残酷で異常
ホラーかと思ったらタイムループっぽい内容。地味ではあるが、最後まで楽しめる内容だった。ネタバレあり。
―2014年製作 加 95分―
あらすじ・スタッフとキャスト
あらすじ:犯していない妻殺害の罪を追求され、男は永遠に妻殺害の現場が再現される奇妙な建物に閉じ込められる。(amazon)
監督・脚本:マーリン・ダービズビック
出演:デヴィッド・リッチモンド=ペック/ベルナデッタ・サクイバル/ミシェル・ハリソン
ネタバレ感想
主人公のエドガーは妻のメイロンを愛しているが、かなり束縛気味。彼女にはゴーガンという連れ子の息子がいて、エドガーは彼のことをあまり好いていない。ゴーガンもエドガーになついていない。というより、母親が奪われてしまいそうだと不安に思っているし、そもそも彼に頼る生活を快く思っていない――というような情報は、物語冒頭でははっきりと判明していない。なんとなくそんな予感を漂わせているだけで説明がないのだ。
わかるのは、エドガーと彼女は知り合いのパーティに行ってて、その帰りにゴーガンが同級生に暴力を働き、行方知れずになっていること。そして帰宅後、エドガーの妻が死んでしまったこと。それだけだ。
序盤はエドガー一家の間に何か語られていない問題だけを予感させる。そして、もう一つ、エドガーは現実世界とは思えないような異次元的施設をさまよっている。
その施設には何人もの人間が収容されていて、グループセッションみたいなことが行われており、各々が自分自身の過去に犯した殺人を告白している。妻の死は自分の手によるものではないと信じているエドガーは、そのセッションへの参加を拒否。施設が自分に何をさせようとしているのか、そもそも自分のいる場所はどこなのか、突き止めようとするのだが、どうにも現実世界には思えない。
そして、あるタイミングが訪れると、彼はメイロンと帰宅途中だった車中のシーンに戻っていくのだ。ここでようやく鑑賞者は、この作品が単なるミステリーやホラーではなく、タイムループ作品らしいと気付くことになる。
あの異次元的施設はある意味では死者の国だ。そして、エドガーはあるタイミングごとに帰宅途中の時点に戻され、妻を殺害し、自分が妻に殺されるという体験を繰り返すことになる。そうやって何度も何度も時間を行き来することで、エドガーは自分がメイロンやゴーガンにどのような接し方をしていたのかを知り、自分が知ろうとしていなかった彼らの心情や、自分自身の人としての至らなさを知るようになっていく。
この作品の面白いのは、単に自分が愛する妻を殺し、そして殺されることになる苦しみを繰り返し味わい続けるだけではないところだ。それだけではなく、エドガーはあるときはゴーガンの視点になって彼の出来事を追体験したり、あるときは兄の視点でメイロンとやりとりをすることで、メイロンがゴーガンのことをどう思っているのか、真実を知ることになるのだ。そして、こうやっていろんな立場の人たちの苦しみを体験することで、エドガーは他者に対する共感力が増していく。
この他人の体験は、異次元施設の誰もが体験しているのだと推測できる。両親を殺した青年も、妻子を殺したアル中男もだ。つまり、自分が殺す体験だけではなく、殺した相手に憑依するみたいな形で、自分に殺される体験もしているのである。
こうして他者の記憶を体験することで、エドガーは自分がいかにクズ人間かを知り、妻を殺さないためには自分が先に死ななければならないことを悟る。
これ以降の展開は、施設にいたドリスという女性の協力を得ることになる。ドリスは自分を殺した罪を持つ人だ。そんな彼女の自殺をエドガーは止めることに成功。さらに、自分がそのままドリスの用意した自殺用ロープに首をくくって死ぬ。これによって、ドリスは現世の世界に生還。また、エドガーがメイロンより先に死んだことになり、メイロンが死ぬことはなくなる。
ラスト。異次元施設の中に、新入りが入ってくる。その新入りはエドガーのように、自分は誰も殺していないことを主張している。セッションの主催者は彼に座るように告げる。椅子を譲ってやったのはエドガーだった。エドガーはまだ施設にいるのである。
これはどういうことかと解釈するに、今度はエドガーが施設の誰かから自殺を止めてもらうことが必要なのだと思われる。それが成功したときに、彼はようやく、メイロンを殺さずにすむ世界に戻ることができるのだろう。ということを思わせて物語は終わる。
地味ではありながら、なかなか楽しめる作品であった。この作品は、罪人が贖罪するまでの過程を描いているように感じた。エドガーは自らが殺した人間がどのような心情を持って生きていたかを知ることで、贖罪の気持ちに目覚める。
つまり、クズ人間から普通の人に戻れた。おそらく、あの施設から脱出するには、贖罪の気持ちに目覚めて、施設の誰かを助ける行為が必要なのだと思われる。親殺しの青年とアル中はそこに気付けていないので、永遠に近い回数、自分が殺し、殺され続ける体験を味わうことになるだろう。
てなことで、ホラー的なミステリ作品かと思いきや、タイムループ的な贖罪ミステリーだった。よく考えてみるとタイムループ作品ってのは、個人の成長とか贖罪に関わってくる展開が多いのもうなずける。そうした物語展開に非常に利用しやすい設定なのだ。というか、いろいろ考えてみるに、そうでない展開の作品ってあったかなぁと思っちゃうくらい。時間移動系の作品好きなくせに、気付くの遅すぎ(笑)。
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