあ逃げなきゃいけないわけだが、ここでまたぶっ飛んでるのが、彼女は取引の仲介人だったウェストリー(ブラッドピット)をぶっ殺してこいつの財産を奪っちゃうのだ。そんでもって余裕綽綽で香港に高飛びするのである。極悪すぎ。
この物語の登場人物はほぼすべて、彼女の無軌道ぶりに翻弄されている。それはカルテルも同じく。その純粋悪っぷりは見てて清々しいものがある。
説明不足過ぎ
でもなぁ、やっぱり面白くないんだよね、この映画。何でかって言うと、いろいろのことが説明不足過ぎるんだな。説明不足でも楽しめる作品ってのはいっぱいあるけども、これは説明不足によって話がわかりづらくなり、つまらないと評価されても仕方ないような感じになっちゃってる。
まず、カルテルはそれなりの組織力があるだろうことは何となく伝わってくるからいいんだけど、そいつに対抗するマルキナが動かしてた人間たちは、単に金で雇った人間なのか、彼女が何らかの組織に属してるのかとか、その背景がわからないところ。個人的には彼女は単独犯で、金に物を言わせて手足として動いてくれる人間を雇っているんだろうと思われるが、その辺はもう少しハッキリしといたほうが良かったような。
あと、カウンセラーはライナーを通じてウェストリーを紹介してもらう流れで麻薬ビジネスに絡み、利益を得ようとするんだけど、彼が何にどう絡んで利益を得ようとしたのかが、よくわからんのだ。
結果として、彼が弁護してる女囚の息子の釈放を手伝ってやったことが誤解を招き、ビジネスが失敗したことの責任を取らされる(もしこの偶然がなくても、マルキナによってビジネスそのものは失敗したただろうけど)ことになるのはいいとして、上述した部分は何らかの説明をしないと、展開が唐突すぎて話を理解するのに困っちゃうのである。
その辺の説明不足感が物語の興を削ぎまくってるってところが実に残念。とは言え、パリピ人間が軽はずみに悪に手を染めて転落していく様を見るのはザマーミロな感じで悪くない。
唯一の善人が理不尽に死んでいく
気の毒なのはカウンセラーのフィアンセを演じたペネロペクルスで、彼女がどうしてカウンセラーに惚れたのかようわからんのだが、彼女はそこそこな常識人だってのは、ダイヤの話をマルキナとする部分でよくわかる。金ではなく、相手の心を重視する人間だってのが伝わってくるからね。彼女はこの作品の中で、唯一と言っていいくらいまともな人だ。このマルキナとの対話シーンはとても短いものの、二人が非常に対照的な人間だということがうまく表現されてるなと感じた。
ただ、そんな彼女が何でカウンセラーのことを好きになれたのかってのが何とも謎。カウンセラーは過去の依頼人に偶然再会したときに難癖つけられてたことからも想像できるように、人間性が優れてるとは言えなそうな感じ。あと、自分が有能だと思い込んでるみたいだったが、そのせいで他人のマジ発言に聞く耳を持たず、身を滅ぼしていくような、ただのバカ。
そんで、このバカのせいでペネロペはスナッフフィルムの出演者となり、しかも首ちょんぱされたのちにゴミ集積処に捨てられちゃうとか、気の毒すぎだろ。
作品内の唯一の善人とでも言えそうな人が、理不尽な暴力にさらされて死んじゃう。実に恐ろしい話だ。不条理だ。この作品はそういうことを描いているのである。
悪は善では駆逐できない
そうやって考えるに、作品がわからせてくれるのは、悪は善では駆逐できないってことですな。この作品にほとんど善人は出てこない。登場人物たちは、いわゆる社会常識だの道徳や倫理感みたいなフィルターを通して観察すると、どうしようもない悪人ばかり。
でも、現実にもカウンセラーやライナーのように軽薄かつ欲にまみれた生活を楽しみ、その楽しみの陰で不幸になっている人間がいることに対して何とも思ってない奴ってのはいっぱいいる。そして、そういう人間は、そこそこの権力や財力を持っていることが多いため、その罪を糾弾したり、白日のもとにさらしたりするのが難しい存在なのだ。
それとは別に、マルキナのような人間には常識や道徳の話を持ち出して何かを悟そうとすること自体が無駄。「悪いことをしてはいけない」ということには実は何の根拠もないので、悪さをしてはいけないことは、社会契約上の話か、倫理的な話を持ち出すしかないのだが、純粋悪はその、善なるものの虚構性を知っているのだ、であるから、そんな論拠を持ち出しても、彼女のような人間は聞く耳を持たない。善悪の彼岸を生きているからだ。
ということで、面白くないとか抜かしておきながら、もちろんその感想は今でも変わらないものの、とりとめもなく記事を書いてきて、実はこの作品を再鑑賞したくなってきた自分がいる(笑)。と言う意味では、自分が期待したような何かを与えてくれる作品であって、面白いとは言えないが、個人的には良作だったと言えそうだ。次はもう少しロングバージョンらしい、特別編集版を見てみようかな。
善悪を超えた言葉を獲得するために、みんな人間であることを止めよう
善悪の基準とか、常識とか、それらをつくる言葉と、それによって成り立つ世界(社会)の不思議さについて。いくつかの記事
コメント