Saltburnソルトバーン
名門大学に入学したオリヴァーは友だちができずに暗い学生生活を送ってたが、あることをきっかけに貴族階級のフィリックスと知り合い、夏の間は彼の一家が住む豪邸に邪魔することになった。内心に忸怩たるものを抱える青年が、自分の知るものとは桁違いの生活環境で過ごす中で起こる異様な物語。ネタバレ感想。
―2023年配信 米 127分―
解説・スタッフとキャスト
解説:アカデミー賞受賞監督エメラルド・フェネルが送る、特権と欲望を描いた美しくも毒のある物語。オックスフォード大学に入学したオリヴァー・クイック(バリー・キオガン)は大学生活になじめないでいた。そんな彼が、貴族階級の魅力的な学生フィリックス・キャットン(ジェイコブ・エローディ)の世界に引き込まれていく。そしてフィリックスに招かれ、彼の風変わりな家族が住む大邸宅ソルトバーンで生涯忘れることのできない夏が始まった。(Amazon)
監督・脚本:エメラルド・フェネル
出演:ロザムンド・パイク/キャリー・マリガン/アーチー・マデクウェ/セイディ・ソヴラル/バリー・コーガン/ジェイコブ・エロルディ/リチャード・E・グラント/リース・シェアスミス/ロリー・アディフォープ/アリソン・オリバー
ネタバレ感想
アマゾンプライムで鑑賞。なかなかにイカレた内容でありましたな。そこがいいんだけど。
主人公のオリヴァーは受験を突破して見事オックスフォードに入学。頭はいいけども、先生どもは学力よりも、学生の家柄みたいなのを重視するようなアホばかりで彼の学力を褒めたりはなしない。
オリヴァーは大学デビューを狙ってたっぽいが、ずっと友人がいなかったように見受けられる地味な感じだし、周囲は貴族階級出身のボンボンばかり。自分みたいな庶民とは生きてきた環境が違う奴らで、相手にしてくれないから、ぜんぜん友だちができねぇ。唯一できが数学オタクみたいなやつはすげぇ付き合いづらいので、本当は一緒にいるのが嫌だ。みんなの人気者でキラキラしているフィリックスと友だちになりてぇーーってな感情が序盤のシーンで見て取れる。
気持ちはわかる。俺が二十数年前通ってた大学は付属高校がいっぱいあったので、入学してみたらその付属アガりの奴らがたくさんいて、入学時、すでにみんなが友だちみたいに和気あいあいしてるのを見て、愕然としたことがある
すでに出来上がってるグループに後から入るのって簡単ではないし、実際に俺は入ら(れ)なかったので、卒業するまで友人は少ししかいなかったからね(自慢にならない)。オリヴァーと境遇は違うとはいえ、自分が入るスキのない集団しかないから、この先ずっと一人で過ごさなきゃなのかもーーみたいな、あの絶望感はちょっとはわかるのである。
さらにこの序盤のくだりだけで、オリヴァーはそんなに性格がいい奴ではないこともわかる。いろいろあって、フィリックスのグループに溶け込むチャンスを得て以降は、一緒にいた数学オタクをあっさり切り捨てちゃうからね。なかなか露骨な切り方ではあったが、俺もああいうひどいことしちゃったことあったかもなぁなんて、胸がチクチクしてしまうのであった。
で、この物語はオリヴァーがフィリックス家に夏の間だけ居候するようになってからが本番。フィリックスの一家は上級国民だけあって、庶民とは全然違う環境と感覚で生活をしている。環境が人を育てるなんていうが、フィリックス一家は本当に変だ。特にロザムンドパイクが演じるフィリックスの母親は、厚顔無恥でめちゃくちゃ嫌なやつーーに見えるんだが、どうやらああいう言動が普通らしい。
要するに庶民の考える人間関係とは別の次元で生きているように見える。親父のほうも親父で、英国紳士っぽくふるまってて、実際そうなんだろうけども、そうであるがゆえに偉そうだし、召使は召使としてしか見てないとか、その階層に生きてきた人間特有の目線で、人を見下してるような感がある。
フィリックスのイトコはアホなのでどうでもいいとして、姉はメンヘラっぽいし、フィリックスは確かにいい奴で人に対する偏見もそんなになさそうだが、育ちの良さからくる朗らかさかなんなのか、他人の扱いが雑。自分が気に入れば良くしてあげるけど、一度嫌なところ見つけてしまったらすぐに関係をご破算にしちゃう。オリヴァーの前に気に入ってた友人も、そんな感じの塩対応で縁切りしちゃったみたいだからね。あと、女性の扱いもおんなじ。
で、案の定オリヴァーに対しても同じような結末を迎えるんだが、一つ異なるのは、彼に次はなかったということ。死んじまうからね。まぁでも、オリヴァーは自分の父が死んだとか、嘘ついてまでオリヴァーと友だちになろうとしてたことが発覚するわけだから、フィリックスが縁切りをしたくなっちゃうのもわからんでもない。
わからんでもないけど、なぜ彼がオリヴァーを家に住まわせようと思うほどに奴に魅力を感じたのか、そのへんがようわからん。自転車を貸してくれたからか、自分には想像できないくらいに悲惨な境遇でオリヴァーが生きているように感じたからか(オリヴァーの嘘なんだが)。もしかしたら、ヘンテコな奴だから、ペットを家に招き入れるような感覚でオリヴァーを呼び込んだのかもしらん。
というわけで、フィリックスの家族はどいつもこいつも庶民の目で見ると変な奴らだし、パーティばっかしてる貴族的生活についても、特にうらやましいとは思えず、そこにいるどいつもこいつも、同じ人間とは思えない感じ。
大して知識があるわけでもないのにそんなこと言うのはどうかと思うが、貴族ってのは、ああいうものなのだ。受け継いだ財産によって金がうなるほどあって、働く必要がないから、勉学やスポーツに入れ込むことができるし、旅行もできるし、社交と称してパーティばっかりして暮らせるのである。
オリヴァーは、そうした暮らしに魅力を感じたみたい。なぜなのか。彼が嘘をついてまで両親と疎遠でいる自分を演じたのはなぜなのか、よくわからん。両親はけっこうまともそうに見えたんだけどねぇ。ソシオパスなのかな?
いずれにしても、結果としてオリヴァーはフィリックスの家を乗っ取るような感じの結末を迎えるわけだ。しかし、それは最初から狙ったうえでのことのようには俺は感じなかった。彼が最初に目指したのはフィリックスと友人になること。
そのための策略を巡らせたのは間違いないだろうが、フィリックスの家に訪れて以降の言動は、そのたびごとに起こる事象に関して反応しているだけで、それが結果としてうまいことあの家を吸収していく結果につながったのだろうと思われた。
では彼がそうした行動を取ることになった原動力は何かと考えるに、それはフィリックスへの友情というより、それを超えた愛情ではないかと思われる。だって、風呂のお湯に混ざっているとはいえ、精液飲みたいと思うかね? 墓に入ったフィリックスを想って、墓のうえで自慰行為できますかね? それが愛といえるのかはようわからんが、オリヴァーはそういう奴なのだ。
もしかするとオリヴァーは自分がフィリックスになりたかったんではないか。自分が彼に代わりたかったのだ。と、考えると彼を愛していたというよりは、歪んだ自己愛のようにも思えるが、まぁでもその辺はどうでもいい話ですわな。
ということで、何とも言えん、共感できない人々がたくさん出てくる怪作でありました。
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