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映画 銃 ネタバレ感想 中村文則のデビュー作がモノクロ作品に

銃
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昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない――確かこんな書き出しで始まる芥川賞作家、中村文則のデビュー作。モノクロ描写がマッチした暗い話だが、原作同様に楽しめる。記事後半は個人的な雑談。ネタバレあり。

―2018年公開 日 97分―

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解説とあらすじ・スタッフとキャスト

解説:芥川賞作家・中村文則のデビュー作を「百円の恋」の武正晴が映画化。大学生のトオルは、男の死体と共に放置されていた拳銃を拾い、アパートに持ち帰る。トオルは銃に魅了されていくが、テレビで遺体発見のニュースが流れ、ひとりの刑事がトオルを訪ねてくる。出演は、「武曲MUKOKU」の村上虹郎、「巫女っちゃけん。」の広瀬アリス、「万引き家族」のリリー・フランキー。(KINENOTE)

あらすじ:雨の夜、大学生の西川トオル(村上虹郎)は、河原でひとりの男の死体と共に放置されていた拳銃を拾い、自宅アパートに持ち帰る。銃を手に入れたトオルは、大学生活の心的様相も変わっていく。トオルは、悪友のケイスケ(岡山天音)に誘われた合コンで出逢った女(日南響子)と一夜を過ごす。翌朝、目覚めると女がトーストを焼いていた。あの銃と関係する男の遺体が発見されたというニュースがテレビで流れる。途端に気分が悪くなったトオルに、女は優しく接する。その日以来、トオルは頭の中で彼女をトースト女と呼び、セックスフレンドとして性欲を吐き出すようになった。時折、アパートの隣の部屋から、子どもの泣き声と我が子を罵倒する母親(新垣里沙)の声が聞こえる。トオルは親との忌まわしい過去がよみがえり、大音量の音楽で打ち消そうとする。大学の学食で、以前も講義中に話しかけてきたヨシカワユウコ(広瀬アリス)と再会する。トオルは彼女と付き合うことを妄想し、すぐにセックスをするのではなく、あえて時間をかけて親しくなることを計画する。トオルはヨシカワユウコとトースト女の間で、自分なりのバランスを取っていく。トオルは日々銃に惹かれていき、カバンに入れて持ち歩くようになる。その刺激は、さらにトオルを高揚させていく。ある日、刑事(リリー・フランキー)がトオルのアパートを訪れる。刑事はトオルと銃のことを知っているようだった。刑事が部屋に入るのは阻止するが、喫茶店で尋問を受ける。刑事からある言葉が発せられたとき、トオルは後戻りできない場所に踏み出していくのだった……(KINENOTE)

監督・脚本:武正晴
原作:中村文則:(『銃』(河出書房新社))
出演:村上虹郎/広瀬アリス/日南響子/中村有志/リリー・フランキー

ネタバレ感想

モノクロからカラーへ

2018年に公開してたけど、なかなかタイミングが合わなくて観られなかった作品。もともと原作がすごい好きで、その辺の話は映画とあまり関係ないので後述。ともかく、ほぼ全編モノクロで繰り広げられる暗い雰囲気のある内容。これは原作がそういう暗く重たい雰囲気のある作品なので、そこにマッチさせた演出なんだろう。

であるから、ラスト、カラーになって描写される結末の凄惨さと取り返しのつかない運命の重苦しさが際立つ。主人公のトオルは一見普通の青年だが、内面に暗いものを抱えている。彼にとって人生は何も意味のないものだ。

外見がいいからか結構モテるので、女には事欠かない暮らしをしているが、その付き合い方は普通ではない。ほぼセックスのみ。相手の名前すら覚えようとしない。唯一、美人で性格もいいヨシカワユウコに対しては、ごく一般的な接し方をする。しかしそれは、彼にとってはゲームのようなものだ。つまらない日常に彩を与えるための、単なる遊びにすぎない。

とはいえ、最終的にこのユウコは、トオルの人生に光を与える存在になる兆しを見せ始めるのだが―ーそうはならない。

トオルは幼い頃、親に捨てられて施設で暮らし、里親に引き取られた過去があるらしい。そうした自分の暗い過去が彼の性格を厭世的というか、空っぽのような人間にしているようだ。しかし、銃を手にしたことで彼は自分の過去を清算するための手段として、隣家で幼児虐待をしている女を撃ち殺そうとする。

だが、けっきょく彼は引き金をひくことができない。このシーンは原作でもそうなんだけどもとても重要な場面で、彼は自分の背後にあるこれまでの過去を、引き金を引けなかったことで清算するのだ。だからこそ、「生きることに意味なんてないが、死ぬまで生きることに決め」るのである。

通常なら一人の青年が成長して生きる術を見出す物語としてここで完結してもいいのだが、この作品ではもう一つエピソードを挿入することで、絶望的な結末を迎えることになる。だが、そこがいい。

中村文則の初期作品が好き!

