万引き家族
―2018年公開 日 120分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「三度目の殺人」の是枝裕和監督長編14作目。東京の下町で、犯罪で生計を立てている貧しい一家。ある日、父・治と息子・祥太は万引きの帰り道、凍えている幼い女の子を見つけ、連れて帰る。体じゅうの傷から境遇を察した妻・信代は、家族として受け入れる。出演は、「美しい星」のリリー・フランキー、「DESTINY鎌倉ものがたり」の安藤サクラ、「ちはやふる」シリーズの松岡茉優、「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の池松壮亮、「64ロクヨン」前後編の緒方直人、「ちょっと今から仕事やめてくる」の森口瑤子、「あゝ、荒野」前後篇の山田裕貴、「谷崎潤一郎原案/TANIZAKI TRIBUTE『富美子の足』」の片山萌美、「今夜、ロマンス劇場で」の柄本明、「彼女の人生は間違いじゃない」の高良健吾、「怒り」の池脇千鶴、「海よりもまだ深く」の樹木希林。第71回(2018年)カンヌ国際映画祭にてパルムドール受賞。2018年 第92回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位、読者選出日本映画第1位、読者選出日本映画監督賞受賞。(KINENOTE)
あらすじ:再開発が進む東京の下町のなか、ポツンと残された古い住宅街に暮らす一家。日雇い労働者の父・治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は、生活のために“親子”ならではの連係プレーで万引きに励んでいた。その帰り、団地の廊下で凍えている幼い女の子を見つける。思わず家に連れて帰ってきた治に、妻・信代(安藤サクラ)は腹を立てるが、ゆり(佐々木みゆ)の体が傷だらけなことから境遇を察し、面倒を見ることにする。祖母・初枝(樹木希林)の年金を頼りに暮らす一家は、JK見学店でバイトをしている信代の妹・亜紀(松岡茉優)、新しい家族のゆりも加わり、貧しいながらも幸せに暮らしていたが……。(KINENOTE)
監督・脚本:是枝裕和
出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/緒形直人/森口瑤子/柄本明/高良健吾/池脇千鶴/樹木希林
ネタバレ感想
これはすごい
これはすごい。面白い。ほとんど突っ込みどころもなく最後まで楽しめる良作。しかも描かれるテーマは結構深刻だし悲惨な部分もかなりあるのに、ところどころのユーモアある描写によって、作品全体に暗さがないのである。ラスト以外は。
てなことで、いろんな賞を受賞して、たくさんの人が評価しているので、今さら俺がどうこう言うような作品でもないんだが、感想は残す。
群れて生きざるを得ない人間の悲しみと喜び
是枝監督の作品は『誰も知らない』以外では、『海街ダイアリー』、『そして父になる』『海よりもまだ深く』『三度目の殺人』と本作を鑑賞済み。俺は『海よりもまだ深く』が一番好きで、それは今も変わらないが、内容が優れているのは断然こっちだ。すごい。
どんな幸せに生きてる家族だろうが、そうでない家族だろうが、群れて生きざるを得ない個人の悲しみを描いていて、それらが群れることの素晴らしさ訴えていて、もう悲しくも切なくもただ、生きることを肯定的に捉えているからこそ糞まみれな家族のしがらみと血の繋がりの儚さを表現していて、本当にすごいとしか言いようがない。
ここに人の営みの全てが描かれているわけではないのに、俺の人生の中の何かを代弁してくれているような感すらある、やっぱりすごくて素晴らしい話。
役者陣の演技がよい
役者の演技がみんな上手。これってすごいよね。日本語がわかる分、邦画のセリフ回しとかに対しては厳しめに見ちゃうけど、この作品には違和感を感じたり、わざとらしく感じるセリフがほとんどなかった。特に安藤サクラと子ども2名がよかったなぁ。
安藤サクラはすべて良いんだけども、とくに、最後のほうで尋問受けるシーンで泣くじゃないですか。あの泣き方がいい。セリフも全てよい。すごい。さすが。
子ども二人もすごい。まず、是枝監督は子どもの役者を使うのが上手らしいけど、その中でも本作の2名はすごい。『誰も知らない』の柳楽優弥もすごかったけど、この2名も非常によかった。容姿が可愛いのもポイントが高い。
可愛いと言えば、松岡茉優を初めて可愛いと思った。と言っても、彼女の出演作は他に『勝手にふるえてろ』しか鑑賞したことないんだけども、ともかく、今作の彼女は可愛い。
食事シーンがよい
他によかったのは、飯を食うシーンだ。飯を食うシーンがおいしそうな映画は、大体いい映画だ。この作品で登場人物たちが食ってるのは、カップラーメンだのソーメンだの安物ばっかりなんだけど、実においしそう。そう見える。だからいい映画だ(笑)。
家族って何なんだろう
にしても、家族って何なんだろうか。この作品の登場人物たちほど、家族らしい集団はないと思わせる力がある。要は、絆があるように感じるのだ。それぞれが自己本位な思いがあって、自分の生活を守りたいがために疑似的な家族として関係を続けている。その疑似的な関係は、社会的なルールから外れた部分で成り立たっているので、いったんその営みが明るみになってしまうと、崩壊の恐れすらある。そして、物語中ではその崩壊が起こってしまう。そして、あるものは警察に捕まり、罪に問われることになる。
しかし、多くの鑑賞者たちは、社会から逸脱していたこの疑似的家族たちのほうに、肩入れしてしまうのではないか。常識的なことを言う、例えば警察側のほうに反発を覚えるのではないか。一方で、この疑似的家族の事情を知らなければ、例えばテレビのニュースに流される事件として観た場合、多くの人間は、警察の側から物事を判断し、この疑似家族を非難するだろう。それが、社会の言説だ。常識的な言説なのだ。
この映画の優れているのは、常識的な言説の一方的なものの見方の歪さをわからせてくれるところにある。自分の常識が非常識であるかもしれないと、鑑賞者たちに気付かせる力がある。
そして、家族であるということは、やはり血のつながりがすべてではないのではないかと思わせる。共に生き、さまざまな物事を共に体験し、共有した記憶が、家族としての絆を深めるのではないか。しかし、一人ひとりは個人としての人間なので、そこに必ず自分本位な部分がある。
だからこそ、この物語で子どもたちの親役を果たしている義父母たちは、ときおりそうした表情を垣間見せる。特に義父のほうはそうだ。しかし彼も、義理の息子を愛しているのだ。だからこそ、彼との絆を振り切り、施設できちんと生きていくことを決めた息子の姿がとても素晴らしい。彼はあの幼さで、大人になったのである。
それは娘のほうもそうだ。彼女の現状が映るラストはとても悲惨で、彼女のその後の人生の暗さを心配させるものだが、彼女はある一時期愛情を受けて育った思い出により、強く生きている意志を持っているように見えた。彼女も大人になったのである。ただ、あの環境で生きるには過酷だが。
すごい、すごい。と語彙の少ないバカみたいな感想だが、すごいもんはすごい。是枝監督の映画って大体が家族ってもんをテーマにしてると思う。この作品は、その集大成みたいになっているんだろうね。だからこそ、完成度がものすごいわけで、じゃあ次はどうするのかってとこに期待したい。これを超える家族をテーマにした作品に取り組むのか、それとも全く別のテーマにするのか。どっちだろうね。
善悪を超えた言葉を獲得するために、みんな人間であることをやめよう。
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