ゆきゆきて、神軍
太平洋戦争時、激戦区のパプアニューギニア戦から生き残った奥崎謙三は、彼の部隊で上官による兵隊の射殺事件が起こったことを知り、事の真相を究明すべくかつての部隊員たちを訪ね始める。そこで判明したこととはーーネタバレあり。
―1987年公開 日 122分―
解説とあらすじ・スタッフとキャスト
解説:己れをたった一人の“神軍平等兵”と名乗る奥崎謙三が、終戦後偽日もたってから二人の兵士を“敵前逃亡”の罪で処刑した元上官たちを訪ね、真相を究明する姿を追ったドキュメンタリー。監督は「極私的エロス・恋歌1974」の原一男が担当。(16ミリより35ミリにブローアップ。)2017年8月12日より公開30年記念として再上映。(KINENOTE)
あらすじ:1982年、兵庫県神戸市。妻・シズミと二人でバッテリー商を営む奥崎謙三は、ニューギニア戦の生き残りであり、69年に、死んだ戦友の怨念をこめて“ヤマザキ、天皇を撃て!”と叫んで天皇にパチンコ玉4個を発射した男である。奥崎はニューギニアの地に自分の手で埋葬した故・島本一等兵の母を訪ね、彼女をニューギニアの旅に連れていくことを約束した。奥崎の所属部隊・独立工兵第36連隊で、終戦後23日もたってから“敵前逃亡”の罪で二人の兵士が射殺された事件があったことを知った奥崎は行動を開始した。その二人の兵士、吉沢徹之助の妹・崎本倫子、野村甚平の弟・寿也とともに、処刑した五人の上官を訪ね、当時の状況を聞き出す。だが、それぞれ、処刑に立ちあったことは白状したものの、ある者は空砲だったと言い、ある者は二人をはずして引き金を引いたと言う。いったい誰が彼らを“撃った”のかは不明のままだった。さらに彼らは飢餓状況の中で人肉を食したことをも証言するのだった。やがて、二人の遺族は奥崎の、時には暴力も辞さない態度からか、同行を辞退した。奥崎はやむを得ず、妻と知人に遺族の役を演じてもらい、処刑の責任者である古清水元中隊長と対決すべく家を訪ね真相を質す--。一方、奥崎は独工兵第36部隊の生き残り、山田吉太郎元軍曹に悲惨な体験をありのままに証言するように迫る。そして--1983年12月15日、奥崎は古清水宅を訪ね、たまたま居合わせた息子に銃を発射、2日後に逮捕された。3年後の86年9月18日に妻・シズミが死亡。87年1月28日、奥崎は殺人未遂などで徴役12年の実刑判決を受けた。(KINENOTE)
監督:原一男
出演:奥崎謙三
ネタバレ感想
奥崎謙三の個性に度肝を抜かれる
昔から存在は知ってたんだけど未鑑賞で、最近、本作の原一男監督が『水俣曼荼羅』なる新作を出したそうで、それに乗じて話題にあがることが多くなった本作をようやくレンタルで鑑賞。
奥崎謙三なる人がいたことすら知らない、まったく予備知識もなんもない状態で観た。観た結果、これはすごいと思った。作品もすごいんだが、この奥崎なる男の苛烈さに驚き、その個性に度肝を抜かれたのである。
まさに人を食ったような男で、人を殺したり、天皇にパチンコ玉を撃ったり、ともかくやってることがメチャクチャの特攻野郎。ところが、この作品を観ていると、彼にも自身を突き動かす信念があることがわかるし、やってることは犯罪まがいだったり、犯罪そのものだったりするんだけども、やっていることに正義があると信じて疑わない。
そして、今作を観ていると、やり方はともかく、彼が暴こうとしている真相には正義を求める気持ちがあるのがわかってくるのだ。
彼が正義の気持ちでやってるかどうかはどうでもよくて、彼が過去の上官たちを訪ね歩いては当時の真実を話させようとするその過程の中で、戦争というものの持つ恐ろしさや、その渦中にある組織における命令がどのように機能していくのかなど、組織の持つ妖怪じみた理不尽な機構が垣間見えてくる。
そして、その中に生きた人々の行動のすべてが善悪で論じられるようなものではない一面があることに、背筋が凍るような気持ちになるのである。
アナキスト奥崎
奥崎なる人物が物語冒頭、知人の結婚式の媒酌人として発言する内容には、アナキスト的な匂いがプンプンしてくる。調べてみると、なるほど実際彼はアナキストだったようだ。
その発言が笑える。例えば新郎の過去の犯罪歴を式の場で暴露しつつ、自分の犯罪歴も述べたうえで、こういうのだ、「世界中の国家というものは、人間を断絶させるもんだ」「人類を一つにしない、障害だと思っています。国家というものは、一つの壁。ま、さらに言えば、家庭もそうだと思っています」一同ドン引き。
新婦なんて下向いちゃって青ざめてるんじゃないか。しかし、冒頭からこんな感じでこのオッサンは笑わせてくれちゃう。常人だったら式の場でこんなこと言えないからね。
コメディにも見える
スタートからこんな感じで、自ら頼むところの信念に基づき、彼は過去、戦場で起こった上官による部下2名の射殺、およびそれが何の目的であったかの事の真相を突き止めようと奔走する。
その調べは苛烈で、相手を蹴っ飛ばすなんて普通。時にはマウントポジションとってこぶしを振り上げる始末。人の家に土足で上がり込んで暴力をふるっちゃうその姿に呆気にとられちゃうんだけども、その様が笑えるのだ。
誰を相手にしたときか忘れたけど、結構最初のほうの訪問先で、相手に食ってかかる奥崎は、逆に相手に柔道技で投げられちゃうシーンなんかもあって、マジでコメディ。
この人を食ったような男が、まさに戦争の部隊の中で人を食っちゃうという食人パワハラ事件が起こっていたことの真相を暴いていくその様はともかく上記のようにメチャクチャで、最初は同行してくれてた射殺された2名の遺族たちも、彼の常軌を逸した追及にドン引きしたのか同行をしなくなってしまう。
じゃあどうするのかっていうと、あろうことか奥崎は自分の奥さんと知人のアナキストを引き連れて、昔の上官たちの邸宅に乗り込んで行っちゃうのである。シリアスなんだけど、マジで笑える。
てなことで、ともかく破天荒かつメチャクチャな男で、お近づきにはなりたくないが、犯罪者ではあるものの、何かの魅力を感じる存在で、昭和にはこんなパワフルな人間がまだいたんだなぁと思うと同時に、こんなドキュメンタリー、今では撮影できねぇんだろうなとも思うのである。まぁ、こういう人物自体が現代にはいそうもないんだけどね。
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