マージン・コール
―2011年製作 米 106分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:大量解雇が始まったウォール街の投資会社で解雇対象となったエリックは、アナリストのピーターに意味深な言葉とUSBメモリーを託す…。ケヴィン・スペイシーほか実力派ハリウッド俳優共演で贈る、ウォール街崩壊の24時間を描いた金融サスペンス。監督・脚本はJ・C・チャンダー。2014年2月15日より、東京・新宿シネマカリテにて開催された[オト カリテ Vol.4]として上映。(KINENOTE)
あらすじ:2008年、ニューヨーク。ウォール街の投資会社で大量解雇が始まった。解雇対象となったエリックは、アナリストのピーターに「用心しろよ」と意味深な言葉を残しUSBメモリーを託す。原子物理学の博士号を持つピーターは、その部署でリストラから生き残った数少ない1人だった。その夜、エリックから引き継いだデータを調べるピーターは、会社倒産をも招く危機的事態に気付き上司のサムに報告すると、深夜、緊急の重役会議が開かれることになる。8兆ドルもの資産の命運を左右しかねない状況で、彼らは経済的・道徳的にも崖っぷちに立たされることになっていく。決断の時は、刻一刻と迫ってきていた…。(KIENOTE)
監督・脚本:J・C・チャンダー
出演:ケヴィン・スペイシー/ポール・ベタニー/ジェレミー・アイアンズ/ザカリー・クイント/サイモン・ベイカー/デミ・ムーア/スタンリー・トゥッチ/ペン・バッジリー
ネタバレ感想
リーマンショックのきっかけとなった出来事をもとにした物語らしい。
俺は株とか積立保険とかやってるくせに、正直なところ金融関係の知識がほとんどない。なので、この手の作品の専門用語とかを鑑賞後に調べてみたりはするものの、まったく理解が及ばず知識が身につかぬ。この映画のタイトルも、その意味をぜんぜん覚えられないくらいのアホだ(笑)。
それだけ自分には合わない世界なんだってことが言いたいんだけども、じゃあこの手の映画作品がつまらないかっていうと、専門知識がなくても理解できるようにはなっているので、楽しめた。
この作品は物語展開がうまいのか、会社のCEOであるジョン(ジェレミーアイアンズ)が登場するまでの緊迫感がけっこうすごい。あるリストラ騒動が起こった当日から翌朝までの出来事が描かれていて、冒頭は下っ端社員のピーター(ザカリークイント)の視点から話が進むので、こいつが会社の危機を救う大味な話なのかと思ってたら、すぐにその上司のウィル(ポールベタニー)が出てきて、ピーターではなくこいつが主人公なのかなと思わせておいたら、さらにその上司のサム(ケビンスぺイシ―)が出てくる。
群像劇ってわけではないんだけど、序盤から中盤くらいはこうやって目まぐるしく視点が変わるような描写が続いて、その緊張感がいいのだ。どうして緊張感があるのかというと、これって最上階のボスを倒すべく、塔を下層階からレベルをあげつつ上に進んでいくゲームのような感覚を味わえるからかもしれない。
下級社員のピーターがリストラされた上司から託されたデータを解析。その内容が会社の今後に関わるような大それたものだったので、困ったピーターは、リストラされた上司の上司だったウィルにそれを報告。事の重大さを悟ったウィルが上司のサムに報告。事の重大さを悟ったサムが上役に報告(笑)。
次々に大物が現れてきて、ピーターたちの存在感が薄くなっていき、最後に登場する大ボスの前には、サムの上役たちもかすんでしまうのだ。でも、サムは大ボスであるジョン社長に対しても存在感を失うことなく、物語で重要な役を占める。で、この時点では、ウィルはもういてもいなくてもいいような感じになってくるんだけども、一応、サムを尊敬して仕事をしているらしいので、ラスト近くにそれなりの存在感は示す。
ピーターも途中で消えたも同然になるけども、ラストでなんと昇進を果たすことになるため、それなりの存在感は示す。ピーターと冒頭からずっと行動を共にしてた若者は、最初からいてもいなくても良かったような感じ(笑)。
基本的に、役職が上になればなるほど人間的な倫理観を失っている人たちのように見せている演出がなかなかうまい。でもそれは登場時にそう見えるだけで、物語を追っていくごとに、社長以外の人間にはそれなりに良心がなくもないことは、見て取れる。ピーターはリストラされた上司とのくだりを見るに、もともと人間味があったように見えたのに、ラストは昇進しちゃっているところはなかなか皮肉だ。
ウィルは最後までどっちだかよくわからん人間だ。というか、リストラされたピーターの上司は、ウィルの部下のはずなのに、冒頭のシーンで何であんな上役っぽい部屋をあてがわれてたのに、何でウィルは他の平社員と一緒に同じフロアで働いてたんだろうか。あの描写のせいで、途中まで俺は、ウィルがリストラ上司の部下かと思っていた(笑)。
で、肝心のサムはというと、愛犬とともに暮らしてて、この愛犬が病気で死にそうなのをメチャクチャ悲しんでいるのを見るに、根は善良なんだなとわかる。あとは、部下思いでないこともないし、会社に対する忠誠もないこともなく、もちろん仕事もできるので、中間管理職としてはなかなか有能な奴だ。
しかし、投資会社の仕事ってのは成果主義であり、実力主義であり、会社に必要ないと思われたらリストラされる冷酷な世界。そこで30年以上にわたって生き残ってきたということは、もちろん一筋縄ではいかない奴なので、やっぱりいい奴なのか悪い奴なのかよくわからん。
部下にはもとから関心がないようで、下っ端の名前すら覚えてない。言葉は持っている人間なので、リストラ騒ぎの後に部下たちを鼓舞することはできるものの、心から部下を奮い立たせようってわけではなく、テクニックなのだ。仕事のうえでの人間関係を良好にしようと意図しているものではない。
でも、そうやってサムを腐してみると、自分だって仕事のうえというかプライベートも含めてそんなにいい人間かって考えるにそうでもなくて、善悪の基準なんてそんくらい曖昧なもんであり、この作品の登場人物たちも、ある意味で等身大の人間なのだ。
ところが、こと金融業界の話になってくると、金の力に惹かれて、リスクを背負ってでも稼ぎたい野心家たちのあつまりなので、どの登場人物も金になびいて自分の信念みたいなのを曲げてでも、会社に居座り続ける人が増える。それはサムもそうだし、最初にリストラされたウィルの部下もそうだ。そうやって良心の呵責や自らの信念すら心の奥に閉じ込められるのが、金の力ということだろう。そこんところを皮肉り、風刺しているのがこの作品だ。
ラストでサムが犬を埋めるのは、彼自身の信念や良心を埋めたってことなんだろう。
作品を通じて金融業界の無機質かつ冷酷な部分をディスってやろうと思ったし、実際そういう書き方をしてみたものの、よくよく考えてみたら、人間味がないという意味では働く上での自分もそうなのかもしらんと考えてしまって、なんだかよくわからん感想になった(笑)。
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