悪魔は誰だ
邦題のまんま、悪魔は誰なのかという話。誰なんだろうね? 全員かなぁ。たぶんそう思うよ。善悪の彼岸を想起させる良作だと思います。ネタバレあり。
―2014年公開 韓 120分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:幼女誘拐事件の犯人逮捕を願う被害者の母親と事件を追う刑事、巧妙に姿をくらませる犯人の攻防を描くサスペンス。主演は“韓国歌謡界の女王”として君臨、「私のちいさなピアニスト」などで女優としても活躍するオム・ジョンファ。共演は「殺人の追憶」のキム・サンギョン、「アジョシ」のソン・ヨンチャン。(KINENOTE)
あらすじ:ハギョン(オム・ジョンファ)は15年前の誘拐事件で幼い娘を失い、犯人が見つからない中、自らも長年情報を集めていた。事件の担当刑事チョンホ(キム・サンギョン)は、事件が公訴時効を迎えるにあたりハギョンのもとを訪ねるが、犯人逮捕を願っていた彼女は、やりきれない怒りをチョンホにぶつける。時効まで残り5日と迫ったその日、事件現場を訪れたチョンホは、そこに手向けられた1輪の花を見つける。現場の監視カメラを調べると、深夜に何者かが花を置く姿が映っていた。チョンホは、それらの手掛かりを元に捜査を再開。時効まであと数時間のところで犯人を視界に捉えるが、追跡も及ばず再び取り逃してしまう。結局事件は時効を迎え、責任を感じたチョンホは刑事を辞めることを決意する。そんな折、新たな誘拐事件が発生。その犯行の手口は15年前のものと酷似していた……。(KINENOTE)
監督・脚本:チョン・グンソプ
出演:オム・ジョンファ/キム・サンギョン/ソン・ヨンチャン/チョ・ヒボン/ユ・スンモク/ション・ヘギョン
子を思う心が殺人を正当化する
この作品の狂言回しは、キム・サンギョン扮するチョンホ刑事。いきなりネタバレしていくと、チョンホ刑事が担当してたハギョンの娘が誘拐されて殺されちゃう事件。つかまらずに時効になるまで逃げ切っちゃった犯人は、お爺さんです(名前忘れたのでA)。で、このお爺さん=A=ハギョン娘誘拐殺人の犯人が、犯人扱いされる誘拐事件の真犯人は、ハギョンです(ややこしい)。
なんでそうなっちゃうのかは、鑑賞すればわかります。この作品の優れているところは、子を思う親心があれば、犯罪を犯してもいいのか――ということを考えさせられるところだろうか。俺は親から生まれた子どもだが、自分に子どもがいないので親心はわからん。
わからんけども、自分の子どもを救うためなら罪を犯してもいいのだと言っているように聞こえるAの心情にはあまり共感できない。では、Aによって娘を失ったハギョンの行為に共感できるかと問われれば、共感はしないが気持ちはわからんでもない。
善悪の基準を知らないと、作品の意味がわからないかも
鑑賞して思ったのは、俺自身、かなり常識に塗れた人間だということだ。何がよくて何が悪いのか、その基準をしっているからこそ、ラストのチョンホ刑事の選択に、ある意味で溜飲が下がるのである。逆に、常識的な善悪の基準を知らないと、この映画の後味は悪いものの、それで良し、と思えるラストの面白味が理解できないだろう。明確な基準があるわけでもないのに、なぜか善悪には基準があることを示した作品と言えまいか。
悪魔はお前だ!
で、その基準を理解しているつもりの人間からすると、ラストの結末で自分の子どもが無事戻ってきたAの娘(B)は、Bを思ってその選択をしたAを、憎みながら生きていくだろう。そこがこの物語の哀しさである。AのBを思う愛情は、Bが自分の子を思う愛情にかき消され、真犯人たる親=Aを憎む感情に変わるのである。
しかし、仮にどこかの時点でBが、事の真相を知ったとしたら? Bはそのときにやっと、Aの自分に対する深い愛情に気付くことになるわけだ。しかし、それが訪れる瞬間はあるのかないのか。
ということで、冒頭に述べたようにこの物語、誰が悪魔なのかと考えると、全員が悪魔なのである。それはこの映画を鑑賞した俺もそうだ。常識的で事の善悪の判断をできると思っている人間も、実はいつでも悪魔になれるのである。ある特定の人物に対しての愛情深さによって。
善悪の彼岸に生きることはできるか
俺は自分が常識的かつ悪よりも善的な行為をするように育てられ、自分もその枠組みの中で生きていると思っているが、そもそもその枠組みの中の基準というのは曖昧なものだし、守り続けることが非常に面倒くさいものである。
だからたまに、善悪など関係ない世界を妄想してしまうのだが、そうした彼岸のことを考えること自体が、善悪の世界の中からしか考えることができない、まさしく抜け出せない妄想なのである。
実は2度目の鑑賞だったのだが、それを忘れてレンタルしてきてこの映画を観ることになった。途中でもちろん2回目の鑑賞と気付いてはいたものの、ラストのオチをさっぱりおぼえてなかったので、今回鑑賞したことで、前回以上に楽しむことができたなかなかの良作であった。
善悪を超えた言葉を獲得するために、みんな人間であることをやめよう。
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