ナワリヌイ
打倒プーチン政権を掲げるロシアの政治活動家のナワリヌイが毒殺されそうになったが一命をとりとめる。誰の手によって自身の命が危険にさらされたのかを調べていくと、そこには政府の陰がーー。ロシアという国の暗部を暴くために秘密裏に撮影されたドキュメンタリー。この記事の冒頭はぜんぜん関係のない話をしてるので、そこは目次を使って読み飛ばしたほうがいいです。ネタバレあり。
―2022年公開 米 98分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:ロシアの弁護士で政治活動家でもあるアレクセイ・ナワリヌイの毒殺未遂事件に迫るドキュメンタリー。2020年8月、ナワリヌイが飛行機の中で突如瀕死の状態に陥った。奇跡的に一命を取り留めるが、毒物“ノビチョク”が彼の飲み物に混入されていたことが判明する。監督は「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」のダニエル・ロアー。事件の直後からナワリヌイや家族、調査チームに密着し、本作を極秘裏に製作した。(KINENOTE)
あらすじ:2020年8月、シベリアからモスクワへ向かう飛行機が緊急着陸。乗客の1人、プーチン政権への痛烈な批判で“反体制のカリスマ”として支持を集めるロシア人政治活動家のアレクセイ・ナワリヌイが突然瀕死の状態に陥ったのだ。当初彼はシベリアの病院に搬送されるが、その後ベルリンの病院に運ばれ奇跡的に一命を取り留める。だが、ナワリヌイの飲み物に毒物“ノビチョク”が混入された毒殺未遂事件であったことが発覚。様々な憶測が飛び交うなか、プーチン大統領は即座に一切の関与を否定する。ナワリヌイは自身の命を狙う者の正体を暴くべく、自ら調査チームを結成。事件の影に潜む勢力を、信じられない手法を用いて暴いてゆく……。(KINENOTE)
監督:ダニエル・ロアー
出演:アレクセイ・ナワリヌイ/ユリヤ・ナワリヌイ/マリア・ペヴチク/クリスト・グローゼフ/レオニード・ボルコフ
ネタバレ感想
本編とは関係のない余談
レンタルで鑑賞。最近は社会や国家や組織の暗部を暴くようなドキュメンタリー映画やノンフィクション系の書籍を好むようになってきたなぁと思う。若い頃の自分からは想像もつかんことだ。
それだけ自分がオッサンになったってことだろう。しかし、なんでオッサンになってそういうものを好むようになったんだろうか。
そこで考えてみた。俺は、このくだらない俗世間および社会にまみれて金を稼ぎ、日々を生きるのに時間を費やしているようなボンクラ人間である。何かの野心も野望もあるわけでもなく、ただ必死こいて生にしがみついているだけとも言える。
本当は社会にコミットするようなことに奔走するバカバカしい人生からはできる限り降りて、自分のやりたいように、面白おかしく生きていたいと思っている。それがこのブログを始めた当初のテーマだったなぁと、今になって思い出したが、そんなのはどうでもいい話だ。
いずれにしても、そうやって日々を暮らしていると、どうしても自分が今の社会の中でどのような立場に置かれていて、現在にどんな不満があって、将来にどんな不安があるのかについて把握する必要があるし、そのうえでなるべく安心して生きるためにはどんなことをするべきなのかーーなどとけっこう考えるようになってしまうのだ。
こんなもん、若い頃に勉強をちゃんとして、主体性をもって生きていられるように成長をした人であるならば、年を取ってから考える必要なんてないことなんだろうけども、俺は20代後半までニートなどをして適当な生活をしていたもんだから、上述したような主体性を持った人間とやらになれたような気がしたのが30代目前の頃だった(と自分で思っているだけで、本当にそうなれてるかは怪しい)のである。
で、それがドキュメンタリーを好むこととどうつながるかというと、自分がどうでもいいと思っている社会の中で今(過去でもいい)何が起きているのか、しかもその光の部分よりも闇の部分を知っていたほうが、自分が生きる指標を立てるうえで、役立つように思うのである。
もちろん、ドキュメンタリーが社会のすべてのリアルを伝えているなんてことは思ってなくて、創られたもんである以上、フィクション的であらざるを得ないし、一面的なものの見方を提示している可能性があるってことも承知のうえ。
ラストの呼びかけで感じたこと
ということで本作のお話。ロシアの政治活動家、ナワリヌイ氏の話題というのは、おそらくニュースなどで耳にしたことがあるんだろうけども、もちろんその詳細のことなんて知らなくて、本作によってその活動の一端を知ることとなった。
彼はプーチン政権の打倒を随分前から掲げてきて、どうやら、きちんとした民主主義的政治の行われる国家の樹立を目指して大統領になることを目指しているらしい。
で、そのために必要なのがプーチンから現政権を奪うことなので、横のつながりの中で、自分の政治的信条とは異なるナチスのような思想の持ち主たちともコミュニケーションを取っているみたい。なぜなら、「政権と戦うために連携を広げている」からだ。
ということはこの人、この作品を観る限りにおいては、打倒プーチンが第一の目的で、自分が民主主義国家の大統領になることは二の次なんじゃないかなと思えてくる。本作の彼はラストに「悪人が勝つのは、善人が何もしないからだ。諦めるな」「権力を恐れることはない」などと呼び掛けている。
いろいろあって2023年3月現在、彼は獄中にいるわけだが、やっぱり、自分が大統領になって政治をすることよりも、まずは今のロシアをどうにかしたいのであって、死や投獄も恐れずに行動する自分と、その家族や仲間たちの姿を見せることで民衆を鼓舞することに命を懸けているんだろうなぁと思わされた。
なんでかというのに、そもそも今のロシアは権威主義的な政治が続いているわけで、これを何とかしなければ、民主主義的政治も糞もないからであるーーというのが本編を見ての彼の言動に対する感想。
スリリングかつユーモラス
で、このドキュメンタリーが作品として優れているのは、彼や家族や仲間たちの人間性に助けられている部分もあるのだが、ユーモアも感じて楽しめるのである。
さらに、毒殺事件の実行者らにナワリヌイ本人が電凸するくだりなどは、非常にスリリングでありつつ、毒殺のために毒を仕込んだのがパンツの内側だったと判明するあたりや、ナワリヌイの策略にひっかかってベラベラと秘密を喋ってしまうFSBの化学者のシーンなんかはバカバカしくもあって、フィクションなんじゃないかと思っちゃう。
この作品ではナワリヌイ氏がムショ送りになるまでが描かれていて、それからすこし経つと、現在も続くロシアとウクライナの戦争が始まるのだ。この戦争がどうして起るにいたったかは方々で識者たちが話しているが、どうやらこの両国の成り立ちから遡らないとわからないことばかり。そうした過去のいろいろの歴史的背景があって、今の戦争に至るのだ。そんなの当たり前のことなんだけど。
だがしかし、そうした各国の歴史的背景を知らないと今起こっている戦争が何なのか理解できないってのは、島国の日本人にしてみるとありそうな話であって、実際に俺はその中の一人である。地続きで国境を接している国々で起る紛争やら戦争ってのは、やっぱりそこに至る歴史的背景を知る必要があるのであって、逆に言えば、日本のほうが特殊なあり方をしてて、わかりやすいと言えばわかりやすいとも言える。
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