最強殺し屋伝説国岡 完全版
阪元裕吾監督が京都で最強と言われる凄腕の殺し屋、国岡という男の仕事の日々を追ったモキュメンタリ―作品。日常の中に殺し屋という職業が当たり前のように機能してる感じが新鮮だし、ユーモアも感じられる、なかなか楽しめる作品。ネタバレあり。
―2021年公開 日 93分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:「ベイビーわるきゅーれ」の阪元裕吾監督が、ある若き殺し屋の日常を活写。阪元監督は「ベイビーわるきゅーれ」のシナリオ作りのため、関西殺し屋協会から紹介されたフリー契約の殺し屋・国岡に密着取材。国岡の生活や殺し屋としての仕事にカメラを向ける。京都最強と言われる暗殺者としての一面だけでなく友人や恋人とごく普通の日常を送る国岡の姿を、ドキュメンタリー風に描く。阪元監督と同じく京都造形芸術大学映画学科出身で、阪元監督作常連の伊能昌幸、上のしおりらが出演。「最強殺し屋伝説国岡」は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019コア・ファンタ部門にて上映された。(KINENOTE)
あらすじ:2018年、女子二人組の殺し屋を描く新作映画「ベイビーわるきゅーれ」のシナリオに取りかかる阪元監督は、関西殺し屋協会という殺し屋ビジネスネットワークがあると知り、作品作りの参考にするため取材を申し込む。協会から京都最強と言われる23歳の殺し屋・国岡昌幸を紹介され、阪元監督は彼の密着取材を開始。笑って泣いて、恋をし、友人と酒を飲む、一般人と変わらないようなごく普通の日常を送る姿や、淡々と仕事をこなす殺しの日々を見つめる。ある日、国岡は依頼元との連絡ミスから違う人間を殺してしまう。逆上した依頼元はヒットマンを送り込み、さらに殺された人間の仇を討とうとする者たちが現れ、大殺戮の日々が始まる。(KINENOTE)
監督:阪元裕吾
出演:伊能昌幸
ネタバレ感想
Amazonでレンタルして鑑賞。本当は阪元監督の『ベイビーわるきゅーれ』が観たいんだけど、劇場に行く機会もなく、近所のレンタル屋には1本しか置いてなくて、いつも貸し出し中。配信でも見つけられないので観られてない。
同監督作品では『ある用務員』と『ハングマンズノット』をこのブログでも紹介したが、今作はそれらとは異なるモキュメンタリ―だ。リアルな世界では殺し屋稼業なんて、あるのか知らんし、あったとしても裏社会の話だろうから現実味はない。
その現実味のない職業を、ドキュメンタリーの手法を取ったフィクションで、当たり前の日常の中に溶け込んで生きる殺し屋の生態を紹介するという、何とも異色な感じの作品になっている。
現実には殺し屋なんて表の世界で大手を振って歩ける存在じゃない。しかし、この作品ではその裏社会の人間の稼業を表世界でも認知されているものとして描いていて、日常の延長の中に殺し屋がいるのである。そして、その世界がいかなるものかってのが分かるようになっている。
まず、こうした世界においても、殺し屋を雇うような人間ってのは、組織の長であったりするものらしい。実際、物語展開に大きく関わってくる依頼人は、ブラック企業の社長だし。さもありそうな感じだ。ところが他の依頼者はというと、けっこう普通の人間も多くて、そこを描いていることでこの作品からは、社会の闇の深さを感じさせられる。一方で、殺し屋稼業が社会に溶け込んでいる様子にユーモアすら感じられて、そこが面白いのだ。
例えば、物語冒頭の依頼人は子どもだったみたいで、仕事を終えた国岡に対して、親が依頼のキャンセルを求めてくるという(笑)。もうすでにターゲットは殺害済みなんであり、キャンセルも糞もないことを、国岡は大まじめに、ビジネスとして相手の親と話している様が、実にバカバカしい(笑)。しかも、話し合いで解決できずに裁判沙汰になっちゃうところがまた笑える。ラストで国岡が勝訴しちゃってるところもまた良い。
その他の仕事でも淡々と仕事をこなしていく国岡。その際に、依頼者がどういう人間であるかというのはあまり紹介がない。国岡も依頼者がどういう人間かとか、ターゲットがどんな人間かなどにはさほど興味がないようで、背景を知ろうとしない。確かに、背景がわかっちゃうと仕事がやりづらくなっちゃうだろうから、そういう対応になるのもわかる気がする。
ということで、ブラック企業の社長と伝説の殺し屋と言われるジジィ以外のターゲットは恐らく一般庶民であり、私怨のある人間が国岡に殺しを依頼しているのであろうことが想像できる。要は、嫌いな人間を自分の手を汚さずに金の力で抹殺できる世の中では、それを実行に移す人間がいっぱいいるであろうことを示唆しているのだ。おっかない。
一方で、国岡が関わる殺し屋の同業者やアイテム販売の人とか、殺し屋稼業周辺の人々は阪元監督らしい、外連味あふれる奴らばっかりで、国岡とこいつらの仕事後の飲み会とか、日常のかかわりが非常にユーモアがあって楽しめた。国岡とは別の殺し屋チームが、伝説の殺し屋ジジィ討伐に際する地雷原のくだりやジジィの屋敷に侵入するシーンなどは、実にアホらしくて笑える。
銃撃戦にはチープさを感じるものの、別にそれを悪いとも思わないし、チープな中で良く見せようという気概は感じる。そして、格闘アクションもけっこう迫力があって面白いので、同監督にはこの手の作品でもっともっと頑張ってもらいたい。
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