てなことで、原作を忠実に再現している内容で、原作ファンとしても楽しめた。原作は主人公の心理描写がつづく作品なので、素人目には映画では再現できそうにない部分が多いからどうなるかと思ったが、その辺の描写も特に薄さを感じず、とてもいい内容に仕上がっていると思った。

そういえば冒頭でヨハネの黙示録の内容が引用される。中村文則の原作にも確か、この引用があった。他の初期の作品でも彼は確かサルトルだったかの作品から引用をしていたと思うが、彼の引用は何の効果があるのか俺にはよくわからない。なぜなら、俺には全く理解できないフレーズだから。まぁでも、作者本人やわかる人にはわかるんだろうね。

俺は原作者の中村文則の初期作品が結構好きで、特にこのデビュー作の『銃』そして2作目の『遮光』『最後の命』『何もかも憂鬱な夜に』の4作が大好き。芥川賞受賞作の『土の中の子供』や、売れっ子作家になるきっかけとなった『掏摸』、そしてそれ以降の最近作は読んでいるものもあるし、そうでないのもあるけど、あまり好きではない。

彼の作品は、やっぱり初期の、ネチネチと己の内面と葛藤している主人公の物語が好きなのである。最近のは大分社会派になってきて、エンタメ要素も強くそれはそれですごいし、大作家になったなぁと思うけど、俺は好きではないのである。そんなのどうでもいいことだが。

個人的な蛇足話

で、蛇足ついでに。彼が『銃』で新潮新人賞を受賞した頃、俺は確かニート1年生だった。それで、小説を書いていたのだ。今読み返すと、とても小説と呼べる代物ではない黒歴史なんだけども、ともかく思いつくことを描き続けて、とりあえずの完結を見せた物語をつくりあげたのと同じころに、中村氏がデビューを果たしたのだ。

読んで、すごいなと思った。こんなん書かれたら、悔しいが自分の小説なんて糞だと思った。俺もこの物語と同じように、主人公があることをきっかけに成長する物語を書いたのだ。

しかし、レベルがまったく違った。俺は糞みたいな内容の自分のそれを、単なる成長物語とせずに、自分の本質に触れるような要素(それはこのブログの時間移動作品の感想でよく話題にする、固有の存在についてのこと)も込めて書き直したが、やっぱりいいものにはならなかった。

一応、文芸誌の賞に送ったけども、箸にも棒にもかからなかった。それでも、今となっては良い思い出だ。自分の書いたもので、自分を啓発するという得難い体験をしたので。

中村氏の『銃』はともかくすごかった。これが小説だと思った。あの当時、同じような成長物語に限定して言うなら、俺が感銘を受けていたのはサマセット・モームの『人間の絆』そして、村上龍の『限りなく透明に近いブルー』であった。中村氏の作品には、こうした大作家とは違う作風とアプローチで、同等かそれ以上の密度があるものを書いていると思った。翻って俺のは、スカスカのゴミみたいな内容だった。

てなことで、中村氏は俺と年も同じで、一方的ではあるものの俺にとっては縁のある作家なのである。本人ともプライベートで一度、お酒を飲んだことがある。俺の友人に、中村氏と知人の男がいて、彼が昔の友人らと中村氏と会うとのことなので、誘ってくれたのだ。その頃はもう俺もニートを卒業して働き始めてて、中村氏は芥川賞と三島由紀夫賞を受賞していた頃だった。

なんとなく、「ファンです」と素直に言うのがミーハーぽくて嫌だったので(笑)。ファンだというのは明かさずに普通に喋っていたが、飲みも終盤にかかったときに友人が、俺が中村氏のファンであることを告げてくれて、カバンに隠していた新潮社から出版された初版本にサインをしてもらった(サインはもらうつもりだったのかよw)。

――とどうでもいいことを延々と書いてしまった。『最後の命』はすでに映画化されてるので、できれば『遮光』か『何もかも憂鬱な夜に』も映画にならないかなぁ…。

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