キッズ・リターン
―1996年公開 日 108分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:高校生悪ガキコンビの挑戦と挫折を描いた青春映画。監督・脚本は「みんな~やってるか!」の北野武。撮影をやはり「みんな~やってるか!」の柳島克己が担当している。音楽監督は今作で映画音楽に復帰した「ソナチネ」の久石譲。主演は、本作でデビューし、キネマ旬報新人男優賞をはじめ各映画賞で新人賞を総ナメにした安藤政信と、「ファザーファッカー」の金子賢。この若手ふたりを「迅雷 組長の身代金」の石橋凌、「ありがとう(1996)」の森本レオ、「男はつらいよ 寅次郎紅の花」の下絛正巳らベテランが脇で支えている。カンヌ国際映画祭監督週間正式出品作品。96年度キネマ旬報ベストテン第2位、同・読者選出ベストテン第2位。(KINENOTE)
あらすじ:高校時代の同級生だったシンジとマサルは、ある日、偶然再会し、バカなことばかりにエネルギーを費やしていた昔のことを想い返した。18歳の秋、シンジとマサルはいつもつるんで行動し、学校をサボってはやりたいことだけを楽しむ毎日を送っていた。ある夜、ヤクザに絡まれたシンジとマサルは、それを咎めた組長の迫力に素直に感動を覚える。そんなころ、以前にカツアゲした高校生が助っ人に呼んだボクサーにのされてしまったマサルは、自尊心をひどく傷つけられ、自分もボクシングを始めるのだった。酒もタバコもすっぱりやめたマサルは、毎日ジムに通って練習に励んだ。そんなマサルに連れられてジムを訪れたシンジも、なりゆきからジムに入門することになった。ところが、遊び半分の初めてのスパーリングで、マサルに鮮やかなカウンターを浴びせたシンジは、筋の良さをジムの会長に認められ、本格的にプロを目指すことになる。面白くないマサルはジムをやめ、あの時出会った組長のもと、ヤクザの世界に足を踏み入れてしまった。マサルは学校にも来なくなり、シンジは気まずい思いを抱いたまま、互いに顔を合わせることもなくなって、それぞれの日々が過ぎていった。高校を卒業したシンジは、いよいよプロボクサーとしてデビューし、着実にその才能を伸ばしていた。マサルは組のいざこざを利用して、今では子分をかかえてシマを任されるまでにのし上がっている。ある日、マサルがシンジを訪ねてジムにやってきた。ふたりは、お互いにそれぞれの世界でトップに立った時にまた会おうと約束する。しかし、敵対する組のヒットマンに組長を撃たれたマサルは、組同士の利害を考えて事を荒立てようとしない親分に楯突いて、厳しい制裁を受けた。シンジは先輩ボクサーのハヤシに悪習を吹き込まれて体調を乱し、大事な試合に惨敗する。ともに苦い挫折を迎えたふたりは、それぞれの世界から身を引くのだった。シンジとマサルは久しぶりに高校を訪れ、自転車にふたり乗りしながらグランドを走っていた。「俺たちもう終わっちゃったのかなあ」と尋ねるシンジに、マサルは「バカヤロウ、まだ、始まっちゃいねえよ」と答える。(KINENOTE)
監督・脚本:北野武
出演:安藤政信/金子賢/石橋凌/森本レオ/寺島進/モロ師岡/大杉漣/芦川誠/平泉成/津田寛治/宮藤官九郎
ネタバレ感想
この作品は何度観ても面白いし、観るたびにいろいろな感想が湧き出てくる優れた内容だ。主役の二人以外の人生も簡潔に描かれていて、彼らのエピソードにもいろいろ思わせる部分があって、ともかく奥行きがあるのだ。こういう奴いたよなぁとか、こういう大人っているよねーーみたいに、それぞれのキャラにリアリティがあって、単にシンジとマサルの青春物語ってところにとどまっていないのだ。
久石譲の音楽も素晴らしいし、ともかく全部がすごい。数ある北野作品の中でも、万人受けしそうな内容で、しかし北野色はまったく失われていない超良作なんである。てなことで、この作品の登場人物たちは大きく二つに分かれる。
一つは、自ら行動を起こすタイプだ。ボクシングを始めたり、それに挫折してヤクザになったりするマサルはこちらに入る。ただし、彼は感情的に動くし他者に対する想像力が薄いせいか、うまいこと人生を上昇させることができない。
プロボクサーの林もこちらの人間だ。彼は自ら行動し、その判断の中で不摂生なボクサーとして生活をしている。たぶん、もともとはけっこう才能のあった人なんだろうけど、ああやって潰れていく選手はたくさんいるんだろうねぇ。この人がよくないのは、後輩であるシンジにも自分と同様の道を歩ませようとするところ。ああいう部分に、この男の孤独さが表れているが、性格の悪さも出てて、こういう奴っているよなぁと思わせるのである。
あとは、お笑い芸人を目指している二人もこちらに入る。この作品では彼らの人生が最も希望があるように見える。彼らはひたむきに好きなことを続けていた人たちだ。周りに流されることなく愚直に続けていた人たちなのである。これは監督が芸人出身ということもあるかもしらんが、ある意味では教訓的な解釈ができる登場人物たちである。
一方、もう一つのタイプは周りに流される人たち。主体性の薄い登場人物たちだ。シンジはこちらに入る。ボクシングを始めたのはマサルの影響だし、やってみたらけっこう面白かったけど、林にそそのかされて不摂生を始めるし、トレーナーたちに反則技を教わっても、何の抵抗もなくそれをつかおうとする。要するに、ボクシングに対して向き合う態度がひたむきではない。ただやっているだけ。その割にセンスがあるのでそこそこ強くなっちゃうけど、けっきょくは大成できない。ただ、演じている安藤政信の動きはキレキレで、かっこいい。本物のボクサーみたいだ。対する金子賢の動きはそうでもない(笑)。仮にあれが、演技でへたくそに見せているならすごいことだけど。
この作品で描かれるボクサーたちの裏幕は、実際に当時のジム経営はそうだったんだろうなぁと思わせる感じがある。もしかしたら、貧乏ジムは今でもこんな感じなのかも。どんな感じかというと、反則教えてでも勝たせようとするとことか。パトロン(スポンサー)にいい顔しなきゃいけないとことか(これは今でもそうなんだろうけど)。
主体性の薄い人たちと言えば、あとは会社員を経てタクシー運転手になる彼。彼は女性に対しては積極的で、きちんと相手をゲットできている。そこはすごい。けど、それ以外に人生の目的がないので、仕事に関しては流されるだけなのだ。だから、ブラック企業だった最初の会社を同僚に誘われて辞める。そしてタクシー運転手になるんだけども、事故ってまうわけだ。なんとも悲惨だけども、何らかの目的とか目標がなく生きることの辛さとかを示しているような気がして、なかなか身につまされるエピソードであり、彼のキャラクターなのである。
てなことで、本作はいろいろな要素が込められている青春映画で、しかし青春映画という括りには収まらないほどに奥行きのある、素晴らしい作品なのである。
ちなみに、北野監督によるものではない続編に『キッズリターン 再会の時』てのがある。これがまぁ、普通すぎちゃって、倉科カナが可愛いかったなぁというくらいの印象しか残ってない作品だ。シンジとマサルもむしろ若返っちゃってるような役者さんが演じてて、そこもなんか、もったいなかったなぁ。
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