ニュー・ジャック・シティ
―1991年公開 米 100分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:暴力とドラッグに支配された街の荒廃を生々しく描き、全米で社会的現象にまでなった作品。製作はダグ・マクヘンリーとジョージ・ジャクソン、監督は「ハイスクール・コップ」(89・ビデオ)のマリオ・ヴァン・ピーブルズ、トーマス・リー・ライトがライトの原案を基に、バリー・マイケル・クーパーと共同で脚本を執筆、撮影をフランシス・ケニー、音楽をミシェル・コロンビエが担当。出演はウェズリー・スナイプス、アイス・Tほか。(KINENOTE)
あらすじ:ニュー・ジャック・シテイはドラッグを足がかりに裸一貫のし上がった若きドン、ニーノ・ブラウン(ウェズリー・スナイプス)によって牛耳られていた。そんなニーノを倒そうと執念を燃やす黒人捜査官、スコッディ・アップルトン(アイス・T)と白人警官、ニック・ベレッティ(ジャド・ネルソン)。スコッティは母親を麻薬患者に殺され、ニックは自らが元中毒者という経歴をもっていた。ある日、スコッティのスパイとなって潜入していたプーキー(クリス・ロック)が殺されたことを契機に、スコッティは自らおとりとなってニーノのふところに飛び込むことを決意する。そして、組織の内部ではニーノの幼なじみであるジー・マネー(アレン・ペイン)が反旗を翻し、抗争が始まった。スコッティは正体を知られ、追いつめられるが、逆に反撃に出てニーノを撃とうとする。しかし同僚のストーン刑事(マリオ・ヴァン・ピープルズ)に止められ、ニーノは逮捕、裁判になる。量刑は思いがけず軽かった。しかし裁判所を出たところでニーノは見知らぬ男に撃たれ、息絶えるのだった。(KINNOTE)
監督:マリオ・ヴァン・ピーブルズ
出演:ウェズリー・スナイプス/アイス・T
ネタバレ感想
昔からずっと観たくて放置してたのを、レンタルで鑑賞。ウェズリー・スナイプスもアイス・Tも若い。いつも困った顔をしてるように見えるウェズリーはこの後、ウディハレルソンと共演したストリートバスケの作品『ハードプレイ』とかに出て、それ以降は『デモリションマン』などアクション作品に出るようになって、『ブレイド』シリーズで人気爆発して、その後、困ったことに消えてった印象。一応、『エクスペンダブルズ3』で復活するけど。
てなことで、若き日のウェズリーが仲間を引き込んでクラックで大金を稼ぎ、ニュージャックシティ(黒人のスラングでニューヨークのことらしい)を牛耳る組織に成り上がっていきつつ、その王国が崩壊していく様を描いた本作は、フィクションでありながらアクション部分以外ではかなり当時のリアルなニューヨークの一面を切り取っている作品だと思われる。現在のニューヨークの治安はよくなったかというと、よく知らんけども、さらなに悪くなってるのかもしらん。少なくとも、さほど良くはなってないだろう。
この映画の冒頭で、アメリカの都市の現実がナレーションされるが、むしろ日本の都市のことを言っているように感じてしまうのは、日本もそれだけアメリカ的な格差社会が現実のものとなってきたことを示している。
で、肝心な本作の内容に触れると、ウェズリー扮するニーノはクラックを精製して売り捌くためのシマを手に入れ、それを組織化して運営するアイデアマンではあったものの、仲間を手下扱いし、自分が王として君臨し始めて好き放題したことに組織崩壊の原因があったと思われる。彼がスタート当時と同じく、仲間を友だちとして扱って自分も一緒に現場で汗をかくようにしていたら、少なくともあと数年は何とかなったんだろうなと思わせる。
という意味では彼のパーソナリティに問題があるわけで、イタリアンマフィアの扱いなども、あんな付き合いしてたら平穏にすませられるものもそうはならないのが当たり前で、その辺の思慮の足りなさが結局はチンピラから抜け出せない器の狭い悪党ってことだろう。ニーノはブライアン・デ・パルマ監督の名作、『スカーフェイス』が好きなようで、それを鑑賞しながら「世界は俺のもの」という同作のセリフに言及するシーンがある。
『スカーフェイス』は当時の黒人ギャングたちに大きな影響を与えたらしく、あのニーノの描写はまさにそれだ。しかし、『スカーフェイス』の主人公は自身も麻薬におぼれ、一代で組織を崩壊させてまうわけで、見習うとしたら反面教師的なそれであり、アメリカンドリーム的なほうに目が行ってしまうのはなぜなのか。
それは、それだけ作品内の黒人たちの生活環境が劣悪であり、そこから逃れられない社会格差があるからなんであるが、最後にニーノを銃殺した男は、そうした劣悪な環境の中でも誠実に生きてきた男なのであり、その彼がニーノを殺したというのは、かなりの皮肉であるなぁと思わせる。
いっぽう、アイスTの演じた猪突猛進暴力刑事のスコッディとその上司たちが進めたニーノの組織の壊滅作戦は、非常にお粗末なもんだ。そもそもスコッディはニュージャックシティの育ちなんだから、彼が組織に潜入すること自体に無理があると思う(その辺は不問にされてるけど)。
刑事として街を取り締まっているわけだから、逮捕したチンピラとかに顔は知られてるだろうし、恨みも買ってるだろうから、あの街で身分がバレないほうが不自然で、むしろ物語内でのバレの遅さのほうが目についてまう。
で、お粗末な作戦は、ほぼほぼ裏目に出ていて、けっきょくは力業の銃撃戦に持ち込まれるわけで、そもそも突入作戦前提で、無理やり証拠を入手する脳筋暴力路線でよかったんではないかと思わなくもない(笑)。
まぁしかし、この映画はアクション要素とか、組織潜入のサスペンスさを描くというよりは、当時のクラックブームの恐ろしさや黒人の生活環境の劣悪さなどを描写したかったんだろうから、あの内容でいいんだろうけど。
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