首(2023)
北野武が自身の書いた小説を原作に映画化した時代劇。天下を狙う武将たちの立ち振る舞いを群像劇的に描いていて、一癖も二癖もある男たちの権謀術数を駆使したジタバタ劇がなかなか面白い。中でも信長を演じた加瀬亮がよかったなぁ。ネタバレあり。
―2023年公開 日 131分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:北野武が原作・監督・脚本・編集・出演を務め、本能寺の変を独自の歴史観で描いた時代劇。信長が天下統一を掲げ、毛利軍、武田軍、上杉軍などと戦っていた最中、家臣の荒木村重が反乱を起こし、姿を消す。信長は秀吉、光秀ら家臣に村重の捜索を命じるが……。出演は、「ドライブ・マイ・カー」の西島秀俊、「MINAMATA-ミナマタ-」の加瀬亮、「怪物」の中村獅童。第76回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア部門出品。(KINENOTE)
あらすじ:織田信長(加瀬亮)は天下統一を掲げ、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを続けていた。その最中、信長の家臣・荒木村重(遠藤憲一)が反乱を起こし、姿を消す。信長は自身の跡目相続を餌に、羽柴秀吉(ビートたけし)、明智光秀(西島秀俊)ら家臣に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長(大森南朋)、軍司・黒田官兵衛(浅野忠信)の策で村重を捕らえ、光秀に引き渡すが、光秀は村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向けるが、それはすべて仕組まれた罠だった……。(KINENOTE)
監督・脚本:北野武
原作:北野武:(「首」KADOKAWA 刊)
出演:ビートたけし/西島秀俊/加瀬亮/中村獅童/木村祐一/遠藤憲一/勝村政信/寺島進/桐谷健太/浅野忠信/大森南朋/六平直政/大竹まこと/津田寛治/荒川良々/寛一郎/副島淳/小林薫/岸部一徳
ネタバレ感想
6年ぶりの北野武監督作。実はそんなに期待してなかったんだけど、予想以上に楽しめた。
なんで期待してなかったかというと、武が主演する彼の監督作の場合、彼のキャラとか演技に面白みを感じることが多かったのんだが、さすがに歳をとって滑舌が悪くなってきてるので、近年は彼が演じることに無理があるような気がしちゃうようになってたから。
『アウトレイジ』も好きなんだけど、その辺がちょっとマイナスポイントだったからね。彼が主人公だから楽しかったという部分も大きいんだが。
でまぁ、今作の武もそういう意味では予想通りな感じだったんだけど、今回は彼が演じる秀吉の動きが中心でありながら、これまでの彼の主演・監督作の中では他の役者たちの動きも詳細に描かれてる感じがあって、例えば織田信長とか明智光秀と抜け忍とかその他大勢のジタバタ劇がけっこう楽しいのである。
特に、加瀬亮が演じた織田信長のムチャクチャぶりがマジでいい。あんな理不尽かつ傍若無人なボスがいたら絶対に下について働くのなんて嫌なんだけど、その嫌な奴ぶりがいいのである。しかも、その裏で垣間見える彼の虚無的な心のありようが表現されているところが、さらにいい。
特にそれが顕著なのは、信長が能を観ているシーン。彼はそこで「どいつもこいつも皆殺しにして、その後に自分の首を刎ねたい」みたいなセリフを述べる。
あの能を観ている彼の目の奥に、善悪を超えた場所で生きる異形の存在が、現世に生きていることの虚無感みたいのが映し出されているように見えて、すごく印象的でいいシーンだなと思った。
で、さっきも言ったようにそれぞれの人物の繰り広げる群像劇もけっこう濃くて、どいつもこいつもどうしようもない人間ばっかりで、そういう意味では『アウトレイジ』と同じように、全員悪人っぽさが出ている。
『アウトレイジ』では上の命令に忠実に生きたがうえに貧乏くじばかり引くことになる、武が演じた主人公の大友が、周囲に翻弄されながらも物語が展開していく感じだった。
つまり彼が中心にすべてが動いているように見えたんだけども、今作は武が演じる秀吉が中心に見えながらも、他の人物たちのジタバタも色濃く見えて、そこがやっぱりいいのである。あの群像劇が終わりに向かっていくのがもったいないと思うくらいであった。
初期の作品とだいぶ作風が変わってきている北野監督。北野ブルーと呼ばれた頃の作品は当然素晴らしいものばかりだが、こういう娯楽作品の中であらたな面白味を与えてくれるのも、さすがというべきか、今後も期待したいし、今作の続きもやろうと思えばできるだろうから、新解釈の時代劇をつくり続けてもらうのもいいなぁと感じた。
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