日々は、うたかたに
―2021年配信 土 97分―
あらすじ・スタッフとキャスト
あらすじ:イスタンブールの街で病に苦しみながら廃品回収を営む男は、小さな少年を保護する。男は少年の面倒を見始めるが、子供の頃の暗い記憶に心をむしばまれてゆく …(KINENOTE)
監督:カン・ウルカイ
脚本:エルジャン・メフメット・エルデム/チャガイ・ウルソイ/エミール・アリ・ドールウ/エルシン・アリジ
ネタバレ感想
ゴミ回収をする業者みたいなのを営んでいるメーメットが、ある日、少年を保護する。その少年=アリは継父に虐待されていたようで、母親が彼を逃がすためか、捨てるためなのか、ゴミ回収用のカゴに隠していたのだ。そのカゴをメーメットの弟分で業者で働くゴンジが回収所に戻してきたことによって、メーメットとアリは出会うことになる。
メーメットはアリの面倒を見ることにした。いつか母のもとに送り返してやろうとアリに約束するメーメット。いろいろあって、アリの両親が住む家をつきとめたメーメットは、自身の過去と向き合うことになりーーというのが適当なあらすじ。
なんとなく、ラストまで救われない話なんだろうなと思って観ていたら、やっぱりそんな感じの作品だった。
メーメットの弟分のゴンジが、回収業者間の縄張りを無視して空き瓶回収して諍いをおこすシーンを見て、俺はこのバカ野郎がメーメットを不幸にする要因になるのかと思ったら、そうではなかった。不幸になる要因はメーメット自身にあったのだ。
彼は幼少期にアリと同じように義父に虐待されていて、母親に逃がされてなのか、捨てられたのか、ともかく路上生活をしていた。その中で、ある男に拾われ、彼からゴミ回収をして生きる術を教わったらしい。その事業でそれなりに食えるようになったメーメットは、今度はその男に代わって路上生活者を従業員とする業者を営んでいるのであった。
彼は非常に近所の人との付き合いもよく、従業員からも慕われている親分肌の人間だ。要するに、いい奴なのだ。であるからアリのことも見捨てられずに生活の面倒をみてやるわけだが、アリのことをかなり溺愛している。あまりにも大事すぎるのでアリがふと姿を消すと、常軌を逸したように焦り出して、周りがみえなくなっちまう。
まぁともかくそんな感じのメーメットは何とかアリの母親を捜そうとするのだが、彼を救ってやった男=オヤジとゴンジはそれを止めるのだ。しかし、メーメットは言うことを聞かない。自分の腎臓移植のために貯金していた金を使ってまで、アリを何とかしてやろうとする。そして、それを止めようとするオヤジに対して、「あんたは俺の母親を捜すといって、捜してくれなかったじゃないか」と言うのだ。
そう言われちゃったらオヤジのほうは何も言えない。仕方なくメーメットを止めるのを諦める。でまぁ、最終的に判明するのは、メーメットは普段はまともでイイ奴なんだけど、精神が少しイカれちゃってて、妄想の世界に入ってまう奴だったということだ。
つまり、アリはこの世にいないのだ。メーメットの妄想の中で生きていた幻なのである。そういうオチを目にすると、それまでの違和感あるシーンがどういう意味を持っていたのかも理解できる。たとえば、アリがメーメットの前から突然姿を消してしまったりするのは、幻だったからなのである。
町の人が彼に親切なのは、彼が善人であることだけではなく、ちょっとおかしな言動をする、哀れな人だったからという、同情心もあったのかもしれない。路上生活していた子どもたちは、おそらくメーメットを変なおじさんで、金をせびれる人ーーくらいに思っていたのではないか。
メーメットがアリを溺愛していたことは、ある意味、彼が自分を溺愛していたと考えることもできる。そして、自分で自分の心を救う、もしくは心のバランスを保つために、ありもしない幻をつくりあげていたようだ。
その幻に翻弄された彼は、持病を治せるところまで来ていたのに、それを放棄して結局は路上で死んでしまう。何とも悲惨な生涯でありますな。
なかなか救いのない話ではあるが、短くまとまっているし、ラストの展開にも驚かされて、なかなかに楽しめた。
トルコのイスタンブールが舞台になっているところもよい。コロナ禍がなければ、2020年に旅行に行くはずだった町なので、そこを映像で見れたのはよかった。トルコはいつか、必ず訪れてみたい国だ。





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