ミセス・ノイズィ
―2019年製作 日 106分―
あらすじ・スタッフとキャスト
あらすじ:小説家であり、母親でもある主人公・吉岡真紀(36)。スランプ中の彼女の前に、ある日突如立ちはだかったのは、隣の住人・若田美和子(52)による、けたたましい騒音、そして嫌がらせの数々だった。それは日に日に激しくなり、真紀のストレスは溜まる一方。執筆は一向に進まず、おかげで家族ともギクシャクし、心の平穏を奪われていく。そんな日々が続く中、真紀は、美和子を小説のネタに書くことで反撃に出る。だがそれが予想外の事態を巻き起こしてしまう。2人のケンカは日増しに激しくなり、家族や世間を巻き込んでいき、やがてマスコミを騒がす大騒動へと発展……。果たして、この不条理なバトルに決着はつくのかーー?!(Filmarks)
監督:天野千尋
出演:篠原ゆき子(篠原友希子)/大高洋子/新津ちせ/長尾卓磨/宮崎太一/米本来輝/洞口依子/和田雅成/田中要次/風祭ゆき
ネタバレ感想
小説家VS騒動おばさん
ネットフリックスで見つけて鑑賞。全然存在知らなかったけど、何となく気になったので観てみた。
題材になっている騒音おばさんって、ずいぶん昔にワイドショーで取り上げられてた人がモデルなんだろうか。あの当時は世間に拡散するメディアで大きなパワーがあったのは主にテレビで、それは今でも変わらんかもだが、これに加えてSNSやら動画配信やら、インターネットメディアが当時よりも影響力を持った現代において、騒音おばさん的な人間とその隣人が巻き起こす騒動の顛末を物語にしたような印象。
でまぁ、その中に今のあらゆるメディアに対する風刺というか批判めいた内容を、コミカルに描いているように感じた。
真紀はけっこうクズ人間
そもそもこの騒動の発端は主人公の小説家=真紀が、子育てと仕事の両立に苦労してて、旦那はそれなりに協力的ではあるものの、そうでもないように見えて、小説は売れなくなってて、仕事に行き詰っているので、真紀は焦燥感に駆られている。
その中で、隣のおばさん=美和子とイザコザが始まるのだが、その原因ってのが、実はこの小説家が「自分のことしか見えていない」ことによるものなのだ。
これは終盤のほうで小説家自身が旦那からそのように言われるセリフなんだが、観てる人からも、そういうセリフがなくてもこの小説家がそういうことをしちゃっているのがわかるように描写がされている。
それはどのようにかというに、真紀の視点で最初は物語が始まるのだが、途中から、美和子側の視点でも物語が描かれるのである。これにより、真紀は美和子の言い分に聞く耳を持たず、自分の主観的判断でのみ美和子を断罪していることがわかるのである。
真紀は美和子を変人と決めつけていて、それを前提とした対応しかしない。で、そんなことをされたら、美和子だって、この隣人は変な奴だと思うのは当たり前で、両方が自分を正しいと思っているので、争いがエスカレートしていくのである。
という意味では、この映画は鑑賞者に対しても、自分可愛さに他人をうがった視点で観ていないかーーということを突き付けているのであろう。にしても、この真紀って女、けっこうなクズ人間だよな。やることなすこと、小説家の癖に、想像力なさすぎだろ。
キャバ嬢が一番まともに見える
で、この騒動が広がりを見せていくのは、真紀の親戚のふざけた小僧の行為によるもので、こいつがキャバ嬢の気を引くためと、楽して稼ぎたいという目論見によって、真紀と美和子の騒動を動画にあげるなどして、騒ぎが世間の耳目を集めるように仕向けていくのだ。
とはいっても、「うまく行けばいいな~」みたいな軽い気持ちで始めたのが、運よく時流にのったような感じであって、この小僧に素晴らしい能力があるわけではなく、薄っぺらい奴であるように見せるのも、作り手側のキャラ設定や演出なんだろう。
実は、この物語で最もまともなこと言ってる人間に見えちゃうのが、こいつが入れ込んでるキャバ嬢だってところが笑える。
しかしまぁ、観ているうちにこの二人の諍いがワイドショー的騒ぎになっていく光景は、とても嫌な気分になってくるし、実際に胸糞が悪い。自分も含めた人間の糞さ加減があらわになっているからだ。
戦争やら犯罪やら何やらの作品で人間の負の部分をえぐりだして開陳しなくても、日常の中に人間の糞さってのはいくらでも現れてくるもんである。
てなことで、ラストまで観ていくに、美和子はけっこうまともで、自分の思う正しさによって、芯のある生き方をしていることがわかる。しかし、そういう人であっても、何かのきっかけと誤解によって、このような不幸に見舞われるようになってまうのだ。
旦那は働いているようには見えないので、よくあの団地に住んで、食い扶持も稼げているなと思わなくもないが、その辺も含めて、真紀と旦那のほうが家庭崩壊の前兆を見せてたりするので、何とも皮肉なものである。
ラストの展開がヌルい
この物語のあまり良くないな、と思うのは、ラストの展開にあると個人的には思う。というのは、真紀は何だかんだ言って、隣の家の旦那が自殺未遂をするようなきっかけをつくり、隣人夫婦の行為を色物扱いして見る世間の目を消すことには成功していないからだ。だって、ネット上には動画が残り続けるわけだからね。
にもかかわらず、真紀は単なるワイドショーネタ的に書いていた騒動おばさんの作品を、おそらく物語として深みのある何かを挿入することで文学的価値の高い作品に仕上げて、小説家として再起を果たし、しかも家族の絆を再生して幸せになっちゃってるからね。
一方の美和子はその真紀の小説に笑ったり涙したりして楽しんでいるような描写があったけど、それは終わり方としてヌルすぎるんではないか。美和子のほうは何にも生活変わってない。しかも、ネット上に負の遺産は残り続けるわけだから。
そういうものがリセットされたような状態になって、ハッピーエンドにまとめちゃってるところは、個人的にはちょっと納得がいかない。
まぁでも、一回くらい観るには短くまとまってるし、楽しめるのではないか。
コメント